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第1347話 何かの琴線に触れてしまったようでした
第1347話 何かの琴線に触れてしまったようでした
「それもあるけど……いやいや、そうじゃなくて。それだけじゃないんだよ。タクミ君ならわかるよね? 女性は髪が命って。ほら、僕らはそういう文化だし」
「……それはわからなくもない、かな」
女性が髪を大事にする文化って、別に日本だけじゃないはずだけど……それはともかく。
つまり、ようやくユートさんの女性に対する好みらしい好みが引き出せたって事、かな?
「じゃあ、髪を使って何かをとかではなく、単純に艶やかな髪が長いのが好きって事?」
「うん、そうだね。見ていてなんかいいなぁ……って思うんだよね。もちろん、短くてもそれはそれでいいし、必ずしも長くなきゃいけないってわけじゃないんだけど」
「ようやく話に入れそうだ。うんうん、よくわかる。長い髪がこう……サラサラ~ッと風になびいていると、思わず目が釘付けになる気がするよな!」
「フィリップさんもなんだ……」
性格の話ではなく、見た目の話にはなるけど……フィリップさんもユートさんと同じく、長くて艶やかな髪が好きみたいだ。
……風になびくって部分は、俺も同意せざるを得ないけど。
なんだろう、言い訳みたいになるけど俺の場合は、なんとなく目が行く……くらいだったのが、クレアを意識するようになってからよく見るようになった、気がする。
とはいえ、大体はクレアの長くて綺麗な金髪を見ているんだけど。
「某は、よくわかりません。髪が長いと、動くのに邪魔になりそうとしか……ヨハンナ殿も、時折邪魔そうにしていますし」
「わかっていないなぁ、ニコラ君は。どれだけ邪魔になっても、長く伸ばして女性らしさを保ちたいんだよ」
「そうだそうだ。ヨハンナはあれで、結構女性らしいところが……あー、あったか? 髪を伸ばしているのは、クレアお嬢様が長いから同じようにしているだけだと思っていたけど」
首を傾げるニコラさん……機能重視で考えると、気持ちはわからなくもない。
ただ、盛り上がったユートさんとフィリップさんには通じなかったらしく、二人共言いたい放題だ。
ヨハンナさんはポニーテールにしている事が多く、降ろせばかなりの長さなのは見ればわかるけど……伸ばしている理由なんて人それぞれだろうに。
……フィリップさんの言う、クレアと同じようにしているという理由が、一番それらしくはあるけど。
「そういえば、ルグレッタさんも髪は長い方だったっけ」
ここで意識をルグレッタさんの方に向けてみようと思い、名前を口に出してみる。
ルグレッタさんは、クレアやヨハンナさん、それからライラさんよりは短いけど、どちらかと言えば長い方……ユートさんやフィリップさんが語る、艶やかで風になびく髪という条件にも当てはまっているから。
「ルグレッタ? そういえばそうだね。伸ばしている理由はわからないけど……好きな男でもいて、そのアピールのためなのかな?」
「「「……」」」
興奮気味にフィリップさんと語り合っていた動きをはたと止めて、首を傾げたユートさん。
言っている内容に、思わず真顔で黙り込んでしまう俺達三人。
わかっていた事だけど、本当にユートさんとしてはルグレッタさんを意識していないみたいだ。
理由はともあれ、気になっている女性にはなれているんだから、ここからだな、うん。
「何度目かだけど、どうしたのタクミ君達?」
「い、いや……まぁその、身近にいると気付きにくいって言うから、うん。……えっと、ルグレッタさんの事ももう少し見るといいと思うよ、ユートさん。ほら、ルグレッタさんも綺麗な髪をしているから」
「へぇ~……クレアちゃんの事だけじゃなく、他の女性の事も見ているんだね、タクミ君……?」
おや? 何か、ユートさんの様子が……?
俺はただ、不憫だからちゃんと見てあげるように促そうと思っただけなんだけど……。
「クレアちゃんという相手がいながら、ルグレッタにまで手を出そうとしているの? これは、クレアちゃんに忠告しておかないといけないかな? それとも、僕と同じで被虐的な趣味を持ってみる?」
「そ、そういう趣味に首を突っ込む気はないかなぁ……?」
なぜか、目の据わった状態のユートさんから詰め寄られる。
あれ、俺なんか悪いこと言ったかな……というかこれ、俺がルグレッタさんに気があるって勘違いされてない……?
「首を突っ込まなくても、足を突っ込む……足で踏みつけて引きずり込まれる事もあるんだよ? 確かにルグレッタは僕が認める素質の持ち主。ちょっと優し過ぎる部分はあるけど、確かに美人だ。髪も艶やかで、クレアちゃんにも負けず劣らずだし」
「いや……その……」
優し過ぎるとか、美人とか、ユートさんもちゃんとルグレッタさんの事を見ているんじゃないか。
と思ったけど、詰め寄られてそれどころじゃない……事情を知っているはずのフィリップさんやニコラさんからの助けはなさそうだし。
「その? なんだって言うのタクミ君? それ以外で君は、ルグレッタに対して何か語れるような部分を見つけているの?」
「そうじゃなくて……」
「そうじゃないならなんだって言うの? もしかして適当に言っただけとか? それはさすがにルグレッタに対して失礼なんじゃないかなぁ? あの子だって女の子……じゃなくて女性だよ?」
なんでそこで、女の子から女性に言い直したのか。
いやまぁ、ユートさん的にルグレッタさんの年齢を気にしてかもしれないけど……俺はいくつか知らないが。
というかこれって……。
「も、もしかしてユートさん……俺がルグレッタさんの事を褒めたから、嫉妬している?」
俺はクレアという素晴らしい女性がいるから、ルグレッタさんに気があるとかじゃないんだけど。
ユートさんは何かを勘違いしてか、俺が手を出そうとしているとか考えたのかもしれない。
それでもしかして、嫉妬しちゃって俺に対して口早に詰め寄っている、とか?
「し!? え、あれぇ……?」
「あ、しぼんだ」
俺の言葉に一瞬だけ驚いて声を出し、首を傾げて少し前までの雰囲気に戻った。
フィリップさんが呟いたように、怒りとか嫉妬心とかが、まさしくしぼんだような感じだな。
ルグレッタさんが女性として魅力的だとか、そこを否定するつもりは全くないけど、でも俺にはクレアがいるんだから、そんな気は一切ない。
でもユートさんからすると、親しい人……というかこれ、意識してるしてないじゃなくて、自分でも気づいていないのかな? 俺自身、クレアに対する気持ちがはっきりするまでに、少しだけ似ているような……。
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