第1222話 ハンバーグはフェンリル達に好評のようでした



「あー……まぁ、俺のおかげというより、コッカー達の方が活躍したような気もしますけど」


 真正面からゲルダさんとライラさんに感謝をされ、喜んでいるのがよくわかる二人の笑顔を見て、照れくさくなって頬をかく。

 あ、手を洗う前だった……後で顔も洗っておかないと。


 俺自身ここまで上手くいくとは思っていなかったし、妖精が姿を見せるようになったのは、コッカー達のおかげだからなぁ……。

 ジェーンさんと不自然な事に気付いたってのはあるし、それもあってコッカー達が実力行使したっぽくもあるけど。


「では、私はこれをヘレーナさんの所に……きゃっ! とっとっと……ふぅ」

「っ……はぁ……良かった」

「妖精がいなくても、あまり関係ないかもしれませんね……」


 形成されたハンバーグを焼き担当のヘレーナさんの所へ運ぶため、お皿を持って駆けだしたゲルダさん。

 だけどすぐ、調理台の端に足を引っかけて転びそうに……なったけど、ケンケンしながら途中でバランスを持ち直してお皿をしっかり持って、なんとか落とさなかった。

 あれが妖精の仕業だったら確実に転んで、持っていた物をぶちまけつつもゲルダさんが怪我をしないように、妖精がフォローしていたんだろうな。

 なんて考えながら、咄嗟に伸ばしていた手を戻し、ライラさんと顔を見合わせて苦笑した。

 これからドジは多少減ってくれるんだろうけど、やっぱりゲルダさんはゲルダさんだな――。



「グルゥ! グルゥ~」


 ヘレーナさん達料理人さんによって、成形したハンバーグが美味しく焼き上がり、山のように積まれたのを食べて嬉しそうな声を上げるフェリー。

 途中、フェンリルの一部とフェリーが肉の焼ける匂いに釣られていたのを、レオが諫めるという場面もあったりしたけど、なんとか大量のハンバーグを焼き上げて歓迎会が開かれた。

 まぁ、フェンリル達を諫めていたレオも、口からよだれが垂れていたりもしたんだけど……我慢できたのでしっかり褒めておいた。

 ともあれ、作ったハンバーグはフェンリル達も気に入ったようで、皆美味しそうに食べてくれている。


 食べる量が多いのと、数が多いのでそれぞれにお皿の用意ができず、敷物の上に積まれている状態なのは勘弁して欲しい。

 屋敷にお皿の数はそれなりに揃っているんだけど、体の大きいフェンリル達全員に行き渡る程の、大きなお皿がないからな。

 ちなみに、フェリーを含めた全てのフェンリルが積まれたハンバーグを挟んで、俺達に顔を向けて整列しながら食べている。

 ……食べる時、喜んでいるためか尻尾がブンブン振られてしまうから。


 外だし、数も多くて皆尻尾が大きいから……砂埃どころか、砂嵐が起きそうだった。

 実際、ハンバーグ……もとい並んでいるフェンリルの向こう側は、砂どころか拳サイズの石すら飛び交っているのが見えるくらいだ。


「タクミ様、レオ様。こちらをお試し頂けますか……? もちろん、クレアお嬢様も」


 ハンバーグを食べて喜んでいるフェンリル達を眺めつつ、こちらもこちらでパンに挟んだりと盛り付けられた物を食べている俺やレオ。

 そこに、ヘレーナさんが何やら料理人達とお皿を持って声をかけてきた。


「ヘレーナさん?」

「ヘレーナ……新作ができたのね?」

「ワフ、ワフワフ!」


 ヘレーナさんに注目する俺とクレアに、尻尾を激しく振るレオ。

 そういえば、何か新しい物を作るとかで……俺達がハンバーグの成形をしたり、フェンリル達を迎えている間、料理人達と顔を突き合わせて真剣に話をしていたっけ。

 もちろん、その間もヘレーナさん達も成形しながらだけど。

 レオは匂いから、既にそれが美味しい物だとわかっているんだろう……既にハンバーグをかなり食べているにもかかわらず、尻尾の振りが激しく、まだよだれを垂らさんばかりの喜びようだ。


 ティルラちゃんやリーザも期待するような視線をヘレーナさんに向けており、セバスチャンさんも興味深そうにしている。

 新しい美味しい物か……俺も興味あるなぁ。

 そういえば、以前にもヘレーナさんは、新しい料理を作る意気込みを見せていたし、俺が伝えた物以外でもずっと考えていたんだろう。

 レオとも約束していたからな。


「はい。タクミ様やクレアお嬢様だけでなく、是非レオ様にも食べて頂きたいと、料理人一同頭をひねって作らせて頂きました!」

「ワフ、ワフ!」


 クレアの言葉に頷き、意気込んでいる様子のヘレーナさん。

 若干前のめりなのは、それだけ頑張って皆で考えたからだろう。

 レオも、期待するように鳴いている。


「ありがとうございます。新しい料理ですか……楽しみです」

「もしかしたら、以前のようにタクミ様はご存じかもしれないのですが……」


 お礼を言って微笑みかけると、若干苦笑するヘレーナさん。

 以前、ヨークシャー・プディング……ヘレーナさんは、ヨークプディンと呼んでいたか。

 それを新しく思いついた料理として出した時、俺が知っていたために落胆させてしまったんだったな。

 まぁ、それもあって新しい料理だけでなく、俺に今までなかった料理のアドバイスを求める事が多くなったんだけど。


「あ、お気になさらず。もしタクミ様がご存じであったとしても、少なくとも公爵領内にはない料理のはずですので。その際には隠す事なくお教え下さい」

「そ、そうですか……わかりました」


 俺が微妙な表情をしている事に気付いたヘレーナさん。

 もし知っていても、言わずに新しい料理だと俺が気を遣ってしまうかと考えたんだろう。

 俺自身は料理に関して素人同然だけど……多少なりともに色々な物を食べてきたし、美味しい物好きな日本人だからある程度見聞きする機会もあった。

 それこそ、ちょっと調べればインターネットとかで検索もできたからな。


 でも、もし知っていたとしてもめげずに教えて欲しいという事なので、遠慮はしないでおこうと思う……むしろ遠慮した方が、意気込んでいるヘレーナさん達には失礼かもしれない。

 なんにせよ、こちらでは新しい料理だろうという事なので、それはそれで歓迎だ。


「では……こちらです」

「それは……」

「結構、大きいのね。レオ様用かしら? だとしたら小さめかしら……?」

「いえ、レオ様用はまた別に。こちらはタクミ様やクレアお嬢様方に試食していただくための物です」

「ワフゥ?」



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