第1163話 リスト確認後はレオを撫でる時間になりました



「ワフ? ワフワフ」

「そ、そうなのか」


 レオ曰く、俺が使用人さん達を選んでいる間にクレアから話があって、決まったらしい。

 クレアが交渉や、輸送などで移動する際には当然シェリーが護衛も兼ねて同行するんだけど、リルルもシェリーの成長を見守るために、という事でもあるとか。

 まぁ、輸送する際に馬だけでなくフェンリルにも頼む可能性が高いので、それらを統率してもらうためにもリルルは適任か。

 人の管理や輸送計画などは、別の人がやるようだし。


 それから、こちらにも事務方が数名いるみたいだけど、これはほぼ屋敷にいた使用人さんで構成されている。

 公爵家のご令嬢だし、薬草園だけでなく貴族としての事もあるから当然と言えば当然かな。

 あとは……販売員?


「ランジ村、ブレイユ村、ラクトスでの販売を担当する販売員、か……」


 ラクトスの販売に関しては、現在カレスさんが一手に引き受けている状態だけど、数や種類が増えた場合に別の店を出す事も検討中なんだとか。

 ブレイユ村とは前回俺が行った時、迎えに来た際に交渉済みらしく、腰を痛めている村長さんの事もあって歓迎。

 ランジ村はもはや直売店のようなものだな、こちらは当然ながら村の人に反対される事はないだろう。

 ただこちらは、現時点で雇用者はおらず、これからとなっている。


 まだ薬草園そのものが始動していないので、販売員を雇ってもやる事がないからな。

 ランジ村での販売員は村の人から募れば、応募してくれる人がいそうだし、バイト……という考えはこちらにはなさそうだけど、バイトやパートみたいな形でもなんとかなりそうだ。

 ブレイユ村は、輸送係がそのまま販売員も兼ねる事もあるが、二人くらいは専属で雇った方が良さそうだとの注意書きがされていた。

 ラクトスに関しては、これから次第だな。


 これから増える可能性のある、他の村や街に関しては交渉や卸先によっては、それぞれでまた販売員などを雇う事も検討しなければならない、と。

 カレスさんのように、最初から店を構えている所へ卸せたらいいんだけど、新しくだったり村になると一から人や物を揃えなきゃいけないためだ。

 まぁ、ブレイユ村も含めて、大きくなく量を必要としない場所には卸すだけになるんだけど。

 ただ必要量が多かったり、買い手が増えれば店を構えた方がいいと……。


「はぁ、色々考える事が多いなぁ。全部自分一人でやらなきゃいけないわけでもないし、皆と一緒に頑張るしかないんだけど」

「ワフゥ」


 俺が紙束を置いて、息を吐くのに合わせてレオも溜め息を吐く。

 ちょっと集中していたから、レオも俺も疲れてしまったかな。

 とにかく、やる事は沢山あるけど今すぐ俺一人でやらなきゃいけないわけでもなし、ライラさんやアルフレットさんといった使用人さん達、クレア達公爵家の人達とも協力していくしかない。


 理想としては、公爵領内から国内へ薬草で困る人がいなくなるようにだけど、まずはランジ村周辺、それから領内だ。

 俺の能力がきっかけであり、頼りにする部分が多いけど、多くの人の助けになるかもしれない……と考えるとやり甲斐があるってものだ。

 

「ワフ、ワフワフ……」

「うん、大丈夫だ。わかっているよレオ」


 レオが心配そうに鳴くのは、以前の俺が弱って行く姿を見ているからだろう。

 けど、会社で働いていた頃と違って、今はレオを始めとして頼りになる人がいっぱいいるからな。

 俺一人で抱え込まずに、頑張り過ぎない程度にやっていくのが丁度良さそうだ。

 レオやリーザとの時間も、大事にしていかないといけない……いや、大事にしたいから。


「ワウ……ワフ!」

「レオ?」


 心の中で無理はしない、皆に心配を掛けないように決意していると、急に何かを思い立ったのか俺から離れたレオ。

 広い室内で、音を立てないように伏せてゴロンと横になったレオは、すぐにお腹を見せる。

 撫でろって言っているみたいだな……前足もクイクイと動いて要求している。

 今日はヴォルグラウを構う事が多かったし、レオは寂しかったのかもしれない……レオとの時間を大事にって俺の考えを読んでいるわけではないと思いたい。


「よし、それじゃ今日はここまでにして、思いっ切り構ってや……」

「にゃ……すー、すー……にゃふふー」

「……リーザを起こさない程度にな」

「ワゥ」


 お腹を見せるレオに、勢い込んで構ってやろうとしたところで、リーザの寝息というか声が聞こえた。

 起こしてしまうとかわいそうだし、静かに構ってやる事にする。


「ふっふっふ、ここか? ここがいいのか~?」

「ワッフ~」


 小声でレオの様子を探りながら、両手でお腹を撫でてやる。

 気持ち良さそうに、小さな声で鳴くレオはヴォルグラウのお腹を撫でてやっている時、羨ましそうにしていたからな。

 存分に撫でてやろう、ふっふっふ。


「……っと」

「ワ、ワフ? ワウゥ……」


 悪戯心を起こし、ピタッと撫でる手を止めると、レオは顔だけでこちらを見て残念そうな声を漏らす。

 さっきまで楽しそうに振られていた尻尾は萎れ、両前足は何かを求めるように空をかく。


「はは、ごめんごめん。ほらほら~」

「ワゥ~」


 軽く笑って、再びお腹を撫で始めるとすぐに気持ち良さそうな声を漏らすレオ。

 ほんと、シルバーフェンリルが最強で、貴族よりよっぽど偉い……みたいな話は、今のレオの姿を見る限り信じられなくなってしまいそうだ。

 まぁレオだからで、他のシルバーフェンリルは違うのかもしれないけど。


「よーしよし……今日は偉かったなぁ」

「ワッフ」


 しばらくお腹を撫でた後は、レオを起き上がらせて伏せてもらい、手を伸ばして頭を撫でてやる。

 デリアさんと同じように、耳を横に倒してヒコーキ耳で撫でられ待ちになったレオを、褒めながら優しく撫でてやる。


「ワフ……ワフ?」


 俺に撫でられながら、レオが視線をやって求めたのは俺が少し前に作ったゴムボールの二代目。

 実は、最初に作ったのはレオが遊び過ぎというか、楽しくて興奮したのか強く噛み過ぎてボロボロになったので、二つ目だったりする。

 フェンリル達のボールはまだ大丈夫そうだったけど、シェリーのはそろそろ新しいのを作らないとな……そろそろ牙の生え変わりが終わりそうなんだが、まだ加減ができずに強く噛んでしまって穴が幾つか空き始めていたからな――。



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