第1411話 宿はライ君が手伝っていました



「そういえば、宿の前にいる人達は軽装なのに、昨日会った人達は完全武装だったけど……」


 テオ君やオーリエちゃんが、身分を隠している以上近衛ではなくフィリップさん達のような、公爵家の護衛としておいた方がいいんだろうから、軽装なのもわかる。

 けどそのわりには、昨日テオ君達の近くにいた人達は、近衛として紹介されたうえに完全武装だったけど……まだ俺達が受け入れると決まっていたわけじゃないから、って事にしておこう。

 多分、ユートさん辺りがそのへんの事を忘れていたと見た。


「すみません、昨夜もレオ様と初めて会うと思うと僕が緊張してしまって……」


 なんて考えていたら、テオ君が完全武装をお願いしたかららしい。

 緊張とか備えたくなる気持ちはわからなくもないけど、レオやフェンリル達相手に数人なら完全武装をするかしないかはあまり関係なさそうだなぁ、というのは口に出さないでおく、怖がらせたくないし。

 あと、ユートさんのせいにしてしまってごめんなさい。


「あ、タクミ様、レオ様も! おはようございます!」

「ライ君、おはよう」

「ワフ!」


 こちらに気付いてか、直立不動で緊張感を漂わせている警備の人達を見てテオ君と話していると、宿の中からライ君が出て来て俺達に気付くなり駆け寄って挨拶。

 こちらも挨拶を返し、簡単にテオ君達を紹介。

 まぁフェリーは、昨日の宴会中に他の子供達と一緒にライ君とも遊んでいたから、既に知っているんだけど。

 というかライ君、いつの間に俺の事を名前で呼ぶように……? 以前は薬師様だったのに、いや、名前で呼んでくれる方がいいんだけど。


「はい、テオドールト君ですね。タクミ様のお客様だって聞いています」

「そうなんだ……あれ? なんでライ君が?」


 近衛護衛の人達は、宿周辺の警備もしていたから見知っている村の人がいてもおかしくないけど、テオ君とオーリエちゃんは基本的に俺達に紹介するまで、宿の中にこもりっきりだったらしい。

 公爵様だという事を隠していないエッケンハルトさんや、王家の紋章で身分を明かしているユートさんがテオ君達を連れていたら不自然だろうから、という理由で。

 宿の部屋とかも一応別々にしてあると聞いた。


「父さんや母さんが、この宿をやっているので。僕も手伝っているんです。だから、宿に泊まっていた人の事は知っていますよ」

「そ、そうなんだ……」


 聞いてみると、ライ君達家族が宿の経営……というか切り盛りをしているらしい。

 大きな宿なので、エッケンハルトさんが補助として経営の補助ができる人、それから従業員も連れてきてはいるらしいけど、一応宿の主人はライ君の父親なんだとか。

 ランジ村で宿を作るという話になった時、村の入り口で訪ねて来る人の受付みたいな事を元々やっていたため、ならそのまま入り口に建てる宿をやると決まった。

 そこから、エッケンハルトさんの提案で貴族も泊まれる宿になって、想像していたよりも大きな建物になったのには驚いていたらしいけど。


 ライ君はテオ君とほぼ同年代だけど、今は両親の手伝いとか見習いとして宿で働いているらしい。

 そこで、今のような丁寧な言葉も身に着けたんだな。

 最初に来た時はここまでではなかったはずだから。


「そんな事になっていたんだ。ちょっと驚いたけど……」

「はい。父さん達も大変そうでしたけど、僕も大変でした。でも、前は日がな一日村の外を眺めているだけ、という事もあったので今は楽しいですよ」


 一日外を眺めるだけって……それはものすごく暇そうだ、村を出入りする人を見る仕事なら仕方ないのかもしれないけど。

 ただ、大変なのは宿を切り盛りするなんて初めての事だから、当然だろうなぁ。

 特に貴族でも泊まれる宿にするという事は、そこらの宿よりも徹底しなければいけない事もあるだろう……まぁその辺りは、エッケンハルトさんが連れてきたっていう人達が教えてくれるんだろうけど。

 というかその人達、多分元公爵家の使用人じゃないかな? いずれ機会あったら聞いてみよう。

 

「中も見てみますか? レオ様も入れますよ」

「あ、いや、今はレオ達と朝の散歩をしているところなんだ。中に入るのはまたの機会にするよ」

「畏まりました。またのお越しをお待ちしております……へへ」


 畏まって頭を下げるライ君は、すぐに頭を上げて恥ずかしそうに笑う。


「ははは、中々様になっているねライ君。それじゃ、大変だろうけど頑張って」

「ワフ!」

「はい!」


 様になっているけど、微妙に違う気がする挨拶に笑いながら、レオと一緒にライ君を応援してその場を離れた。

 村の入り口に移動しながら、テオ君から宿の中について聞く。

 ちょっと中がどうなっているのか気になってはいたからな。

 宿は外から見た通りに広々としていて天井が高く、ライ君が言ったようにレオも入れるくらいの余裕はあるらしい。


 とはいっても、走り回れる程じゃないみたいだが……まぁそれは屋敷でもそうだからな。

 宿は屋敷と同じ三階建てで、一階に必要な設備を整えてあってそこにライ君達家族や従業員さんが使う部屋などもあるらしい。

 二階から上は全部客室になっていて、三階は一般客用、二階が要人用の客室だとか。

 三階は一階から直通の階段があり、二十を越える部屋があると……テオ君は入らなかったのでわからなかったみたいだけど、後でエッケンハルトさんに聞いたら大体ベッドと机があるくらいの簡素な作りで、広さも四畳くらいらしい。


 四畳というのも、なんとなくの広さを聞いた俺がこれくらいかな? と思い浮かべた広さだけど。

 ただし、防犯上の理由から三階に上がる階段から二階には行けず、別の階段を利用する必要があるとか。

 屋敷の俺やクレア、それから貴賓室が二階にあるのと同じく、どうして重要な部屋を二階にするのかと疑問に思ったが、それも何かあった時のためらしい。

 三階建て以上になると階段を上がるのが手間になり、もしもの際部屋に駆け付けるのが遅れる。


 だったら、二階にしておいて他の階には護衛や警備を散らばらせておいた方がいいとかなんとか。

 あとは住む人泊まる人の居住性だな。

 この世界、エレベーターがないから階段を使わないといけないし、上り下りは大変だから。

 必ずしも高い階層に偉い人やお金持ちが住む、というわけでもないみたいだ――。



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