第1324話 リーザを起こしてしまいました



 クレアの案と愛護法は、動物と魔物という違いはあれど、考える方向が似ていれば近い案になるものなのかもしれないな。

 ランジ村にいる犬達のように、魔力を持たず魔物ではない動物もいるみたいだし……従魔も似たような方向で考える事ができるんだろう。

 もちろん、行き過ぎた愛護にならないよう注意する必要はあるけど。

 ……全ての魔物を保護するべきとかまで言い始めたら、それで危険になるのは人間だ。


「そうですね……訓練、と言われてしまえばそれが暴力と断定する事はできなくなりますから……」

「まぁ、訓練するにも管理された場所みたいのがあればいいんだけど……誰かが行きすぎないように見張っているとか。誰かに見られているってだけでも、違うもんだし」

「訓練するための場所、ですか。つまり従魔を鍛えたり、何かを教えたりする場所があればというわけですね」

「ま、まぁ、あればって希望みたいなものだけどね」


 従魔を鍛える訓練所、養成所みたいな場所か……契約主が訓練するのか、それとも誰か教官が付いて訓練するのか。

 いや、もうそれは教練になるんじゃ? さっきよりも近い距離で息巻くクレアに少しだけ圧されながら、そんな事を考える俺。

 従魔との関わりが多いからか、そっちばかりの案を考える事がよくあるなぁ。

 このままだと、公爵領が従魔の園とかになってしまいそうだ……いや、俺の周りだけかも?


「いえ、タクミさんの案は良い考えだと思います。従魔同士の関わりや契約主である人間同士の関わりも、持たせられますし。それでいて、お互いの監視もできていくつかの懸念点も解消されるかもしれません」


 クレアの考える懸念点というのが何かはわからないけど、お互いがお互いを見ている状況が多ければ、下手に従魔を虐待もしくは遺棄する人は減るかもしれない。

 案が通って決まり事が新しくなったとしても、やっぱりどうしてもある程度違反する人は出て来るだろうから。

 そのための互助組織……組織じゃないけど、互助的だったり自浄的な作用がほんの少しくらいは期待できる、かな?

 あとは速やかに通報できるような……そう、相談所みたいなのがあればいいかなと思う。


「早速明日、ユート様やセバスチャン達にも話してみる事にします。ありがとうございます、タクミさん。おかげで良い案ができそうです」


 さすがに今言った案をそのままとはいかないので、ブラッシュアップしたり細部を決める必要があるんだろう。

 ユートさんはわからないけど、セバスチャンさんやアルフレットさんなら、ちゃんとした決まりにしてくれそうだ。

 訓練する場所にクレアが反応した時、そのままエッケンハルトさんに話を持って行きそうな勢いを感じたけど……というか、以前のクレアならそうしていたような気がする。


 エッケンハルトさんなら、むしろ明日にでも実行させようと動き始めそうなくらいだけど。

 そこをちゃんと皆と相談して、話し合うようになったのは成長なのかもしれない……もう、無理にでもシルバーフェンリルを探すために森へ行こうとしたような、強引な事はしなくなっているのかもしれない。

 なんて、少し寂しく感じながらも、内心で俺はクレアの保護者か! と自分に突っ込んでいたりする。


「俺は何も……ほとんどクレアが考え付いた事だよ」

「いえ、タクミさんの少しずつ変えていく……という言葉がなければ、全てを良い方向に、そして一度に変えるようにばかリ考えていましたから」

「そうかな? クレアならいずれ考え付いていたと思うけど……でも、案が浮かぶ助けになったのなら良かったよ」


 俺が話したのはほとんど、クレアが考えた事に付けたすようなのばかりだ。

 喜んでいるようだし、クレアなら俺が何も言わなくてもとは思うけど……助けになれたと言ってくれているんだから、素直に受け取っておこう。


「えぇ、凄く助かりました!」

「……うに?」

「ワウ?」


 大きな声で感謝してくれるクレア。

 だけどその声に反応したのか、クレアに抱かれていたリーザの耳がピクピクと忙しなく動いたかと思ったら、閉じていた目を薄く開けて、小さく寝ぼけ気味の声を出した。


「あ……起こしてしまいました……」

「ちょっと声が大きかったね」


 バツが悪そうにするクレアに、苦笑する俺。

 まぁ、ちょっと興奮してしまっていたし、仕方ない。


「んー、おあよう、パパ、ママ。クレアお姉しゃん」

「しゃん……? 寝起きのリーザちゃんも可愛いですね……」


 両手でくしくしと目をこすりながら、舌ったらずな挨拶をするリーザに、ときめいている様子のクレア。

 さっきまで真面目な話をしていたはずなのに、クレアはリーザにとろけたような笑顔を向けている。

 うんうん、いつも可愛いけど、やっぱり寝起きのリーザは可愛い……クレアの気持ちはよくわかるし、リーザはさすがの破壊力だ。


「ははは……まだおはようの時間じゃないぞ―リーザ。もう少し寝てていいんだぞ?」

「うんー。でも、起きう……」

「そうか?」


 俺もクレアと同じようにとろけてしまってはいけないので、内心でだけリーザの可愛さを褒め称えつつ、声を掛ける。

 まだ眠そうだけど、リーザは起きる事にしたようだ。


「んー……んっ!」

「あっ……」

「キュ……ゥ……」


 リーザがパッと目を大きく開けて、クレアの腕から抜け出し、立ち上がる。

 思わず声を出したクレアは、離れてしまって残念そうだ……暖かいとか言っていたし、コッソリ尻尾を撫でていたようだから急に離れて寂しかったんだろう。

 俺が抱いているシェリーを、そっとクレアの方に移しておく。

 シェリーの眠りはまだまだ深そうだ。


「にゃう……にゃ、にゃ。んに! おはよ~ございま……す? あれ、まだ暗いよ?」


 立ち上がってすぐ、尻尾を整え、耳を整えて毛並みを綺麗にした後、俺とクレアに振り返って、深々とお辞儀しながら挨拶。

 けど顔を上げて暗い事に気付いて、首を傾げた。

 ハイ、優勝! なんて、何に優勝したのかわからないけど、言いたくなるのを我慢する……。


 毛並みを整えたり、丁寧に挨拶するのは最近のリーザの中での流行りらしい。

 ライラさんやゲルダさんの真似をして、深々とお辞儀をする挨拶を覚えたんだけど……暗いのに気付くのが遅れたのは、まだ少し寝ぼけているからかもしれないな――。



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