第1164話 ドッグランを作る必要なさそうでした



「さすがに、夜だしリーザも寝ているから、ボール遊びはまたにしよう」

「ワゥ」


 リーザの方を見ながら、レオに話すと残念そうではあるけど納得してくれたらしい。

 マルチーズの頃や、この世界に来た頃だったら元気がある限り遊んでもらおうとしていた……というか、効果がまだわかっていなかった薬草を間違って食べた時、遅くまで遊んだ事もあるが。

 でも今は、リーザもいてフェンリル達もいるからか、遊びたい気持ちを我慢できるようになったみたいだ。

 我慢ばかりじゃいけないから、また裏庭……いや、外で思いっ切り遊ばせてやらないとな。


 ドッグランとかがあればなぁ……と考えたけど、時折魔物がいるくらいで何もない草原が広がっている場所が多いこの世界、わざわざ作らなくてもいいかと考え直した。

 ランジ村に行ったら、森と畑の間で走り回れるだろうし、子供達と遊ぶ時は森の反対側、村の南側で走り回るのも良さそうだ。


「今日は代わりに、いっぱい撫でてやるからな」

「ワッフワッフ」


 遊べない代わりに、撫でて構ってやればレオもとりあえずは満足してくれるはずだ。

 薬草園に関してやる事は沢山あるけど、それはそれとしてランジ村に行ってレオやリーザ、フェンリル達と遊ぶ光景を思い浮かべた。

 もちろん、ヴォルグラウもいるし、フェンリルももっと増えて……そうだ、ランジ村には他にも犬がいたな。


「ワ、ワフ……ワゥ……」

「眠くなっちゃったか。うん、そのままゆっくり寝ような?」

「ワゥ……」


 先の想像をしながら、耳の付け根をマッサージするように撫でていると、レオがウトウトし始める。

 疲れはなさそうだけど、いつもなら寝ている時間だしな……そういえば、犬は人間以上に多くの睡眠時間が必要なんだったか。

 マルチーズの時と違って、そこまでの睡眠時間は必要ないのかもしれないけど。


 しばらく撫で続けて、レオが寝入ったのを確認してから、そっとベッドに横になり、小さくリーザとレオにお休みと呟いてから、俺も就寝した。

 レオだけでなくフェンリル、ウルフ、マルチーズなどの多種多様な犬、それらがランジ村の子供達やリーザと駆けまわっている様子を思い浮かべながら――。



 翌朝、支度を整えて裏庭へ。

 最近はずっと屋敷での食事と言えば、裏庭になっている……多分、ランジ村に行っても同じようになるだろうなぁ。


「従業員の皆さんは、よく眠れたようでしたか?」

「数名程、遅くまで起きていたようで寝不足になっているようですが……概ね問題ありません」


 裏庭に向かう廊下を歩きながら、ライラさんに皆の様子を聞く。

 遅くまで盛り上がっていた人もいるんだろうし、屋敷の広い部屋とフカフカベッドに慣れなくて、あまり寝付けなかった人もいるんだろうと思う。

 俺は屋敷に来た初日から、すぐに馴染んでよく寝られたけど……図太いのではなく、森をさまよって疲れていたからって事にしておこう。


「まだ、支度に時間がかかる方もいらっしゃるようで、集合には少し時間がかかるかと」

「朝食の時間までまだ余裕があるので、ゆっくりで大丈夫ですよ。朝の支度は人によって違いますからね」


 男性と女性でも、支度にかかる時間は違うし個人差がある。

 まぁ、ほとんどの男性は顔を洗ったり髭を剃って着替えるくらい……だと思うけど。

 あぁ男性でも多少は髪の長い人とかいたから、それも時間がかかる要因か。


 クレアやライラさんとか、他にも髪の長い女性は朝に限らず大変だよなぁ……とは思う。

 夏とか、凄い暑くて重いらしいし。


「……んー」

「どうされましたか、タクミ様?」

「ワフ?」

「パパ?」


 ふと足を止めて自分の髪に触れていたら、ライラさん達が不思議そうに見られてしまった。

 髪の事を考えて思い出したけど、そういえばこの世界に来てから一度も髪を切っていない。

 生きている以上、髪が伸びないなんて事はなく……前髪を真っ直ぐ下げると、完全に目を塞いでしまいそうなくらいだな。


「髪が伸びてきたなぁと……」

「そういえば、タクミ様は一度も髪を切られておりませんね。初めて見た時より、確かに伸びています」

「ワフ」


 髪は徐々に伸びるから、以前を思い出さないと実感が沸きにくいけど、ライラさんやレオも頷いている。

 そろそろ切った方が良さそうだ。

 伸びると邪魔になるし、モッサリする感じが苦手だ。


「髪は、お爺ちゃんによく切ってもらってたー。リーザね、すぐに伸びるんだって。……伸びてきたかな?」

「リーザ様も、屋敷に来られた時より確かに伸びておりますね」


 リーザの場合、頭にある耳に目が行きがちだが、確かに初めて会った時よりは伸びているようだ。

 女の子だから、毛先を整えるくらいでもいいかもしれないが……まぁ、長い髪かティルラちゃんくらい短くするかは、切る時に相談だな。

 そういえば、リーザのフサフサな耳の毛と、髪の毛……色や質は同じで境目がわかりにくいんだけど、耳の毛というよりあれも髪の毛と言った方がいいのだろうか?

 ……どっちでもいいか。


「ママは、伸びないのかな?」

「ワフ?」

「うーんどうだろう……」


 シルバーフェンリルのレオの毛って伸びるんだろうか? そもそも、抜け毛すらほとんどないから、どうなっているのかわからない。

 マルチーズはシングルコートで、比較的抜け毛の少ない犬種だったし、換毛期にはそれなりに抜けるけど犬種としては多い方ではなかった。

 毛はよく伸びるのでトリミングはしていたけど……風呂嫌いだったから、毛を洗う頻度が少ないサマーカットが基本だったっけ。

 一度フルコートと呼ばれる、立っていても床に毛が付くくらいの長さにしてみた事はある。


 寒い時期でも暖かそうな、お嬢様っぽいレオになったのは良かったけど……外で駆け回った結果、毛が絡まったり汚れたモップのようになってしまったからなぁ。

 やんちゃな年頃のレオには不向きだったのかもしれない、こまめに手入れすればいいかもしれないが、風呂を嫌がって拗ねるし。

 なんて、レオの毛の話題に移りつつ、裏庭へと出た。

 ちなみにレオが自分でわかる範囲では、劇的に伸びる事はないけど少しずつ伸びているらしい。


 でも、一定以上まで伸びると勝手に抜けて、切ったり整えたりというトリミング的な事はしないでいいんだそうだ。

 ……シルバーフェンリルの毛って、便利だなぁ――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る