二十三曲目『激凍の幕開け』
「これで一勝一敗一分けだな」
そう言いながらアスワドは立ち上がる。
真紅郎とアランは真紅郎が勝ち。ウォレスとロクは引き分け。やよいとシエンはシエンが勝ち。
サクヤは……下っ端相手だからカウントしないでおこうか。
こうなると最後の決着は、俺たちにかかってるってことになるな。
「ーーんじゃ、やろうぜ?」
「ーーあぁ」
俺も立ち上がり、アスワドから距離を取る。
五メートルぐらい離れたところで俺は剣を構えた。
「じゃあ……行くぞオラァァァァ!」
シャムシールを構えたアスワドが一気に俺に走り寄ってくる。
俺も走りながらアスワドに近づいていった。
距離が徐々に詰められ、攻撃が届く範囲まで近づく。
「<フォルテ!>」
一撃強化の魔法を使ってから剣を振り下ろした。アスワドはシャムシールを横に薙ぎ払って対抗してくる。
剣とシャムシールがぶつかり合い、甲高い金属音が響いた。
一撃強化を使った俺は、シャムシールを折る気で振り下ろしたけど……アスワドはそのまま俺の剣を受け流す。
「ーーおらぁ!」
わずかに曲がっている剣身を上手く使い、俺の攻撃を受け流したアスワドは右の回し蹴りを俺の頭部を狙って放ってきた。
受け流されて態勢を崩していた俺は、そのまま逆らうことはせずに上体を前に倒して蹴りを避ける。
「ーーてあっ!」
アスワドの足を薙ぎ払うように剣を横に振るうも、ジャンプすることで避けられる。宙を舞ったアスワドはシャムシールを振り下ろしてきた。
俺は剣を薙ぎ払った勢いのまま背中を向けるように一回転し、空中にいるアスワドに後ろ蹴りを放つ。
上手い具合に蹴りは腹部に直撃し、アスワドは地面に向かって落下した。
「ーーナメんな!」
だけどアスワドは軽やかに身を翻して綺麗に着地する。
結果的に距離を取ったアスワドは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、今こそ手を取りかの者に凍獄の拷問を>ーー<アイシクル・メイデン>」
水と風属性の混合魔法、氷属性魔法を詠唱したアスワドは地面を思い切り踏んだ。
するとその足下から俺に向かって地面が凍り始め、そこから鋭く尖った氷柱が生えていく。
すぐに俺は剣身に紫色の魔力……音属性の魔力を纏わせて一体化させた。
「ーーレイ・スラッシュ!」
音属性の魔力を纏った一撃を、下から上に振り上げるように放つ。
音の衝撃波が向かってくる氷柱を砕きながらアスワドに向かっていった。
「ちっ……<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、今こそ手を取りかの者に凍獄の鉄槌を>ーー<アイス・ナックル>」
向かってくる衝撃波に舌打ちしたアスワドは魔法を使うと、右手がパキパキと音を立てて凍り始める。
「ーーどりゃあぁぁぁぁぁぁ!」
そして、アスワドは冷気を纏った拳を衝撃波に向かって思い切り突き出した。
ぶつかり合った衝撃波と拳。アスワドの冷気を纏った一撃は衝撃波をかき消し、周囲に氷の破片が散った。
「ーーやるじゃねぇか……面白くなってきたぜ」
氷の破片がついている拳を握りしめ、鋭い視線を向けてくるアスワド。
氷属性魔法……違う属性同士を混ぜ合わせる混合魔法はかなり難しいとされている。
それなのにアスワドはそんなの関係ないと言わんばかりにガンガン使ってきていた。
シャムシールを巧みに操る剣技。猫科の動物を思わせる軽快な動き。氷属性を操るその技量。
やっぱり、強いな……だからこそ、負けられない!
