第1491話 陣形を整えて近付きました



「それじゃあ、このまま近付いて……近くに他の魔物は?」

「ガウゥ!」

「ワフ、ワフワフ。ワウー……ワフゥ?」

「いや、そっちはそのままでいいぞ。むやみに魔物に向かって行くのもな……ふむ」


 念のため聞いてみるが、フェンリルやレオによれば付近に他の魔物はいないらしい。

 レオにだけ察知できるくらいの距離にはいるらしいけど……かなり離れているみたいなので、激しい戦闘を行わなければ刺激はしないだろう。

 そっちもやっちゃう? というようなレオの問いかけに首を振りながら必要ないと答えて少し考える。

 周囲の警戒はレオだけでなく、左右と後ろのフェンリルで十分だし……ニグレオスオーク三体か……。


「先頭のフェンリルだけで、大丈夫そうか?」

「ガァウ!」

「ガゥガウ!」

「……わかった」


 三体に対してこちらは二体……まぁ返って来る答えはわかりきっていたけど、一応聞いてみると前を歩く二体はこちらに一瞬だけ顔を振り向かせつつ、任せろというような鳴き声。

 以前見たフェリーとフェンの戦いが、フェンリルとしての平均的な物だとしたら、通常のオークとほぼ変わらないニグレオスオーク三体くらい、軽々と倒してしまいそうだから問題なさそうだ。

 それに、それぞれフェンリルに乗っている近衛護衛さん達も、結構やる気みたいで剣を抜いてはいないが、いつでも戦えるような体勢になっている……腰の剣に手を当てていたりとかだな。

 ……出番があるかは微妙そうだけども。


「それじゃあ……ニグレオスオークを確認できたら合図を出すから、そうしたら飛び掛かってくれ」

「ガウ!」


 威勢のいい返事が前を歩くフェンリルから返って来る。

 そうして、数分くらい森の中を陣形を維持したまま進む。


「フェリーとフェルは少しだけ後ろに。ハンネスさんとライラさんを守ってくれ」

「グルゥ!」

「ガフ!」

「フェンとリルルはレオの後ろに。テオ君とオーリエちゃんを危ない目に合わせちゃ駄目だぞ?」

「ガウ!」

「ガウゥ!」


 外側を囲むフェンリル達の内側で、レオを先頭にしてハンネスさんやライラさん、テオ君とオーリエちゃんに危険が及ばないように配置を整える。

 相手は俺も戦った事があるオークと、ほぼ変わらないくらいらしいニグレオスオーク。

 これだけのフェンリル達がいて、レオがいるのに危険も何もないだろうとは思うけど……だからこそ侮らないように、念には念を入れる。

 ちょっと楽しくなって来たからというのもあるが、それとは別にもしも危険な相手だったらというイメージのもとに、色んな想定をして安全を確保する練習みたいなものだ。


 必要かはともかく、こういう事にも慣れておきたかった。

 あと、できるだけテオ君とオーリエちゃん……とくにオーリエちゃんはまだ舌ったらずな喋り方になるくらい幼いので、あまり近くでニグレオスオークを狩る場面を見せないようにでもある。

 レオの後ろなら、はっきりとは見えないだろうからな。


 それならそもそもにつれて来なければ、とも思うけど、テオ君が付いてきたがったのでそれと一緒にいたいというオーリエちゃんの希望と、レオやフェンリル達ともいたい様子だったから。

 一応、ユートさん達にも許可を取ってある。


「……あれか」


 そうこうしている間に、木々の隙間の向こう側にニグレオスオークの姿が見え始めた。

 俺からはっきりと確認できるのは二体で、一体は大半が木に隠れているようになってはいるが、レオ達が言っていたように三体いる。

 他の魔物の姿はなく、ニグレオスオーク達はキョロキョロと何かを窺っているようではあるけど、特に目的がある様子には見えない。


「前に見たのより、ちょっと小さいよ?」

「そうだなぁ……思っていたより、少し小さいかな? あと、毛が分厚そうだ」


 リーザの言葉に、俺も少しだけ首を傾げる。

 ニグレオスオーク、一応ハンネスさんから聞いてはいたけど想像とは少し違った。

 リーザが言ったように、通常のオークより一回りくらい小さく、剛毛と言えるくらいに生えていた……毛は緑色で保護色になっていて、警戒を怠ったら見逃しそうにも思える。

 レオ達がいてくれれば、そんな事はないだろうけど。


 形などはこれまで見たオークと特に変わりはなく、でっぷりとしたお腹で二足歩行、さらに豚のような顔を持っているみたいだ。

 初めて見るから確かな事はわからないけど、オークよりも剛毛なのが邪魔して剣の刃が届きにくそうではあるかな、といった感想だ。


「キョロキョロとしているけど、こちらには気付いていないみたいだ……けど何かを窺っているような? まぁ、他に異常はないし別の魔物も近くにいないみたいだから、気にしないでいいか」


 後で聞いた話だけど、ニグレオスオークは森にいる他の魔物を襲う事がある、というのは通常のオークと変わらないらしく、今回は獲物に逃げられてそこにいたんだろうという事らしい。

 あと、窺うような様子に見えたのは、近くにフェンリル達やレオが来ていたため、それらしい気配を本能で感じて危機が迫っているのではないか? みたいな感覚だったんだろうとか。

 全部、身近で一番魔物との戦闘経験が多いユートさんや、エッケンハルトさんから聞いた話だけど。


 その際、魔物との戦闘経験が豊富だとか、様子を聞いただけでどういう事なのかわかるのは貴族の当主としてどうなのか……とエルケリッヒさんが溜め息を吐いていたりもしたけど。

 まぁ、セバスチャンさんのように書物などからの知識として知っている、というのならともかく明らかに戦った事があるような意見だったから仕方ない。


「よし……もう少し近付いて……行け!!」

「ガウ!」

「ガァゥ!」


 ニグレオスオークを視認したけど、飛び掛かるにはまだ距離があるため、少しだけ距離を詰める。

 向こうに気付かれないようゆっくりと近付いて、声と共に右手を振るって先頭のフェンリル二体に指示を出す。

 それと共に、近衛護衛さんを乗せたまま飛び掛かるフェンリル……他の警戒役のフェンリルや、フェリー達も臨戦態勢というか、ちょっと飛び出しかけたけど留まってくれた。


 ……ただ「行け!!」というだけだったら、誰に指示をしているのかわかりにくかったかぁ、今度はもう少し改善しよう。

 今回はある程度行動のすり合わせというか、先の事を伝えていたからフェリー達も動きかけただけで止まってくれたけど。

 指示の出し方みたいなのも、やっぱり慣れないと難しいな――。



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