第1195話 クレアなりに考えている事があったようでした



「ですので、ティルラお嬢様は扱いに気を付ける必要は確かにございますが……これまでと変わらず、皆と話すのも問題ないというわけですな」

「そういう事だったのね。最初に聞いた時は、ティルラが他との会話を制限しないといけないかも、とまで考えたのだけれど」


 クレア、そんな事まで考えていたのか。

 まぁ、ティルラちゃん次第だけど、最初考えた時のように無差別にそして確実に命令を強制させる事ができるのであれば、ある程度制限しなければいけないのかもしれないけど。

 そんな性格ではないと知っているけど、それこそ暴君になりかねない可能性も考えられたわけだし……でも、そうなると制限しても意味ないか?

 まぁその必要はないから、こっちの考えはしなくていいだろうけど。


「つまり……?」

「ちょっとだけ、皆がティルラちゃんの言う事を聞いてくれるとか、それくらいかな?」


 難しい話が続いて、頭を抱えながら首を傾げるティルラちゃんに、色々省略して結論を伝える。

 意志を持たない相手には強制力が働くんだろうけど、一切意志力がない生き物なんて、植物くらいしか存在しない……いや、植物にも意思があるのかもしれないけど。

 そもそも、言葉を介さないから植物に関しては考えるだけ無駄だな、うん。


「うーん、今でも皆私が言った事を結構聞いてくれますよ?」

「それはティルラちゃんが、無茶な事をほとんどいわないからだと思うよ? だから、そのままでいいんだ」


 公爵家のご令嬢だから、周囲はある程度言う事を聞いてくれるだろう、それは権力を振りかざさなくてもだ。

 けどティルラちゃんは、ほとんど我が儘を言わないからな……。

 勉強が嫌だ、とかは会った頃に言っていたけど、ティルラちゃんの我が儘みたいな事は、それくらいだしな。

 まぁ、レオ達と一緒に遊びたいとか、ちょっとした事くらいか。


「扱いには気を付ける必要はあるさね。けど、気にし過ぎてティルラ様がティルラ様として、らしくできなくなるほどの事じゃないねぇ」

「そうね……ティルラ、考える必要はもちろんあるけれど、むしろさっきも喜んでいた通りレオ様やフェンリル達とも、楽しく話せると思えばいいのよ」

「そうなのですね……わかりました! レオ様や皆と話せるの、楽しみです!」


 結局、イザベルさんとクレアのフォローで、元気を取り戻したティルラちゃんが、レオ達との会話を期待するのを、大人達が朗らかに見るという風に、ギフト調べは終わった。

 一応、クレアから楽しみだろうけど、俺とギフトの扱いに関して話し合うまでは使わないように意識しなさいと、注意はされていたけど。

 俺がティルラちゃんに話したい事って、そっちじゃなかったんだけど……まぁ、先輩ギフト所持者として俺が話せる事があるのなら、話しておこうかな。


 イザベルさんの店を辞する前に、セバスチャンさんが壊れた水晶玉の弁償に関する交渉を始めたが、セバスチャンさんが押され気味だった。

 ティルラちゃんとクレアは、先に外に出てレオや外にいる人達に結果を伝えに行っていたから、俺だけしか見ていなかったけど。

 交渉事なのに、溜め息を吐きながら項垂れるセバスチャンさん、レアだったな――。



「清聴効果……か」


 屋敷へと戻る馬車の中で、小さく呟く。

 イザベルさんの店を出る前に聞いた、ティルラちゃんのギフト『疎通令言』の副効果についてだ。

 俺の『雑草栽培』による、薬草などの最も効果の出る状態に変化させる能力や、ユートさんの『魔導制御』による魔力無限効果などの、本来のギフト能力とは別の効果の事。

 ティルラちゃんの『疎通令言』には、ギフトを使って話しかけた相手が心を落ち着けて聞く、という清聴効果があるらしい。


 完全に同じではなくとも、ジョセフィーヌさんの『疎通言詞』と同じ副効果なんだな。

 もしかすると、受け継がれる過程で能力が少し変化したのかもしれない……これに関しては、ユートさんとまた会った時に話を聞いてみようと思う。


「タクミさん?」


 俺の声を聞いて、外を見ていたクレアがこちらを見る……馬車の外では、ティルラちゃんを乗せたレオが走っているから、そちらを見ていたんだろう。

 レオに乗る事で、少しでもティルラちゃんが考え込まずに気分転換ができたらいいな。

 ちなみにヴォルグラウは、相変わらずシェリーを乗せていて、背中でお座りしたシェリーが何やら指示をするように鳴いているようだ。

 すっかり、ヴォルグラウの親分だな。


「いや、ティルラちゃんのギフトについて考えていてね。副効果が、ギフト本来の能力の補助をしているなぁって。俺の『雑草栽培』もそうなんだけど」


 まぁ、だからこそ副効果とも言えるんだけど。


「そうですね……タクミさんの場合は、薬草をすぐに使えるようになりますが……ティルラの場合は、ちょっと扱いが難しいですね」

「うん、イザベルさんと話した時には、あまり心配ないように言ったけど……やっぱり気を付けないとね」


 清聴効果は、『疎通令言』の強制力を補助しているように思う。

 ジョセフィーヌさんと同じで、興奮状態になっている人には効果はなさそうだけど……相手の意志力に割り込めるような使い方もできるんじゃないかな。


「はい。私も、頑張らないと……」

「クレアも?」

「えぇ。元々、ティルラは私より魔力が多く……それが元で、ちょっと思うところがあったんです。もちろんティルラは私の大切な妹で、それに対して嫌だと思った事はありません」

「うん……」

「以前にもお話しましたが、私の容姿についての噂もありましたから……」


 クレアの話を、静かに頷いて聞く。

 容姿についてというのは、初代当主様のジョセフィーヌさんと生き写しらしく、生まれ変わりではないかと言われていた事だな。

 その噂も相俟って、クレアはティルラちゃんの事は大切な妹ではあるけど、劣等感のようなものも感じていたらしい。

 まぁ、重荷だったとしても自分に寄せられていた期待を、妹の方がかなえられる可能性がある、と思ってしまったんだろう。


「そんなティルラに、ギフトがあるとわかり……正直、何故私じゃないのかという思いもあります」

「……そうだね。そう思うのも無理はないのかもね」


 ジョセフィーヌさんから受け継がれたものであるならば、確かに何故そっくりなクレアじゃないのか、というのは俺も考えた。

 クレアがティルラちゃんを羨むような気持になっても、仕方ない事だろう――。


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