第1153話 特殊な破棄方法があるようでした



「他にも、従魔契約を破棄する方法があるんですか?」

「はい。この方法は、あると言われているだけで実際に行われた事はないようですが……圧倒的な魔力を持つ者が、従魔契約の繋がりを絶ってしまう事です。従魔契約は、魔力の繋がりと言われておりまして……それを膨大な魔力でかき消してしまう、という方法のようです」

「圧倒的な魔力で……」


 小さな水の流れを、大量の水で押し流す……とかそういうイメージだろうか?


「でも、その方法が確かだとわかっていないのは?」

「圧倒的な魔力を持つ者がいないからです。人間同士であれば、契約をかき消す程の魔力に差が出る事はないのです。人によって、持っている魔力に違いはありますが……圧倒的という程ではありません」


 成る程……魔力は個人差があっても、圧倒的という程の差が出ないって事か。

 まぁ、その圧倒的とか膨大って言うのがどれくらいなのかはわからないから、通常の人間で見られる個人差の範囲ではないって事だろう。

 もしかすると、ギフトで無限の魔力の副効果を持つユートさんなら、あり得るのかもしれないけど……ん?


「セバスチャンさん、その方法は何かの書物に書かれていたのですか?」

「その通りです。はるか昔……この国が建国される以前か以後か、それすらもわからないくらいの昔に、膨大な魔力で従魔契約を破棄させた……という記述のある書物があります。ですが、正式な歴史としての記録はありません。ですので、真実かどうかは定かではなく、行われた事がないと申しました」

「そうですか……」


 建国されるかどうかの頃……膨大な魔力。

 歴史としては残っていなくても、ユートさんが関わっているのならあり得そうだ。

 ユートさんが俺と同じ異世界からだとか、ギフトを持っているとか……それどころか、建国主だというのは一部以外には秘匿されているので、そういった伝わり方になっているのかもしれない。

 昔の歴史なんて、権力者がある程度改ざんしようとしたらできそうだ。


 大袈裟に言うなら、「歴史は勝者によって作られる」とか「歴史は征服者たちによって書かれる」と言われるくらいだからな。

 まぁ、逆に「勝者は事実によって裁かれる」とも言われるけど。

 とにかく、ユートさんの魔力がギフトに繋がっているとか、考察されないように正式な歴史には残さなかった、なんて事もあるかもしれない。

 ……今度会った時、そういう話を聞いてみるのも面白いかもしれないな。


「もしそのもう一つの方法が有効なら、レオやフェンリル達なら?」

「どれほどの魔力があれば可能なのかはわかりません。ですが、可能かと」


 レオは最強と言われるシルバーフェンリル……本当かどうかはさておき、ユートさんがいうのは文字通り無限の魔力を持つと。

 さらにフェンリルは、森でフェンが川を簡単そうに凍らせたのを見る限り、かなりの魔力を持っていると推測できる。

 もし、セバスチャンさんが書物で見たという方法が、ユートさんに関わっているのなら有効性も確かだろうから……。


「最終手段として、考えておきましょう」

「かなり有効性の低い、不確かな方法として話したつもりでしたが……タクミ様は、できると?」

「確証はありませんが……できると考えています」

「左様でございますか。わかりました、タクミ様がそうおっしゃられるのなら考えるに足る何かがあるのでしょう」


 なんとなく、ある程度の事は察してそうなセバスチャンさんだけど、さすがに俺からユートさんの事は話せないからな。


「アルフレットさん、手間を掛けますがセバスチャンさんから聞いて、方法が書かれた書物を良く調べておいてもらえますか? 膨大な魔力があれば契約を破棄できるとしても、その魔力をどうしたらいいのかとか、参考になる事が書かれているかもしれません」

「畏まりました。タクミ様がその手段をお探しなのであれば、私はただ従うまでです。とは言っても、そういった書物に書かれている、真偽の定かではない事柄を調べるのは面白そうでもありますから」

「ははは……さすがに、ネーギはもう持って来ないで下さいね?」

「……気を付けます」


 魔力があっただけで、契約が破棄できるわけではないだろうから、最終手段だとしても使用法などを調べておかないといけない。

 アルフレットさんにお願いすると、快く受けてくれた……俺が熱を出した時にネーギを持ってきた様子から、確かにそういった眉唾な話を調べるのは好きそうだ。

 苦笑する俺に、視線を逸らして答えるアルフレットさんは、ネーギの時と同じ事をまたやりそうではある。

 何か変な記述を信じてしまうと、またジェーンさんに怒られそうだなぁ。


「アルフレットさん、ヴォルターを使って下さい。この屋敷にある書物の事ですので、喜んで調べるでしょう」


 本……書物を読むのが好きなヴォルターさんなら、確かに諸手を挙げて取り組んでくれそうだ。

 とりあえず、二つ目の契約破棄方法は二人に任せておくとして……ヴォルグラウと話してみないとな。

 そう思って、レオ達がいる方へ目を向ける。


「……ガチガチに緊張しているな。無理もないんだろうけど」


 怪我が治って隠す必要がなくなったからだろう、仰向けになってリーザとティルラちゃんにお腹を撫でられているヴォルグラウ。

 しかし、四本の足をピンと空に向けて伸ばし、尻尾や耳も含めて硬直しているのが、離れている俺にもわかった。

 ラクトスから戻って来る間に、レオには少し慣れたようではあったけど、周りをフェンリルに囲まれているからなぁ……。

 シェリーはともかく、フェリーやフェン、リルルとレオという、絶対ヴォルグラウが敵わない相手が周囲にいるんだから、本能で恐怖してしまっても仕方ないか。


 あ、俺が見ているのに気付いたかな? 逆さになったヴォルグラウと目が合った……何か色々と覚悟しているのか、無に近い感じだった。

 レオ達はヴォルグラウに何かをする気はないんだけど、さすがにそろそろ助けないとかわいそうだな。


「人間以上に、敵わない相手には従順と言いますか……本能で察している様子ですな」

「私からは、死を覚悟しているようにも見えます。少々、覚えのある感覚で同情を禁じ得ません」


 俺の視線を追って、セバスチャンさんとアルフレットさんが、ヴォルグラウを見ての感想を言っていた――。



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