第1350話 女子会の内容は詳しく聞かない方が良さそうでした



「そちらでもですか。でもこちらは……特にライラが、タクミさんが私にかけてくれる言葉に対して、興味津々でしたよ? んもう、なんだかちょっと……いえ、あまりいい気分ではありませんでした。ジェーンはクスクス笑っていましたし、ルグレッタさんは真っ赤になっていましたけど」

「そ、そうなんだ。まぁ、皆そういう事が気になる年頃って事で……」


 ジェーンさんは既婚者で、そういう年頃でもない気がするけど。

 あぁ、だから笑っていただけなのか。

 というか俺がクレアにかけた言葉かぁ……改めて考えると恥ずかしさのあまり、穴を掘って入り、その中で叫びたくなるくらい悶えそうな事を、臆面もなく言っていた気がする。


 あぁいう事って、その場のノリで後々思い出すと、恥ずかしさと照れくささで悶絶するようなセリフを言っていたりするんだよなぁ。

 もちろん、てきとうなことを言っているわけではなく、本心からの言葉だけど。


「ワフ?」

「だ、大丈夫。ちょっと思い出しただけだから」

「ワウ」


 クレアに手を取られた形のまま、思い出した恥ずかしさに体を震わせると、レオが首を傾げた。

 あまり思い出さないようにしておいた方が良さそうだ。

 クレアが俺の言葉のどれを、ライラさん達に伝えたのかも……気になるけど聞かない方がいいだろうな。


「と、とにかく、朝の支度をしよう。もうじき朝食の用意ができる頃だろうから」

「そうですね。顔を洗えば、少しはスッキリするかもしれません」

「ワッフワフ」


 気分を変えるため、少しだけ大きめの声を出して改めて朝の支度のために動き出す。

 慣れない徹夜をしたクレアは、体が重そうだったので後で疲労回復薬草をあげよう、眠気が全て取れなくても大分楽になるはずだ。

 俺も、今の話が原因で結構なダメージを受けてしまったし……朝食前にパパっと『雑草栽培』で作ろうかな、うん。

 ちなみに、支度している時に聞いたけど、ルグレッタさんとジェーンさん、それからヨハンナさんは眠気に勝てず、テントの中で寝ているらしい。


 ライラさんだけは、クレアが出る少し前にテントから出て行ったのだとか。

 朝食の時、眠気や疲れを感じさせない様子で動き回っていて、素直にすごいと思った。

 けど、ライラさんにも疲労回復薬草はあげようと思う……目の下にうっすらとだけど、隈があったからな――。



 ――朝食後、必要な人に疲労回復薬草を渡す。

 渡したのは、男子会と女子会に参加した面々にプラスして、ラクトスで合流した人達もだ。

 疲労回復薬草の効果を実感してもらうのと、慣れない旅で緊張しているのか疲れが出始めていたようだったから。

 フェンリル達も一緒だし、貴族令嬢のクレアも一緒……カールラさんを除いた人達は、一度屋敷にも招いたけど、それでも緊張はしてしまうものだろう。


 俺と一緒にいるから緊張、なんて事はないと思いたい。

 レオはともかくとして……なんて言ったら、レオから抗議されそうだけど。

 ともあれ、配った疲労回復薬草で多少なりとも眠気が取れてから、ランジ村に向けて再出発。

 旅程は今日一日これまでよりゆっくりめに移動して、明日の昼前に村へと到着する予定だ。


 急ぐと今日中にも到着できるけど、夜中になってしまうからな。

 ランジ村への先触れは出してあって、到着予定日を伝えてあるし。

 

「……疲労回復薬草、というのは凄いですね。眠気はまだ残っていますが、感じていた疲労が全く残っていません」


 クレアとライラさん、それから俺とルグレッタさんがいる馬車の中……女性率が高いけど、似たような状況がこれまで何度もあったから、少しは慣れたし、眠気のおかげであまり意識しないでいられる。

 それはともかく、出発前に渡した疲労回復薬草に感心しきりのルグレッタさん。

 出発時にはレオに乗ろうかなと思ったんだけど、途中で寝てしまうと落ちてしまう恐れがあったため、今日は馬車での移動にした。

 ユートさんだけは眠気もどこへやら、フェンリル達と一緒にいるけど、フィリップさん達も今日は幌馬車での護衛となっている。


 まぁ、護衛さんは他にもいるから、その人達が馬に乗ってちゃんと見ていてくれるけど。

 居眠り運転ならぬ、居眠り騎乗で落馬とか笑えないからな。


「ははは、まぁやっぱり人は寝ないといけないってのも実感できますけど、でも、効果を実感できて良かったです」

「あの薬草は、これから売り出すのですか? ラクトスでは売っているのを見ませんでしたが……」


 疲労回復薬草でも、やっぱり取れない眠気を我慢しつつ、ルグレッタさんと話す。

 クレアはこっくりこっくりと頭を上下させていて、時折俺の方に寄りかかって来ているのが少し可愛い。

 ルグレッタさんは疲労回復薬草の効果に、少し興奮気味のようで目が冴えている様子。

 ライラさんは、背筋を伸ばして姿勢正しく座ったまま……寝ているなこりゃ、目を閉じたまま微動だにしない、ある意味すごい。


「疲労回復薬草の他にも、いくつかあるんですけど……そのまま売ると効果が高すぎて、まだ売ろうとは決めていませんね。集中して作れば、かなりの数が作れますけど、他の薬草も作った方がいいですし……やっぱり数が少ないと、値段も跳ね上がるでしょうから」

「成る程……それはそうでしょうね。あれだけの効果を、しかもすぐに実感できる程の薬草であれば、高値がついてもおかしくはありません」


 既に、ロエという高価で希少な薬草を大量に作っているからなぁ、あれがいいなら疲労回復薬草もとは思うけど、高価過ぎる物は危険も伴う。

 経済的にも、俺が狙われるって意味でも。

 とりあえずは、ミリナちゃんが作ってくれた薬で様子を見て、そして他の薬草や薬の売れ行き次第で、少しずつ出回らせてもいいかも? くらいだな。

 依存性や副作用がないにしても、それに頼り切って無茶してしまう人が出てもいけないし。


「とは言っても、直接手渡すのは制限していないので……入用でしたら、俺やクレアに直接言ってくれれば。まぁ、備蓄できるくらいの数は渡せませんが……あまり贔屓になり過ぎない程度で、外にも出ないよう気を付けながらですね」

「多くを渡してしまえば、それを売って利益を得ようとする者も出かねませんから、そうする理由はわかります」


 ルグレッタさんやユートさん達には、直接言ってくれれば疲労回復薬草に限らず、融通するつもりだ。

 とはいえ、さすがに数は制限させてもらうけど――。



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