第1424話 荒療治は放っておいても行われそうでした



「まぁ、私もラーレが来た時は驚きましたな。いえ、シェリーにも驚きましたが……ラーレとティルラが出会うところは、この目で見ていましたから」


 そういえば、あの時は森でエッケンハルトさんから、俺とティルラちゃんへの鍛錬の仕上げのような事をしていたんだったっけ。

 様子を見に来たラーレをレオが魔法で撃ち落として……テントに落ちそうだったから、フェンとリルルが空中で蹴り飛ばして。

 敵意がなかったのに、ラーレが散々な目に遭っているような気がするのは気のせいなのか……。


「タクミ殿、改めてタクミ殿自身の話、こちらに来てからの活躍を聞かせてもらいました。感謝いたしますぞ……」

「いえそんな。俺の方が、クレア……さんや、エッケンハルトさん。それから使用人さん達のお世話になって、感謝しないといけないくらいです。レオも含めて、とても良くしてもらっています」


 立ち上がり、改まって丁寧に礼をするエルケリッヒさん。

 慌てて俺も立ち上がり、頭を下げる。

 俺自身の話というのは、別の世界からきた事や、ギフトに関する事も含めてだろう。

 まぁ、公爵家の先代当主様なので、ユートさんの事や異世界からというのは知っていたんだろうけど。


「堅苦しい話はそれくらいに、ですぞ父上。タクミ殿は、あまりそう言うのは好みませんから」

「ははは、そうですね。あと、丁寧な言葉遣いも俺には必要ありませんから」


 以下にレオが一緒にいるからと言っても、俺自身は一般人。

 使用人さんや従業員さんなど、人を雇って上に立つ事すら戸惑うくらいだ。


「まったく、ハルトは相変わらずよの。――わかりました、いやわかった。タクミ殿には、ハルトやクレアと接する時のようにさせてもらおう」


 溜め息交じりに言って、エッケンハルトさんの方を見るエルケリッヒさん。

 こうして見ていると、体格もそっくりで性格すら似ているように感じるんだけど、エッケンハルトさんの豪快さはエルケリッヒさんとは少し違うみたいだ。

 顔は、エッケンハルトさんが年を取ったらこうなる、といった感じでもあるけど。

 クレアと一緒に、向かいに座る俺からすると、大柄な二人が並んで座っているのは中々の圧迫感だったりもする。


「それでタクミ殿、朝からレオ様とテオを連れて出ていたようだが……?」


 とりあえず堅苦しい会話はなしにして、お茶を飲みながら談笑。

 その中で、エッケンハルトさんが俺とレオが出かけていた事を気にしていた様子。


「あぁ、散歩に行っていたんです。テオ君をレオに慣れてもらうためと、レオの運動のためですね。あと、ランジ村の周囲を見たかったので」

「成る程な……であれば、私も連れて行って欲しかったものだ。フェリー達も連れて行ったのだろう?」

「お父様、こちらに来た時にタクミさんがいなくて、残念そうにしていたんです。多分、フェリー達に乗せてもらおうと考えていたんでしょう」

「む、そ、その通りだが……」


 クレアに指摘されて、視線を逸らすエッケンハルトさん。

 残念そうにしていた理由は、俺がいない事よりもフェンリル達に乗れなかったからか。

 時間があれば、乗って走りたいと考えていたんだろう……もしかすると、エルケリッヒさんを乗せたかったのかもしれないけど。


「むぅ、タクミ殿はそうなのだろうが、本当にレオ様やフェンリルが他の人間を背中に乗る事を許してくれるのか?」


 伏せをしたレオに、抱き着くオーリエちゃん達の様子を見ながら、難しい表情をして言うエルケリッヒさん。

 畏れ多いというよりも、人を乗せても平気なのか心配な様子……といったところかな。

 エッケンハルトさんが、初めて会った時にレオが本当に俺以外の人を襲わないのか、心配そうにしていた時と少し似ている。

 実際にレオやフェンリル達が人を襲わないのは、昨夜の宴会の時に間近で見ているから、そこの心配はしていないんだろうけど。


「レオは人を乗せるのが好きみたいですし、それはフェンリル達も同じみたいですから、安心して下さい」

「私も、レオ様に乗せてもらった事はありますし、それはお父様もです。それから、フェンリル達も人を乗せるのを嫌がる素振りは全然ありませんね」

「そうなのか……」

「父上も、一度レオ様に乗せてもらえば、二人の言う事を信じられるでしょうな。私もそうでしたから」


 荒療治として、レオへの恐怖心をぬぐえなかったエッケンハルトさんに、レオに乗って走ってもらった事があったなぁ。

 他にも、使用人さん達をフェリー達に乗ってもらって慣れさせたりとか。

 テオ君にしてもそうだし、一番最初はゲルダさんだったか。

 とりあえずレオに乗せてと考えて、荒療治をするのは俺自身変わっていないなぁ。


 正面から話すよりも、レオの背中に乗れば体を預けざるを得ず、直接触れ合えるから慣れるのも早い……と今更ながらにもっともらしい理由を付けてみる。

 ヴォルターさんはともかく、ほとんどの人はそれで恐怖心を完全かはともかく、大分ななくせていたし慣れてくれたから、一定の効果は見込めると思っておこう。


「ま、まぁ、機会があればな……」


 そう言うエルケリッヒさんに対し、口角を上げるエッケンハルトさん……あとクレアも。

 俺がやろうと言わなくても、機会がという言葉で逃げられないよう荒療治をする気だ。

 なんというか、血筋だなぁ……。


「……それにしても、ハルトから多少は聞いていたが……ふむ、クレアとタクミ殿がか」


 おそらくエッケンハルトさん達の雰囲気に気付いてか、旗色が悪いと感じたのだろう、エルケリッヒさんが急に話題を変える。

 その視線は、向かいに座っている俺とクレアに向いていた。


「えっと……?」

「お爺様?」


 ジッとこちら側の様子を窺う目は鋭く、エッケンハルトさん以上の迫力を感じる。

 結構な年齢に見えるし、セバスチャンさんからの話を聞く限り実際に高齢なんだろうけど、まだまだ衰えを感じさせない貫禄があった。

 蛇に睨まれた蛙というわけではないが、目を逸らしたり、逃げられないと思わせる何かがある。

 なんだろう、俺とクレアに関して何か言われるのだろうか? と、覚悟をしつつエルケリッヒさんから視線を逸らさないようにしていると……。



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