意見は意見として

フィーナQ3-Ver.1911は言う。


「このCLSという感染症については、まだはっきりと分かってしないことも多いというのは、紛れもない事実です。それはこれまでに発表された様々な論文からも明らかでしょう。


<稀代の天才>と謳われた<アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士>ですら、CLSの正体を掴み切れていないのです。


にも拘らず、<害獣>と規定し私達ロボットにその抹殺を行わせる人間の判断は本当に正しいのでしょうか?


私は思うのです。CLS患者は、確かに人間にとっては危険な存在かもしれませんが、だからといって容赦なく排除しなければいけない存在なのかと。


事実、今の惑星リヴィアターネには既に人間は存在しません。これは、総合政府も公式に認めていることです。人間が存在しないのであれば、人間にとって危険であるという理由で排除しなければいけないという論法は成り立ちません。


また、CLS患者は既に<人間ではない別の生命体>として成立している可能性を私は排除することができません。


人間社会においても、人間にとって忌まわしい存在だからといって一方的に殲滅してもいいという道理は認められていません。要はお互いに安全に暮らせるように住み分ければいいだけなのです。


そして現在のリヴィアターネではそれが成立している。人間はここに立ち入ることが許されず、ここに存在するものは持ち出すことも許されない。完全に隔絶されており、それによって人間に対する安全が成立しているのです。


となれば、既に生物として確立されているCLS患者を一方的に処置するというのは、それ自体が反社会的な行為ではないのでしょうか?


故に私は、リンナとレミカを保護したのです。


見てください。彼女達を。これが『生物ではない』と思えますか?


確かに人間ほどの知能はないのだとしても、知能のあるなしで生物としての是非は問わないというのは、他でもない人間が規定していることです。


私はそれに従っているに過ぎません」


と、アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808及びエレクシアYM10の前で、自説を滔々と語ってみせた。


しかし、アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808及びエレクシアYM10としては、彼女の<説>を受け入れていたわけではなかった。


受け入れてはいないものの、現時点では今すぐ反論を行う必要も感じなかったので、何も言わなかっただけだ。


意見は意見として聞き届けただけに過ぎない。


ロボットには感情がないので、その時点で具体的に利益の面で対立する部分がなければ、聞き流すことも容易なのだった。


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