エピローグ『旅立つロックバンドと、親子の絆』
真紅郎の提案でライブをすることを決めたライトさんとエイブラさんはすぐに準備に入り、なんと暗くなる前にはステージを用意してくれていた。
ステージでは俺たちのライブの前にボディビル大会や料理対決が催され、ウォレスが出場している。当然、ボディビル大会にだ。
いきなり始まった祭りだけど観客はすぐにステージ前に集まり、大盛り上がりしている。
ステージの上での催しが終わり、祭りのラストを飾るのはもちろんーー俺たちRealizeのライブだ。
「久しぶりのライブだな」
「ハッハッハ! テンションが上がってきたぜ!」
「そうだね。今日は思う存分ライブしよう!」
「……楽しみ」
「きゅー! きゅー!」
久しぶりのライブにテンションが上がっているのは俺だけじゃなく、ウォレスは気合いが入っているのか雄叫びを上げ、やよいはニコニコと笑みを浮かべ、サクヤは今にもステージに飛び出しそうなほどウズウズし、キュウちゃんが楽しそうに尻尾をブンブンと振っている。
そんな中、真紅郎はステージ袖から観客たちをぼんやりと見つめていた。
「……真紅郎? どうした?」
「……え? あぁ、ごめんごめん」
声をかけると我に返った真紅郎が苦笑し、またジッと観客を見つめながら口を開いた。
「やっぱり、ライブって最高だよね」
「ヘイ、真紅郎! 何を今更言っているんだ?」
「いや、改めて思ったんだよ」
そう言って真紅郎は頬を緩ませる。
「音楽はあらゆる人を魅了する。そこに嘘や偽りはない……だからボクは、音楽が大好きなんだ」
嘘ばかりで騙し騙され合いを繰り広げている人たちに囲まれ続けた真紅郎が、行き着いた先。それは誰もが楽しみ熱狂する、嘘偽りのない本当の想いが詰まった音楽という世界。
真紅郎は楽しそうに、嬉しそうに笑みを深めた。
「やっぱり、ボクは音楽が好きだ。元の世界に戻っても、音楽をやりたい。Realizeのみんなとーー」
真紅郎は魔装を展開し、ベースを構える。
そして、俺たちの方に顔を向けた。
「さぁーー行こう! 楽しい音楽の時間だよ!」
珍しく、真紅郎が率先となってステージに向かう。
俺たちは顔を見合わせて笑い合い、真紅郎の後を追ってステージに走り出した。
観客は俺たちの登場に爆発したように歓声を上げる。一気にボルテージが上がった観客に向かって、マイクに声をぶつけるように叫んだ。
「ーーハロー! レンヴィランスに住む皆さん! 俺たち、Realizeです! 今日は集まってくれてありがとう!」
ビリビリと俺の声が反響していく。だけど観客は俺の声に負けないぐらい盛り上がっていた。
「今日のライブが終わったら、俺たちはまた旅に出ます! だから今日のライブがこの国でやる最後のライブです!」
俺たちが旅に出ることに観客は残念そうにしている。それぐらい俺たちのライブが、音楽が聴けなくなることが嫌なんだ。そう思ってくれて嬉しいな。
「だけど、また俺たちは戻ってきます! それまで待ってて欲しい! いつか戻ってくるその時、また皆さんに音楽を届けたいと思います!」
俺の宣言に観客は歓声と拍手で答えてくれた。俺は嬉しくなってニヤリと笑みを浮かべ、観客に人差し指を向ける。
「今日は思いっきり盛り上がってくれ! 最初の曲は<Rough&Rough>ーー全員、踊れぇぇぇ!!」
曲名を叫び、演奏が始まる。
今回の<Rough&Rough>は原曲、ダンスナンバーの方だ。
横ノリの踊りやすいリズムでドラムとベースが始まり、そこに踊るようなギターとキーボードが曲を彩る。
「
Aメロを歌いながら俺は両手を上に持って行き、手拍子すると観客も俺の動きに合わせて手拍子して
くれた。どうやら最初にライブをした時のことを覚えててくれたみたいだ。
俺たちの演奏と、観客の心が重なる。想いを共有している。そこに嘘はなく、音楽を本当に楽しんでいる心しかない。
