第1425話 エルケリッヒさんに認められたようでした



「くはっはっはっは! ワシの目を逸らさず見返すのは、中々見込みがある! いや、レオ様と一緒にいるというだけで、見込みどころの話ではないのだがな。これは、曾孫の顔が見られるのが楽しみじゃわい!!」

「そうでしょう父上。私も初対面の時、タクミ殿を見定めましたが、中々の男だと感じました!」


 急に破顔して笑い始めるエルケリッヒさん。

 今の視線を交わしただけで、何やら俺が見定められていたらしい。

 エッケンハルトさんも、初めて会った時背中を叩かれてそれで……という感じだったけど、よくわからない方法で見定めないで欲しい、心臓に悪いから。

 いや、エッケンハルトさんの背中を叩く事に対して、エルケリッヒさんの方は俺だけでなくクレアも含めて、目の奥や思考を覗き込もうとしている雰囲気や、目を逸らせない迫力があったから、ちゃんとした方法と言えるのかもしれないけど。


「お、お爺様! ひ、ひひ、曾孫だなんて……何を……!」

「ハルト達から聞いておるぞ? クレアとタクミ殿が、お互いを想い合っているのはな。見合い話を大量にクレアやティルラに押し付けようとしていた時は、どうやって止めるか考えていたが……クレアは自分で見つけたのだな。うむ、年を取るわけだ……」


 なんとなく認められた事に、内心胸を撫で下ろす俺とは違い、エルケリッヒさんの言葉の中に引っかかる事があって慌てるクレア。

 遠い目をするエルケリッヒさんを見ながら、孫娘のクレアの子供なら曾孫になるかぁ、なんて他人事のように考えた瞬間、顔が沸騰したように熱くなった。

 どういう意味か理解したからだけど……それってつまり、俺とクレアの子供ってわけで。

 子供、子供と言えばテオ君やティルラちゃんも、年齢的には子供で……リーザは娘として引き取っているから、つまり既に曾孫になっている?


 いやでもそれは、クレアと結婚した場合にそうなるような気がしなくもなくて、今はあくまでそうではなかったりあったり?

 なんて、言葉を発する事を忘れて混乱していた。

 エッケンハルトさんに、似たような事を言われるのは予想していたし覚悟していたけど、思わぬところからきたから不意打ちをされた気分だ。

 いやまぁ、クレアのお爺様なら反対されない限りそういう事を言われるのは、予想してしかるべきだったかもしれないけど……あぁ、考えがまとまらない。


「見合い話に関しては、クレアが原因なのですがね、父上。話はしたでしょうに」

「あ、あの話は……その、申し訳ありません……」

「うむ、ハルトから聞いている。どこの男でも、クレアやティルラに相応しい者はおらんと思っておったが、タクミ殿なら認めるしかなかろう」


 混乱中の俺そっちのけで、話すリーベルト家の三人。

 とりあえず、熱くなった顔を冷ますために手で仰ぎながら、脳内の鎮静化も図る。

 そうしている間に聞いた話では、エルケリッヒさんはクレアが言い出した事から、お見合いの話をエッケンハルトさんが持って来る事を良く思っていなかったらしい。

 すぐに止めたかったが、一応公爵家の当主であるエッケンハルトさんの顔を立てるため、静観していたとか。


 ただ、もしお見合いの話しがまとまりそうになったら、乱入して相手の男を試す気だったと冗談も言っていた。

 それを言った時のエルケリッヒさんは、さっき俺に向けていた迫力よりも、剣呑な表情をしていたんだけど……冗談ですよね?

 ともあれ、さすがにそろそろ静観するだけではと、エッケンハルトさんを止めるため乗り出そうとしていたら、一切お見合いに関する話を聞かなくなったと。

 どういう事か本人……エッケンハルトさんの方に尋ねてみると、俺やレオと出会った事や、クレア自身が忘れていた事などが説明され、止めると伝えられたのだとか。


 ちなみにその際、シルバーフェンリルであるレオの事も伝えられたため、クレアが森でオークに襲われたと報告を受けたエッケンハルトさんと同じく、急いで別邸まで行こうとしたが奥さんに止められたらしい。

 息子のエッケンハルトさんが様子を見に行って、俺やレオの事を確かめていたから今は必要ないだろうと。

 急に行って驚かせるのは、レオに対して失礼だとも。

 というわけで、機会を窺っていたらランジ村に集まるこのタイミングになったのだとか。


 レオに対して失礼というのは、あまり考えないでいいと思うけど……確かに急に別邸にエルケリッヒさんが来ていたら驚いたのは間違いない。

 あと、シルバーフェンリルの信奉者みたいな感じになっているのを、誰も止められなかっただろうから、説得や止める事ができるエッケンハルトさんがいる今回は、本当にいい機会だったのかもしれないな。

 まぁ、エルケリッヒさんが来ると言うのなら、エッケンハルトさんも付いて来ていたかもしれないが。

 先代当主様と現当主様が、揃って来るとかあの頃の俺にとっては大きな衝撃だっただろうから、正直助かったという気持ちだ。


 止めてくれたエルケリッヒさんの奥さん、ありがとうございます。

 ん? エルケリッヒさんの奥さんという事は、クレアのお婆様になるのか……そちらにも、いずれ挨拶をしておかないといけないだろうな。


「あー、えっと……曾孫はともかく、クレアとは真剣に付き合っています。ご報告が遅れてすみません」


 リーベルト家が話している事を聞くだけにして、頭の中で整理しているうちにある程度顔の熱も取れ、多少は冷静になれた。

 そうして、この機会を逃さないためにと、改めてエルケリッヒさんとエッケンハルトさんに向かって、クレアと交際している事を伝えて頭を下げる。

 本当は、エッケンハルトさんと再会した時や、エルケリッヒさんを紹介された時に言っておかなきゃいけなかったと思いながら。

 両方とも、落ち着いてこういう話ができる状況ではなかったけど。


「タ、タクミさん……んんっ! お爺様、私からもご報告を。タクミさんの仰られた通り、私達は思い合って真剣に付き合っています」


 俺の言葉に、驚いたような反応をしたクレアは、咳払いをして俺と同じく二人に報告。

 クレアにとっては、父親と祖父だから俺以上に切り出す覚悟が必要だったかもしれないな。

 突然になって申し訳ない――。


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