第1388話 村の広場で宴会が始まりました



 そういえばユートさんにチョップしたルグレッタさん、米俵とかの片付けを手伝っていたはずなのに、終わったのか。

 見れば、セバスチャンさんや他の使用人さん達も、こちらへ向かって来ていた……アルフレットさんは、ヨタヨタとジェーンさんに支えられて歩いている。

 無理しちゃったんだろうなぁ。

 とりあえず、ユートさんの事はルグレッタさんに任せて、せっかくだからと集まって来ていた使用人さん達に、先程話した皆で食事というのを聞いて見たりした。


 やっぱり、エッケンハルトさん達の予想通り、セバスチャンさんが難色を示した。

 ライラさんとは、別邸にいた頃一緒に休憩のお茶を飲んだりしていたのでいいとして、意外だったのは、アルフレットさんとジェーンさんは乗り気で受け入れてくれた事か。

 なんでも、役割が違うために部屋が同じだとしても食事を共にする事が、これまであまりなかったらしい。


 休日は夫婦として一緒に過ごすようにしているらしいけど、仕事中はそうもいかない。

 そういう意味で、俺達も含めて集まって食事をするのは賛成らしい。

 家族の時間としても、皆に受け入れてもらうのに良さそうだ……という事で、セバスチャンさんに対してはその線で説得して頷いてもらった、独り身の男女がお互いをよく知って親しくなれるかもしれないという事で。

 まぁこちらの屋敷にいる間は、だけど。


 使用人さんと護衛さん、それから従業員さん、仕事が違えば接点が少なくなるらしく、それらをまとめるのにちょうどいいという事でもあった。

 それから、俺達が話し込んで放ったらかしになっていたレオ。

 身を寄せ合ってリーザとティルラちゃんを挟んで毛で包み込むという、面白いのか微妙にわからないけど気持ち良さそうな遊びをフェリーとしていた。

 そのフェリーとも話したんだけど、フェンリルにも一応群れの序列で食事の優先順位があるとか。


 ただそれは食糧が限られている場合だから、皆で食べられるのは嬉しいとも言われた。

 フェンリル達は、一緒に食事をするのに前向きなグループって事だな。

 後は……従業員さんとこの場にいない使用人さんや護衛さん達とも、話をしないとな。


 そうしている間に、村の広場の準備が整ったらしく、ロザリーちゃんを乗せたフェンリルに呼ばれ、全員で広場へと向かった。

 ロザリーちゃん達ランジ村の子供達は、フェンリル達と仲良くなれたみたいだな。

 あ、フェンリル達全員が広場に行くには数が多過ぎるので、お世話係の人と一部のフェンリルを残してだけど――。



「はーい、こっち焼き上がったよー!」

「こちら、失礼します!」

「どんどん食べとくれー!」

「ご厚意で、大量にあるからねー!」

「タクミ様御考案の料理だ、今じゃ村でもお馴染みになったな!」

「そうなんだ。食べた事はあるけど、確かに美味かったからそうなるのもわかるな!」

「おーい、こっちだー! 持って来てくれー!」

「自分で運びな!」

「うぉ! 落としちまった!」


 等々、村の人達と屋敷の人達、従業員さん達がそれぞれテーブルや用意された簡易的なかまどを行き交い、騒々しく飲み食いをしている。

 それを俺達が並んで座って見守っている形だ。

 広場の一角に長テーブルが用意されて、俺、クレア、エッケンハルトさん、ハンネスさんが並んで座っている……まぁ、代表席というか貴賓席みたいな物だな。

 既に村の人達への挨拶などは終わっていて、宴会が開始している。


 ちなみに村の人がテーブルから落としてしまった食べ物などは、コッカーとトリース、それからラーレが巡回して食べていた。

 さすが森の掃除屋……いや、ラーレは違うけど。

 ともあれ、俺達の前にはランジ村からのお酒があり、それは他の皆にも振る舞われていた。

 こちら側からは、フェンリル達がラクトス近くの森を通過する際に狩ったオーク肉などが残っていたので、それを提供。


 余り物で申し訳ないと思ったけど、料理をするヘレーナさん達や俺、それからリーザやティルラちゃんも手伝って作ったハンバーグで、喜んで受け入れられていた。

 俺達が手伝いに入ったのは、ロザリーちゃんに呼ばれてからだから途中からで、挨拶とかのために抜けさせてもらっているけど。

 リーザやティルラちゃん、フェヤリネッテの応援を受けたゲルダさんなどは、食事よりも楽しくなって手伝いを続けていたりする。

 村では以前来た時にハンバーグの作り方は教えていたんだけど、やっぱりヘレーナさん達のような専門の料理人が作る物は違うらしく、大好評だ……作ったハンバーグやシュニツェがすぐに消えていた。


「おぉ、いい飲みっぷり! こっちも負けていられないね! んぐっんぐっ!」

「「「おぉぉぉぉ!!」」」


 盛り上がっている声が聞こえたので見てみると、そちらではユートさんが村の人と一緒に、大量のお酒を煽っているところだった。

 ユートさん、ギフトがあるからどれだけ飲んでも酔わないのはいいけど、抱える程の樽を飲み干そうとするのはどうかと思う。

 酔うとか以前に、水分を摂取し過ぎだと思う……水中毒には気を付けて欲しい。


 ワフゥゥゥゥン――!!

 アオォォォォン――!!

 ワオォォォォン――!!

 ガオォォォォン――!!


 響くのは、広場の外側に集まっている、レオとフェンリル達の遠吠え。

 大量のハンバーグ、その他ソーセージなどもあって美味しい物と雰囲気に盛り上がっているみたいだ。

 孤児院の子供達、村の子供達、それから犬達も一緒に楽しそうに過ごしている。

 尻尾はあまり振り過ぎないようにな? レオもフェンリルも大きいから、風圧が凄いし……シェリーは大丈夫そうだけど。


「ふむ、皆楽しんでいるようだな。んぐ、美味い!」


 俺と同じように、広場を見渡して満足そうに頷き、用意されたお酒……ランジ村で作られたワインを煽るエッケンハルトさん。

 ユートさんと違って酔うし、飲み過ぎたら二日酔いにもなるので気を付けて欲しいけど、さすがに皆が盛り上がっている様子を見てお酒を控えるように言うのは難しい。


「みたいですね。まぁ皆エッケンハルトさん達にも慣れたみたいですし」


 宴会が始まる直前、というか俺やクレア、エッケンハルトさんが挨拶をした時には、村の人達は緊張している人があちこちに見かけられた。

 けど今はそれぞれに盛り上がっている様子で、気にし過ぎていないみたいだな。

 以前も同じように、エッケンハルトさんやクレアと一緒に宴会をやった事があるし、俺達が到着するまで村の宿で過ごしていたみたいだから、ある程度は慣れたんだろうな――。



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