やっぱり、音楽は楽しいな。
「もちろん今夜はRough together! 騒げ! 踊れ! 笑え! 今しかないぞ」
ステップを踏み、手拍子。楽しさを全面に押し出し、踊り、騒ぎ、笑う。
「
サビを歌い終え、俺は演奏に合わせてジャンプした。
やよいや真紅郎、サクヤも同時にジャンプする。ウォレスはスティックを上に上げて叫ぶ。
俺たちのライブは、最後の最後まで止まることなく大盛り上がりのまま幕を下ろした。
そしてーー次の日。屋敷の前で集まった俺たちはライトさんとエイブラさんと顔を合わせる。
「もう行くのか。寂しくなるな」
ライトさんは残念そうに呟く。
俺たちは今日、このレンヴィランス神聖国から旅立つ。
次に向かうのは<シーム>という国だ。なんでも魔法を研究している国だとか……詳しくは真紅郎がエイブラさんに聞いてるみたいだし、後で聞いてみるか。
エイブラさんは優しい表情を浮かべながら、俺たち全員の顔を見つめていた。
「キミたちの旅は危険なものだ。王国の連中は諦めていないだろう。だが、キミたちなら大丈夫。私はそう信じている」
エイブラさんの言葉に俺たちは頷いて返した。
するとエイブラさんは真紅郎の方に歩み寄り、頭を撫でる。
「気をつけて行ってくるのだ。私はここで待っている。困ったらいつでも頼りなさい」
頭を撫でられた真紅郎は噛みしめるように目を閉じると、満面の笑みで口を開いた。
「はい! ありがとうございます、
その瞬間、時間が止まった。
今、真紅郎はエイブラさんのことを父さん、って呼んだ……?
目を丸くして驚いているエイブラさん。そして、自分が言ったことを徐々に理解した真紅郎の顔がどんどん真っ赤になっていく。
「し、真紅郎……今、私のことを……?」
「あ、いや、その、違うんです……い、今のは間違えたというか……本当の父さんみたいだなって思ったというか……ッ!」
耳まで真っ赤になった真紅郎はズザッとエイブラさんから距離を取り、しどろもどろになりながら言い訳している。
だけど話せば話すほど深みにはまっていき、最後にはーー。
「ーーす、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!?」
叫びながら走り去ってしまった。
取り残された俺たちは呆然と真紅郎を見送る。というか、あんなに取り乱している真紅郎は初めて見た。
「クッ、ハハッ、ハハハハハッ! そうか、父さんか! そうかそうか!」
エイブラさんは真紅郎に父さんと呼ばれて嬉しかったのか、腹を抱えて大笑いする。
一頻り笑ったエイブラさんは、俺たちに頭を下げてきた。
「ーー私の息子を、どうか頼んだ」
まるで本当の父親のように真紅郎のことをお願いしてくるエイブラさんに、俺は口角を上げて答えた。
「当然です! だってあいつは俺の……俺たちの大事な仲間ですから!」
俺の答えにエイブラさんは笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだな。キミたちならきっと、どんな困難でも乗り越えられる。さぁ、行ってきなさい」
「はい! 行ってきます!」
俺たちはエイブラさんとライトさんに見送られ、真紅郎の後を追った。
早いところ追いついて、存分に真紅郎のことをイジってやらないとな。そんなことを思っていると、サクヤがチラッとエイブラさんの方を見ながら呟いていた。
「ーー父親、親子……ぼくにも、いるのかな?」
サクヤの独り言は風の音に消えていく。
聞こえたのは多分、俺だけだろう。
俺はその独り言に何も答えることが出来なかった。
こうして、俺たちはレンヴィランス神聖国を旅立ち、次の国に向かうのだった。
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