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第1269話 ミリナちゃんが新しい薬を作ってくれました
第1269話 ミリナちゃんが新しい薬を作ってくれました
小瓶を差し出した後、手をギュッとして拳を作り、緊張した様子のミリナちゃん。
テーブルの上には三つの小瓶が置かれ、俺とレオ、リーザとライラさんが見つめている。
「凄いね、ミリナちゃん」
「えへへ。でも、まだまだわからない事が多くて……試薬を作る時に、色んな人から教えてもらう事も多かったです」
ミリナちゃんは、ランジ村で薬の調合をする係になっている。
だからか、俺が他の事で忙しい間にも屋敷にある薬や薬草、調合に関する書物でずっと勉強していた。
時折俺が作る薬草の採取などを手伝ってくれたり、他にも使用人見習いとして働いているのに……合間を縫って頑張ったんだろうなぁ。
俺なんて、別の事にかまけていて最初にセバスチャンさんから借りた、初心者用の本を読んだくらいで止まっている。
薬師として、という意味ではないとミリナちゃんは言っているけど……もう俺がミリナちゃんの事を師匠と呼ばなきゃいけない気すらするな。
まぁ、試しに呼んだら泣きそうな顔になって、全力で否定されたんだけど……そんなに、俺を弟子にするのは嫌だったのだろうか?
ともあれ、そんなミリナちゃんは学んだ事を実践するため、新しい薬の調合をしてみたいと以前から相談されていた。
まだ薬酒用の物しか調合した事がなかったから、他の物も作らないといけないのはわかっていたし……ランジ村に行ってから取り組もうとしていたけど、もう作る事ができたのはミリナちゃんが優秀だからだろう。
「あ、危険な事とかはなかった?」
「はい。本に書かれてある事や、師匠に言われたように注意して調合しました。危険な薬草は使っていませんし、大丈夫でした」
「それなら良かった」
調合の注意点はよく学んでいるミリナちゃんの方が、熟知しているのは間違いなかったけど、俺からも一応注意だけはしておいた。
いつも『雑草栽培』で作っている薬草を、少し多めに作ったくらいで危険な薬草もないし、それもあって問題はなかったようだ。
薬草によっては、肌がかぶれたり素手で触ると危険な物もあるらしいから、調合するしないに関わらず注意するに越した事はない。
まぁ、そういった薬草は現状では俺の『雑草栽培』で作っていないけど、これから先取り扱いの幅を広げる事もあるかもしれない。
お試しとしては、今回の事が丁度良かったのかもな。
「それじゃえっと……三つあるけど、どれも違う物なんだね」
「そうです。それぞれ印がつけてありますけど……」
小瓶は三つ、全てに入っている液体はよく見るとそれぞれ微かに違いがあり、コルクにある印で見分けるようだ。
ミリナちゃんが、それぞれの小瓶を示しながら説明してくれる……。
一つは、コカトリスの石化を癒す薬。
本来は薬草一つで治るんだけど、飲み薬のためか効果が出るのに少し時間がかる……俺が『雑草栽培』で作った、疲労回復や筋肉回復、身体強化や感覚強化の薬草のように飲み込んですぐ効果が出るのが、特殊なんだけど。
ともあれ、効果をすぐ出せるようにするため、いくつかの薬草などを調合して作った物だとか。
「結構、粘度があるんだね……塗り薬としては、いいのかも」
瓶を手に持って揺らしてみると、液体なのに内部であまり揺れないのは粘度があるからだろう。
患部に直接塗れば、飲み薬より効果が出るのが早そうだ。
「飲む物ではなく塗る物なので、水を少なめにして塗りやすくしてみました。効果は実証できていませんけど……薬草以外の素材を入れたので、ほぼ確実だと思います!」
「薬草以外……あれかぁ……」
薬草以外の素材……それはコカトリスの羽根。
コカトリスから受けた石化を、コカトリスの羽根で癒すという……蛇毒の血清の精製方法が少しだけ頭に浮かぶ作成法。
これは、俺とミリナちゃんが作る薬の相談をしていた時、コッカー達が話を聞いて提案してくれた事だ。
まだ子供のコッカー達は石化毒を持っていないが、それを治す効果がある事はコカトリスなら知っている事だとか……まぁ、自分達の持っている毒の抗体を、自分達が持っていないと大変な事になるからな。
ちなみに素材を使ったと言っても、羽根をむしったわけじゃない。
コッカー達は屋敷の庭で害虫が付いていないかなど植物のパトロールや、自由に遊んでいるためよく羽根が抜ける。
抜けてそのまま放置された物は使えないが、ちゃんと保管していれば使えるし、生え変わりが早いため一日で十枚以上が抜け落ちる。
コッカーとトリース、二体いるので薬として調合する素材としては十分過ぎるってわけだ。
試作の薬一個に対し、羽根は一枚もいらないから結構コスパがいい……試薬が成功なら、定期的に屋敷から運ぶ手筈になっている。
コッカー達によると、元々の薬草と混ぜる事でさらに効果の増幅もしているとかなんとか……そこまでは求めていなかったけど、効果が良くなるのは悪い事じゃない。
「薬と言っても、コッカー達の羽根が入っている物を、飲むのはちょっと気が引けるからね……」
塗り薬を、と考えた一番の理由は実は効果が出るまでの時間ではなく、コッカー達の羽根を飲みたくないという考えからだったりする。
いや、緊急時にそんな事を躊躇している暇はないと思うけど、できるなら飲まずに効果が出る物が欲しかったからな。
ミリナちゃんはコッカー達とも仲良くしているし、むしろミリナちゃんの方が飲み薬にするのを嫌がったんだけど……ちゃんと塗り薬になったのなら良かった。
「とりあえず、これは成功って事で。まぁ、実際の効果はいずれ試そう」
「はい!」
嬉しそうに頷くミリナちゃん。
効果は一応コッカー達が保証してくれているようだけど、それでもちゃんとテストはしないといけない。
塗る物だから、皮膚が受け付けない人もいるかもしれないし……こちらの世界は薬への審査的なものは厳しくないけど、でもちゃんと確かめてからじゃないと広く売り出したくないからな。
副作用の出る物じゃなくても、何かあれば協力してくれている公爵家の評判に響くし、何より使って苦しむ人が出るのは嫌だ。
まぁ、そこまでコカトリスの石化を受ける人も多くないらしいし、販売開始までゆっくり試して行けばいいか――。
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