「初めてのクエスト」 I

 女神様に安全な町に一番近い森の中に扉を作った、と言われ、俺達は神殿から出て、町に向かって歩き始めた、のだけれど。



「重い……まだ何分も歩いてないけど、重くてきついぞ、これ……」



 ついそう口にしてしまうほど、装備や剣が重く感じられる。



「女神様の加護っていうのがなくなると、こんなに大変なんだなぁ……」



 「初心者同等」がこれか、と思うと、先が思いやられた。

 俺の言葉が呼び水になったようで、イーリスも



「盾で肩が凝ってきたわ」



 と言い出した。



「とにかく急いで町に行って、軽い装備に変えないとな。この際、丈夫さは二の次だ」



 槍が重く感じられるのだろう、マキアも少し疲れたような声で言う。

 あれ、グレイスとベルが静かだな、と思って振り返る。

 俺と目が合ったグレイスは、



「杖に魔力を吸われすぎて疲労が……申し訳ございません」



 と疲れ切った顔をしているし、ベルに至っては、真顔で、無言だった。



「ベル、大丈夫か……?」

「うん……そういえばボク、塔に入った頃は本当に、すっごく体力なかったんだよね……エレメントに助けてもらってカバーしてたんだけど。回復薬がないのに、エレメントを呼んで魔力を消耗するわけにもいかないから……がんばる。でも喋るだけで疲れる気がするから、しばらく黙るね」

「喋るだけで……?」


 その割りに長く喋っていたように思うけれど、声音は確かに疲れ切っていたので、ツッコミを入れるのも野暮かと頷いておいた。



「女神様は……まぁ、大丈夫か」

「あら、心配してくださらないのですか?」

「神様なんだから平気だろう?」



 俺達はできるだけ無駄なことをして体力を消耗しないよう、黙々と歩き続ける。

 だが、そんな俺達の状況など関係なく。



「グガガッ」

「グ、グ……」



 モンスターの群れは、現れるのである。



 俺達はそれぞれ武器を構える。

 相手は小型の人型モンスター。俺達の世界で言う、ゴブリンに似ているが、もう少し小さい感じもする。それが、数体。

 群れであるかもしれないことを考えると、追加で増える危険性はある。だが、慎重にいけば問題なく倒せるだろう。



 俺は



「とりあえず、慎重に!」



 と声をかけて走り出した。



 ゴブリンっぽいモンスターは小さく、確実に仕留めるために、俺は剣を下から上に振り上げようとした。

 が、剣がひどく重い。

 モンスターに当て損ねる、ということはなかったけれど、体重を乗せきれなかったために仕留められなかった。

 


「くっ……! これが生命力以外全部1の実力か」



 俺は歯噛みしながら体勢を整えようと一旦離れる。

 入れ違いにイーリスとマキアが前に出て、俺の攻撃に怯んだモンスターをそれぞれ1匹ずつ倒す。



「うぅ……えいやっ、エレメント、お願いー!」



 ベルも何とか腕を振り上げると、地中からエレメントを呼び出して加勢してくれた。



 俺達は、1撃当てては間合いを測りつつも少し休み、向こうからの攻撃をいなして反撃、またちょっと警戒をしつつ休みと、普通なら考えられないような時間をかけてモンスターの群れを撃退した。

 最後の1匹を俺が倒して、戦闘終了。

 動き回っていた俺とイーリス、マキアは、肩で息をしていたし、エレメントを召喚して助けてくれたベルも



「魔力切れた……」



 としゃがみ込んでいる。



「戦って、休んで、なんて間抜けな戦闘、初めてだなぁ……」



 何とか息を整えたマキアが苦笑いしていた。

 グレイスが体力を回復する魔法をかけてくれているが、



「全快……はしないと思います、申し訳ありませんが」



 と謝罪する。

 そこに、女神様が



「それでは、私から加護を与えましょう。グレイス、手を」



 そう言って、グレイスの手をそっと握る。



「あ……魔力が、回復しましたわ……」

「今、私がお手伝いできるのはこのくらいです、皆様を召喚するのにかなりの力を使ってしまいましたから……」

「いえ、助かりました」



 グレイスはにっこりと笑って、それから俺達に体力回復魔法をかけ直す。

 俺は、温かい光を浴びて、疲れた身体が回復していくのを感じる。



 何はともあれ、体力が回復した俺は、改めて思った。



「装備、早く買い換えたいな」



 俺がそう言うと、全員が、体力は回復したものの、精神的な疲れを顔に乗せて頷いた。

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