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第1263話 ティルラちゃんに義兄と呼ばれました
第1263話 ティルラちゃんに義兄と呼ばれました
「そうだったんですか……なんだか楽しそうです。あ、そういえば、今日は皆なんだか楽しそうな雰囲気です! 姉様だけじゃなく、皆ニコニコしています! やっぱり、楽しい事があったんですね」
「まぁ楽しい事は、あった……のかな、うん」
意外と……ではないか、目聡いティルラちゃんはクレア以外にも使用人さん達の雰囲気にも気付いていたようだ。
起きてから部屋でクレアと話して、すぐに裏庭に直行したため多くの使用人さん達を見たわけじゃないけど、それでもなんとなく屋敷全体の雰囲気が明るい気は確かにする。
裏庭に向かっている時も、すれ違う使用人さんのほとんどが朗らかな笑みを湛えていたからな。
朝食の時は新しい料理を出す時以外、あまり顔を出さないヘレーナさんがわざわざワゴンに乗せて運んできたくらいだ。
もちろん、他の使用人さん達と同様に抑えきれない笑みを浮かべて。
……ティルラちゃんが目聡くなくても、何があったかはわからなくても楽しそうとか明るい雰囲気ってくらいは、察する事ができるか。
「ティルラお嬢様、失礼します……実はですね……」
「セバスチャン、どうしたんですか? ん、ふむふむ……」
「……何か、嫌な予感がするけど」
なんとなく言いづらくて、ティルラちゃんにはっきりと説明できない俺を見かねてか、セバスチャンさんがティルラちゃんに小声で何やら説明を始めた。
うんうんと頷いているティルラちゃんだけど、ちらちらと俺やクレアに視線を贈るセバスチャンさんを見ていると、少し……どころかかなり嫌な予感がする。
説明できる事以外にも、楽しそうなんだよなぁ……かと言って、知りたがっているティルラちゃんに何も話さないわけにはいかないし、そもそもクレアの妹だから理解して欲しいというのもあるし。
なんて葛藤していたら、セバスチャンさんの説明が終わったようで、ティルラちゃんの表情が輝き始めた。
いや、本当に輝いているわけじゃないけど……他の使用人さん達と同じように、満面の笑みというか楽しそうというかだ。
「タクミさん、私の義兄様になってくれるんですね!?」
「んぐっ! え、えぇ!?」
そんなティルラちゃんの、楽しそうな期待するような一言に落ち着くために飲もうとしていたお茶を、噴き出しかけ、慌てて飲み込んで驚く。
「セ、セバスチャンさん……一体どんな説明を!?」
「おや、私は昨夜見たままの話しをしただけですよ?」
「……絶対嘘です」
昨夜の見たままだと、ティルラちゃんの教育上あまりよろしくない部分もあったから、その辺りは話していない……と思う。
俺が後ろから抱き締めてしまった事だとか、クレアと抱き合っていた事とか。
じゃないと、いきなりティルラちゃんから義兄様という言葉は、出ないはずだ。
「冗談はさておき、クレアお嬢様へのタクミ様から心を込めたプレゼント……特にネックレスに関してですな。それと、受け取ったクレアお嬢様の反応などを少々」
って事は、ネックレスにまつわる習わしというか言い伝えというか……結婚を申し込む際に、というのも伝えたんだろう。
つまりティルラちゃんには、俺が結婚を申し込んでクレアが受けた、と言うような伝わり方をしたのかもしれない。
義兄様という事は、もし結婚したらティルラちゃんが義理の妹に……なんて事も話していそうだ。
「知らなかったとはいえ、ネックレスの事を言われるとちょっと……でもさすがに、いきなりティルラちゃんの義兄になるとかは……」
「えー、タクミさんが義兄様になってくれたら、楽しそうですけど……なってくれないんですか?」
「そうなんですか、タクミさん!?」
まだ想いを通じ合ったくらいで、そこまでの急展開は……という意味で言ったのだが、残念そうなティルラちゃんに続いて、ずっと笑い声を漏らしていたクレアからも大きな反応があった。
いや……考えてないないわけじゃないし、もし上手くいけば……というのは考えてはいるけど、いきなりってのもちょっと行き過ぎと思っていただけで……。
もちろん遊びとか、そんな考えは一切ないしそうった器用な事はできるような俺じゃない。
そもそも、そのために時間をかけて気持ちを確かめていたわけだからな。
「タ、タクミさん……私との事、先までは考えて下さっていないのですね……」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
悲しそうに顔を伏せるクレア。
ついさっき、クレアを悲しませないようにと心に決めたのに、これはいけない。
「うぅ……」
「い、今は気持ちがクレアに通じて、クレアからの気持ちも受け取って、それだけで胸がいっぱいというか、ランジ村で薬草畑が本格的に開始される前だし。それに、新しい場所に移り住んでやらなきゃいけない事も多いから……そういった事はじっくり考えて行こうかなって。でも……」
俯いて声を漏らすクレアを、このまま悲しませないように言い募る。
ランジ村に行けば環境が変わるのは当然ながら、考える事ややるべき事は今以上に増えるだろう。
だから今は、全ての事をおろそかにしないように、と思っているだけだ。
「でも……?」
それでも、いきなりの事で混乱しつつある頭の中を整理するため、一旦言葉を止める俺に、クレアが悲しそうな表情を向けて首を傾げる。
その他にも、ティルラちゃんやセバスチャンさん……だけでなく、ライラさんや周囲にいる使用人さん達も、こちらを見ていた。
皆、目の奥には何かイタズラっぽい色が見え隠れしているような?
もしかしてこれは……と思ったけど、混乱中の脳内は言葉を口に出すのを止められなかった。
「も、もちろんクレアさんといずれはと……これからもずっと一緒に、と考えて……います!」
何故こうなったのかわからないまま、決意の言葉を口にする俺。
さすがに、結婚だとかは口にせず遠回しな言い方になったのは、その言葉はまた俺自身からはっきりとクレアに伝えたかったからって事にしておいて欲しい。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「タ、タクミさん……」
ティルラちゃんを始め、セバスチャンさん他使用人さん達が声を上げて拍手までしている。
クレアは、また俯いてしまったけど昨夜のように首元まで赤くなっているから、照れているだけだと思われる。
悲しませる事にはならなくて、一安心……かな?
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