エピローグ『旅立つロックバンドと、ストーカー』
お祭り騒ぎが終わった次の日。まだ夜明け前の時間帯に俺たちは旅の準備を終えてユニオンに来ていた。
いつマーゼナル王国からの追っ手が来るか分からないから、すぐに旅に出なきゃいけない。少し慌ただしくなったけど、早いとこ次の目的地に向かわないとな。
「アレヴィさん、色々とありがとうございました」
「あぁ。いつでも戻ってきな。私も、この街の住人もあんたたちが戻ってくるのを待っているよ」
アレヴィさんはそう言って優しげな笑みを浮かべる。
短い間だったけど、色々とお世話になったからな。いつか恩返ししに戻らないと。
「あぁ、あんたたちのライブハウス、だったか? あれは私の方で管理しておくよ」
「はい、お願いします。自由に使ってくれて構いませんので」
俺たちRealizeのライブハウスはアレヴィさんが管理してくれるようだ。旅をしている間はライブも出来ないだろうし、好きに使って貰おう。
戻ったら凱旋ライブかな? それはそれで楽しそうだ。
俺たちは改めてアレヴィさんに頭を下げる。
「本当にありがとうございました!」
「私たち、またここに戻ってきます!」
「お世話になりました」
「ハッハッハ! 街のみんなによろしく言っておいてくれ!」
「……さよなら」
「きゅきゅきゅ!」
アレヴィさんは俺たちを見て、ニヤリと笑った。
「あぁ、いってきな! あんたたちの活躍、ここから期待しているよ! 私はあんたたちの味方だ。何かあった時は頼りにしてくれて構わないよ! あ、そうだ。新しい服を用意しておくから、楽しみにしてるんだね」
最後に真紅郎を見ながら言うアレヴィさん。真紅郎は苦笑いを浮かべながらサッと目を反らしていた。
さて、と。
「ーーいってきます!」
俺たちはアレヴィさんに別れを告げ、街から出た。
ゆっくりと昇る太陽が砂の大地を明るく照らし始める。まるで俺たちの門出を祝うように。
「うぇぇ……そう言えば、また砂漠を歩かなきゃいけないんだよね」
「はは、仕方がないよ。今日一日歩けば、砂漠を抜けるからそれまでの辛抱だよ」
「ハッハッハ! だらしねぇぞ、やよい! 気合いが足りねぇ!」
「……お腹空いた」
「きゅー!」
また砂漠を歩くことにやよいは憂鬱そうにうなだれ、真紅郎が元気づける。ウォレスは暑苦しいほどにテンションが高く、サクヤは腹の虫を鳴らし、サクヤの頭の上にいるキュウちゃんが元気よく前足を上げた。
そんなみんなに俺は苦笑し、前を見据える。
「あ、そうだ。ねぇ、タケル。次の目的地ってなんて言う国だっけ?」
やよいが次の目的地、俺たちが向かう国のことを聞いてくる。
俺はアレヴィさんから渡された手紙を読みながら答えた。
「えっと、<レンヴィランス>って国だな」
「たしか、水の国って呼ばれてるところだね。聞いた話だと、芸術が盛んな神秘的で美しいところらしいよ」
「ハッハッハ! そいつはいいな! オレたちの音楽も
「……水、魚、食べたい」
「きゅう!」
みんなが次の国に思いを馳せている中、俺は手紙の内容を読む。
手紙を書いたのは……ライト・エイブラって人みたいだ。
アレヴィさんの話ではレンヴィランスのユニオンマスターにして、貴族の人らしい。
そしてーーロイドさんの親友なんだそうだ。
手紙の文章でも「我がライバルであり親友であるロイドの弟子となれば、私が受け入れないはずがない。今すぐにでもこちらに向かわせろ。私は全力で歓迎しよう」と書かれていた。
どんな人なんだろう。分かんないけど、多分悪い人ではないはずだ。
そんなことを思いながら俺たちはレンヴィランスに向かって砂漠を進んでいた……んだけど。
「……おい」
俺はギロッと睨みながら振り返る。
そこにはある集団が俺たちの後をついてきていた。
「あん? どうした?」
それはーーアスワドを含めたアラン、ロク、シエンたちだった。
「どうしたじゃねぇよ! なんでついてくるんだよ!」
「はぁ? 別にてめぇについて行ってる訳じゃねぇよ! 俺はやよいたんについて行ってるんだ! 邪魔すんな!」
「うるせぇ! どっちにしても俺たちについて来てるじゃねぇか! 気持ち悪いから来るな!」
完全にやよいのストーカーと化しているアスワドに怒鳴る。
するとシエンが頭を抱えていた。
「……兄貴、さすがにオレもどうかと思うッス」
「俺も! もうこいつらとは関わりたくねぇ! 特にそこの女みたいな男とは!」
「……おで、兄貴についていく、だけ」
ロクは除くとしてアランとシエンはアスワドの意見に反対していた。
だけど、アスワドはそんなこと気にせずにやよいに近づこうとしている。
「俺はやよいたんから離れるつもりはない!」
「あ、あはは……」
困ったように笑うやよいを守るように間に入る。
こいつ、本当にレイ・スラッシュを喰らわせてやろうか……ッ!
「タケル、とりあえず放っておこうよ」
「オレは別にいいと思うぜ! 面白いし!」
「……反対。アスワド殴る。ぼく、アスワドぶっ飛ばす」
「きゅー……」
特に危害を加える訳じゃないから放置しようとする真紅郎。
面白いから気にしないというウォレス。
今にも殴りかかりそうなサクヤ。
呆れたように鳴くキュウちゃん。
俺はとりあえず……。
「来るなバカ! 全員、逃げるぞ!」
「わわっ! ちょっと、いきなり引っ張らないでよ!」
アスワドから逃げるためにやよいの手を引いて走り出す。
真紅郎はサクヤの手を引き、ウォレスは笑いながら一緒に走った。
「あぁぁぁぁぁ! てめぇ、タケル! 俺のやよいたんの手を握ってんじゃねぇ! 羨ましいぞこの野郎!!」
「はぁ……このバカ兄貴、どうしたらいいんだろう」
「兄貴ぃ……俺、嫌だってばぁ」
「……おで、走るの、苦手」
激怒したアスワドが追いかけ、シエンは呆れながらアスワドに続き、アランとロクも走り出した。
俺たちはアスワドたちから逃げながら、次の目的地ーー水の国、レンヴィランスに向かうのだった。
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