第1349話 男女共に寝不足になっていました



「ワフ、ワッフワフー!」

「お、レオおはよう……ふわぁ……」


 体を伸ばしたりと、眠気を覚ますために軽めの運動をしていると、フェンリル達がいる方からレオがやって来て、元気よく鳴いた。

 少し早めに起きて、フェンリル達の様子でも見ていたのかもしれない。


「ワウ?」

「あぁ、あんまり寝てなくてな。さすがにちょっと眠い」


 挨拶を返しながらも、欠伸をする俺に首を傾げたレオ。

 慣れているから、眠くてやってられない……という程ではないけど、やっぱり眠気はまだ振り払えそうにないな。


「ワウゥ……ワフ?」

「ははは、大丈夫だよ。眠いくらいだし、もしもの時は疲労回復薬草もあるからな。けど、心配してくれてありがとなレオ」

「ワフワフ~」


 心配するような表情で、鼻先を近付けて来るレオ。

 その気持ちに感謝を込めて撫でつつ、大丈夫と伝えると気持ち良さそうに鳴いた。

 どうしてもつらい時は、疲労回復薬草でなんとかなるだろうからな。

 まぁあれは、眠気を全て取り除いてくれるわけじゃないけど……何度も使って実感しているが、疲労回復薬草はそのまま疲労を回復するための薬草。


 疲れから来る眠気はなくなるので、確実に今よりは楽になるが、睡眠を取らないといけない事には変わりはない。

 脳とか記憶とか内臓とか、寝ている間に疲労とは別で休んでいる部分まですべて回復するわけじゃないからな。

 結局、薬草があるからといって眠らなくて良くなるわけではないし、睡眠は大事だ。


 結局人間は二十四時間……この世界だと二十八時間戦い続けても、健康が損なわれるだけって事だな。

 ……作ろうと思えば、眠気を取り除く薬草も作れるのかもしれないけど、使い過ぎると危険な可能性もあるので、今はまだ作る気はない。


「さて、お湯をもらって顔でも洗って来るかな……お、レオも来るのか?」

「ワフワフ」


 朝の支度をするため、テントから離れると一緒にレオも付いて来る。

 特に遊ぶわけでもないけど、一応俺を見守るつもりなんだろう……一緒にいたいだけかもしれないが。


「そういえば、リーザはどうしたんだ? 一緒にいると思ったけど」

「ワフ。ワーフワッフ」

「成る程、ラーレ達と一緒か」


 いつも一緒にいる事が多いリーザは、今朝のお勤め? を済ませたラーレやコッカー達といるらしい。

 そっちにはフェンリル達もいるし、ティルラちゃんやシェリーもいて、一緒に過ごしているんだろう。

 昨日は男子会と女子会があったため、ティルラちゃんのテントで寝てもらったからな。


「クレアの方はどう……お、考えていたら……クレアー!」

「ワフー!」


 女子会で思い出した、クレア達の方。

 どうなったのかと思ったら、いつもとは違う様子でゆっくりと女性用テントの一つから、姿を現したクレアを発見。

 声を掛ける俺と共に、レオも鳴いてクレアを呼ぶ。


「あふ……たくみふぁん……おふぁようございまふ……」

「ははは、眠そうだね。昨日は夜遅くまで?」

「いえ……寝ていまへん」

「え?」


 眠気のせいなのか、頭がはっきりしていないせいでおかしな口調になっているクレア……少しだけ関西弁っぽくもある。

 って、あれ? 寝ていない?

 いくら盛り上がったとしても、昔の俺とは違って規則正しく生活しているクレア達だから、夜更かしはしてもそれなりに寝ていると思っていたのに。

 少なくとも、空が白み始める前には寝るものだとばかり……。


「ずっと話し込んひまっへ、気付いたら朝になっへひまひた……ふぁ……。それで、今出てきたところなんれふけど……」

「それはまた、話が盛り上がったみたいだね……」


 エッケンハルトさんに似たんだろう、朝が弱いクレアの寝起き……いや、徹夜明けは口調が怪しい。

 段々直っては来ているけど、こんな状態でよく朝まで話し込んでたなぁ。


「んっ! 痛いれふ……」

「だ、大丈夫?」

「ワフゥ?」


 気合を入れるためと口調を戻すためになのか、両手で頬を軽く叩くクレア。

 少し涙目になって、こちらに痛みを訴えて来る。

 思わず心配になって、クレアの頬に手を伸ばした……レオも、俺の横で心配するように鳴いている。


「はい……なんとか。はぁ……おはようございます、タクミさん。レオ様も」

「ワフ!」

「うん、おはよう。ところで、手が捕まえられたんだけど……?」


 ほんのり赤くなっているクレアの両頬、その左側に伸ばした俺の右手が、クレアの両手に捕まえられて当てられている。

 ちょっとだけ顔を動かして、まるで頬擦りしているようにも……少しくすぐったい。


「寝起きのタクミさんの手です。目が覚める思いです……」


 むしろこのまま寝そうなんだけど、それに寝起きじゃなくてずっと起きていたんだろうに。

 まぁ、クレアが楽しそうだから、しばらくこのままにしておこうかな。

 ほとんど使用人さん達だけど、さすがに周囲に人が多いから屋敷を出てからこっち、朝のあいさつ代わりのハグはなしにしているし、その代わりだな。


「タクミさんの方は、昨夜はどうでしたか? その、ルグレッタさんの」


 俺の手を頬に添えさせながら、聞いて来るクレア。

 男子会の様子が気になっているんだろう……まぁ、女子会を開いていたのも、ユートさんとルグレッタさんの事があったからだからな。


「最初はどうなる事かと思ったけど、結構収穫があったかな。詳しくは後で。フィリップさんやニコラさんもそうだけど、ユートさんもまだテントで寝ているよ。そっちは?」


 まさか、ちょっとしたことで嫉妬されたり、詰め寄られたりするとは思わなかったけど……。

 冷たい目とかの話の時はどうなるかと思った男子会、ニコラさんも含めて結構な成果はあったと思う。

 全てをそのまま伝えちゃいけないと思うけど、ルグレッタさん達にはある程度いい報告ができそうだな。


「半分以上、私の話をさせられました……皆で結託するなんて酷いです。特に、ライラとヨハンナからの追及が強かったんです」

「ははは、そうなんだ」


 少しだけ頬を膨らませるクレア……頬に添えている手で押したら、また空気が抜けそうだなぁ。

 怒られそうだから、今は自重しよう。


「私とタクミさんがどうなのかとか、タクミさんの事ばかり聞くんです」

「え、俺の事? うーん、まぁ皆気になっている事は同じなのかも? 俺も、クレアとの事はどうなのかって色々聞かれたよ」


 ヨハンナさんはともかく、ライラさんからも追及されたというのは予想外だけど、大体は俺がフィリップさん達から聞かれたような事と同じなんだろう。

 皆、身近なところでの男女間のできごとが気になっているってとこかな。



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