第1232話 クレアに怪しまれました



「大体の意見をまとめると……手作りで身に付ける何か。できれば形に残る物がいい、ですかね?」

「プレゼントをするのであれば、そうでしょう。もらった思い出も、形に残ればいつでも思い出す事ができますから」

「ジェーンも、思い出してくれているのか……っと、すみません」


 手作りとなると、途端に難易度が上がる気がするな……指輪、はその気がないとは言わないけど、重い気がして俺としては避けたいしそもそも作れない。

 『雑草栽培』で綺麗な花でも? いや、ギフトに頼るのは手作りとは違う気がするな。

 ギフトを使ったとしても、その後俺の手で何か手を加えればいいとは思うが、そのまま渡すのは違うだろう。


「とりあえず、プレゼントを渡すとして……あとは、ちゃんと気持ちを伝えなければいけませんね」

「はい。クレアお嬢様も、タクミ様の言葉をお待ちだと思います」

「プレゼントや、気持ちを伝える際に先程良い意見が出ていましたね……」


 プレゼントの内容は自分で考えるとして……何も思いつかなかったら、誰かに相談するかもだけど。

 ともあれ、贈り物以外にもちゃんと気持ちを伝えるのも忘れないようにしなければならない。

 それが一番の目的だからな。

 そうして、クレアに気持ちを伝える方法の相談から、準備の相談に切り替わり、夕食の準備が遅れている……と料理人さんがヘレーナさんを呼びに来るまで続いた。


 準備に関してはチタさんもジェーンさんも、まともな意見を言ってくれたが、最後までフィリップさん

だけは何度も浮き沈みを繰り返していた。

 不憫な……と思いかけたけど、途中からわりと楽しそうに浮き沈みをしていたので、ほとんどわざとだったんだろうな。

 ……ヨハンナさんの肘鉄は、冗談ではなくかなり痛そうだったけども。



「タクミさん、なんだか様子がいつもと違う気がしますけど……どうかされましたか?」

「え? あ、いや……な、なんでもないよ。気にしないで」

「そうですか……? うーん」


 なんて会話が夕食の時に交わされたけど、とりあえず誤魔化しておく。

 意識しすぎなのか、使用人さん達との相談を経てどうするかを考えていたせいなのか、ちょっといつもと違う雰囲気を出してしまっていたようだ。

 首を捻りつつ、訝し気にしているクレアを見ていると、本当に誤魔化せたのか怪しかったけど……フェリーが連れてきたフェンリル達の話をする事で、話題を逸らせた。

 ありがとう、お腹を見せて転がって早速野生を感じさせなくなったフェンリル達……。


 ちなみにセバスチャンさんは「ふむ……」なんて呟きながら、俺をジッと見ていた。

 相談も含めて、今回の事はセバスチャンさんには内緒で進めようとしているから、バレていないか不安だ。

 セバスチャンさんに話したら、頼りになるアドバイスがもらえるのはわかっているんだけど……これまでの事から、絶対面白がってしまいそうだからな。


 使用人さん達に相談はしたけど、結局は一番俺が考えなきゃいけない事で、参考意見としてありがたく頂戴しつつどうするのか、どう伝えるのかは自分で決めないといけない事だってわかっているから。

 ……セバスチャンさんと相談すると、全ての段取りを整えてくれそうだからなぁ、あまりそこに甘えたくはないという個人的な意地みたいなのもあったりする。


「はぁ……なんとか、クレアにはバレずに済んだのは良かったかな」


 夕食後、諸々のやる事を済ませて部屋に戻って来てから一息。

 怪しまれてはいたけど、俺が何をやろうとしているのかまではバレていない様子だったので、ホッと一息。

 バレるにしても、どうするのかを決めてからだ。


「ワフ?」

「パパ、どうしたの?」

「あぁ、レオ、リーザ。えっとな……?」


 溜め息を吐いてベッドに座っている俺に、レオとリーザが窺うように声をかけてきた。

 使用人さん達と相談した時は、レオにはリーザの相手をしてもらっていたから、俺がやろうとしている事は知らないので、説明しておく。

 レオには一応、何を相談しているのかは伝えてあるけども。

 この世界に来てから……いや、保護した時からの相棒だから、こういう事はちゃんと話しておきたい。


「うーん? パパはクレアお姉ちゃんが……でも、他の皆やリーザの事は? あとママも」

「皆の事も、リーザやレオの事ももちろんそうなんだけどでも、それとはちょっと違ってだな……」


 リーザには、異性としての好意とかはまだよくわからないようで、俺の話を聞いてもしきりに首を傾げていた。

 一応、初潮が来て体的には成長しているようだけど、心の方はまだ追い付いていないようだ。

 ……というか、そういった教育とかをしていないから、わからなくてもおかしくないのか。

 この世界で、男女間のあれこれを教えるような教育ってあるんだろうか? まぁ、この辺りに関しては急がず、家庭教師を任せるデリアさんにお願いしようと思う。


 男の俺が教えられる事は少ないかもしれないし、同じ獣人だから適任のはず。

 決して、丸投げしようとしているわけではない。


「ワウ、ワフワフゥ……」


 クレアとの事を、リーザにどう説明したものか四苦八苦している俺を見ながら、レオは面倒そうに溜め息を吐いている。

 というか、人間って面倒……みたいなニュアンスを感じた。

 まぁ、さっさと番をとか言っちゃうレオだから、男女間のこういう話は回りくどく感じてしまうのかもしれないな。


「……パパがクレアお姉ちゃんに気持ちを伝えると、どうなるの?」

「どうなる……と言われると返答に困るなぁ」


 リーザからの素朴な疑問。

 うまく行けば、クレアと過ごす時間が増えるとか、そんなところかな?

 まぁ、誰はばかる事なく一緒にいられるのは間違いないか……もちろん、時と場所は弁えなきゃいけないし、クレア次第な部分もあるけど。

 俺は……どうだろう? どうしたいんだろう? クレアと一緒にいたい、それは間違いないんだけどそれだけじゃなくて……今よりももっと近づきたいとかかな?


「うーん……」


 男の欲望的な事なら出て来るけど、そればかりなのはさすがにどうかと思うし……。

 改めて、クレアとどうしたいのかを考えると、まだまだはっきりとしない事が多いのに気付いた。

 でも、絶対に胸を張って自信を持って言える事は一つだけあって、それだけははっきりしているんだけど。

 ……ただ、エッケンハルトさんの前でだけは、足が震えたりする事があっても許して欲しいとは思う、自分で考えていて情けないけど。


 そんな風に、悩む俺とよくわからず首を傾げるリーザ、溜め息を吐くレオ。

 何をするかは決まらないまま、でも何を伝えたいかは決まって、夜が更けていった――。



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