第1196話 流れに任せると邪魔をされる定めのようでした



「はい。でも、タクミさんやレオ様と出会って、色々と考え方も変わりました。ティルラもですけれど、ギフトや魔力がどうのと言ったとしても、レオ様にも。それどころか、フェンリル達にも」

「それはまぁ……」


 比べる相手がちょっと……と思わなくもないけど、近くにいるようになったからこそ考えてしまうのかもな。

 レオは特別として、フェンリル達を見ていると魔力だけでなくギフトがあろうと、人間一人の力なんてたかが知れているというのがよくわかる。

 まぁ、別に敵対するわけでもなし、お互い協力していけばいいだけなんだけど。


「だから今は、ティルラはティルラ。私は私……フェンリル達やレオ様も、それぞれ比べる意味はあまりないのだと、そう考えています」

「うん、人にしろ魔物にしろ、それぞれ違いがあるし、それぞれの良さもあるからね」

「そうなんです。だから私は、私にできる事で頑張ればいいんじゃないかと、最近は思う事ができるようになりました。これも、タクミさんやレオ様のおかげです」

「そ、そうかな……?」


 俺やレオと一緒にいて、どう影響したのかはクレアならぬ俺にはわからない。

 けど、晴れ晴れとした笑顔を向けてくれるクレアからは、暗い感情や雰囲気が感じられず、良い影響を与えられたんだと思った。

 ある意味、ティルラちゃんのギフトが判明する事で、いいきっかけになったのかもしれないな。


「はい! 今なら、お父様が初代当主様の事やシルバーフェンリルの事で悩む私に言った『クレアはクレアらしく、思うようにすればいい』という言葉の意味がよくわかります」

「う、うん。そうだね、クレアらしく……いい言葉だと思うよ」


 はじけるような笑顔を見せ、何かを吹っ切ったような雰囲気すら醸し出しているクレア。

 俺にとってそれは、今まで以上に魅力的な姿のように見えた。


「……タクミさん?」


 思わず顔を逸らした俺に、不思議そうに尋ねるクレア。

 なんだろうな、心の中から抑えきれない何かが出ているようで……我慢するのも限界だ。

 いや待てよ? 周囲の様子から感じる生暖かい視線というか、黙認どころか応援されてすらいるような感じは、我慢する必要はないんじゃないかとさえ思える。

 馬車の中に、俺とクレアしかいない空間……さっきいいきっかけと考えたばかりだし、これはもう思いを打ち明ける絶好の機会なんじゃないか?


「あの、クレア……さん」

「タクミさん、どうされたのですか? 急に以前の呼び方に戻ってしまっていますけど……」


 意を決して、クレアに正対して話しかける。

 キョトンとした様子のクレアは、俺が何を言おうとしているのかわかっていないようだけど……それがまた、俺の中の思いを沸き立たせる。


「その……いきなりで驚くかもしれないけど……俺は……クレア、クレアさんの事が……」

「ワオォォォォォン!!」

「レ、レオ様!?」


 自分の中にある、勇気とかそういったものを総動員して言葉にしようと、伝えようとしたその瞬間、馬車の外からレオが大きく吠える声が聞こえた。

 驚いて、クレアは馬車の窓からレオの方を見る……あぁ。


「ワフ、ワフ!」


 楽しそうに馬車に近付いて、報告するように鳴くレオからは深刻な様子はない。

 危険が迫っているとか、そういう事ではなさそうだ。

 それはいい事なんだろうけど……なんというか……。


「レオ……またか……はぁ……」

「ワウ?」


 馬車の中の様子なんて、ティルラちゃんと楽しそうに走っていたレオには知る由もないから、仕方ない事だけど……はぁ。

 溜め息を吐く俺に、レオが馬車と並走しながら首を傾げるのが窓から見えた、器用だな。

 ……なんというか、ブレイユ村の時もそうだし、俺がクレアさんとなんだかそういう雰囲気になったら、邪魔をされる事が多いような気がする。

 何かそういった大いなる力でも働いているのか? いや、考え過ぎだろうけど……とりあえず今は、そのタイミングではないと無理矢理納得しておくしかないな。


「レオ様、大きな声でしたけどどうされましたか?」

「ワウ。ワフワフ!」

「あぁ、成る程。そういう事か。えーと……」


 どうやら、遠くでフェリー達が走っているのを発見したらしい。

 レオが大きく吠えて、こちらの事を知らせたと意気揚々と鳴いていた。


「畏まりました。それではレオ様、そちらへ誘導してくれますかな?」

「ワウー!」


 御者台にいるセバスチャンさんに伝えると、合流するためレオに案内をお願いした。

 そうか……御者台にはこの人がいるんだった……レオに話し掛けつつも、こちらをチラチラと振り返っていたから、さっきの俺のやろうとしていた事には気付いているな。

 うん、やっぱり今のタイミングじゃなかったみたいだ。

 あれだな、流れでとか考えちゃ駄目なんだ……きっと、ちゃんとした場を設けないといけないんだろうなこれは……。



 色々と諦めた後レオの案内でしばらく走り、フェリー達と合流。

 レオが発見したフェリー達、向こうもこちらに気付いたみたいだった。

 フェリーにはチタさんとリーザが乗っていて、フェンやリルルには薬草畑の従業員さん達がそれぞれ乗っていた。

 フェンリル達の散歩も兼ねて、何度か往復して興味のある従業員さんを乗せていたらしい。


「キィ、キィー!」

「ラーレ―!」


 空からラーレが降りて来て、レオから降りたティルラちゃんと熱い抱擁。

 まぁ、ラーレの翼で包み込んでいるだけだけども。

 ラーレは、フェンリル達の散歩を空から見ていたらしい。


「ふふふ、仲がいいですね」

「そうだね。ヴォルグラウとデウルゴの件があった直後だから、特に仲良く見えるのかもしれないけど」


 俺と同じく馬車から降りたクレアは、ティルラちゃんとラーレの様子を見て微笑む。

 ティルラちゃんとラーレの仲がいいのは、これまで屋敷でずっと見てきているから今更ではあるんだけど……デウルゴを見た後だから、特にそう見えるのかもしれない。


「パパー!」

「おっと! ははは、リーザただいま」

「うん、お帰りパパ! ママもー!」

「ワフワフ」


 フェリーから降りたリーザが、俺に飛びついて来たので慌てて受け止める。

 ちょっとだけど、俺やレオと離れて寂しかったんだろう。

 笑って頭を撫でながら、地面に降ろすとレオにも同じく飛びついていた――。



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