「ーー<アレグロ>」
素早さ強化の魔法を使い、氷を踏み砕きながらアスワドに肉薄していく。
「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、今こそ手を取り我が征く道を指し示せ>ーー<アイス・シャックル>」
アスワドはパキパキと猛スピードで地面を凍らせ、俺に向かわせた。
まるで波のように向かってくる氷に、俺は剣を振って斬り砕きながら前に突き進む。
一瞬で凍り付いた空気に白い息を吐きながら、前に、前に。
それを見たアスワドは楽しそうに笑い声を上げていた。
「クハハハハ! いいぜ、タケル! もっとだーーもっと俺を楽しませろぉぉぉぉぉ!」
呼応するように氷が俺を襲ってきた。
地面から蛇のように伸びてくる氷を剣身で受け止め、上体を低くして氷を滑りながら受け流す。
スケートのように氷を滑りながらアスワドに向かって突き進み、とうとう剣が届く距離まで近づくとアスワドはまた魔法を詠唱し始めた。
「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、仇敵の喉元に悲壮の刃を>ーー<アイシクル・ソード!>」
アスワドは自分の周りの水分を凍らせ、剣のような形をした氷柱を四本浮かばせる。
四本の内の三本の氷の剣はアスワドの号令に一気に俺に向かって射出された。
「ーーてあぁぁぁぁぁぁぁ!」
向かってくる三本の氷の剣を、俺は気合いと共に剣を振って斬り砕く。
振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払って三本全部を砕き、アスワドに向かって剣を振り被った。
アスワドは残りの一本を左手で掴むと、シャムシールと氷の剣をクロスさせて俺の攻撃を防ぐ。
「ーー甘いんだよ!」
「ーーそっちがな! <エネルジコ!>」
鍔迫り合いの状態で俺は筋力強化の魔法を使う。
拮抗していた力は一気に俺が勝り、力を入れると氷の剣が砕け散った。
そのまま俺は剣を下から斜め上に振り上げつつ、魔法を使う。
「<ブレス>ーー<アジタート!>」
魔法を接続し、<激しく>という意味を持つ音楽用語、<アジタート>を使う。
その効果は俺の剣とアスワドのシャムシールがぶつかり合った時に発動する。
ぶつかった瞬間、俺の剣戟に合わせるように紫色をした魔力の剣が出現し、二撃目の衝撃がシャムシールを襲った。
「ーーぐあッ!?」
遅れてやってきた衝撃にアスワドのシャムシールが弾かれる。
<アジタート>の効果は、一回の攻撃の時に魔力で形成された剣が出現して連続攻撃をするものだ。
シャムシールが弾かれて態勢を崩している隙に、俺は腰元に剣を置いて居合いの構えを取る。
すぐに剣身に音属性の紫色の魔力を纏わせ、一気に薙ぎ払った。
「ーーレイ・スラッシュ・
紫色の魔力を纏った俺の一撃を、アスワドがシャムシールでギリギリ防いだ。
だけど、この一撃はただのレイ・スラッシュじゃない。
この一撃は、二重奏。アジタート以上の威力がある二連撃だーーッ!
「ーーグッ、ガァァァッ!?」
一撃の重さに面食らったアスワドに、同じ威力の衝撃が重なる。さすがのアスワドもその衝撃に負けて吹き飛ばされた。
ゴロゴロと地面を転がるアスワドは、その勢いのまま起き上がる。
「く、はは、んだよその攻撃はよぉ……ッ!」
顔を俯かせていたアスワドがバッと顔を上げる。
その顔には心底楽しそうな笑みを浮かべていた。
「ーー燃えるじゃねぇか。いいぜ、だったら俺も面白いもん見せてやるよ!」
そう言うとアスワドはシャムシールを地面に突き刺し、詠唱を始める。
「<我が祈りの糧を喰らう龍神よ、我が戦火を司る軍神よ、背を向けし両者に贄を捧ぐ。其は凍獄の権化なり>ーー<ブリザード・ファフナー>」
アスワドの地面に冷気が巻き起こり、吹雪が舞う。
そして、その吹雪は氷で出来た巨大な龍の形になっていった。
アスワドの周りを意志を持ったようにその長い身を捻らせて動く氷の龍が、俺に向かって鋭い牙を剥き出しにしながら口から白い吐息を吐く。
「ーー覚悟はいいか?」
ニヤッと笑いながらアスワドは俺に向かって人差し指を向けた。
その迫力に思わずゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めた俺が剣を構えるとアスワドは人差し指を向けた手をギュッと握りしめる。
その瞬間、氷の龍が口を大きく開きながら俺に向かってきた。
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