第1134話 前回も見た男の子を発見しました



「キャゥ?」

「そうね。……こちらはシェリー。私の従魔でフェンリルの子供よ」

「キャゥキャゥ!」

「シルバーフェンリルだけでなく、フェンリルの子供……しかも従魔なんて」


 クレアの足下で、シェリーが見上げながら首を傾げて鳴く。

 自分も皆にって言っているのかもな……クレアが手で示しつつ、シェリーを紹介するとこちらも主張するように鳴いた。

 見ているうちの一人が、驚きながら呟いてそれに追従するように多くの人が、コクコクと頷く。


 初めて見る人達は、やっぱり驚くよなぁ……まぁ、従魔と言えばここにはいないけど、ティルラちゃんのラーレもいるし、従魔じゃないけどフェリー達もいる。

 ……一緒に顔合わせさせなくて良かったかもしれない。


「お久しぶりです、リーザちゃん!」

「デリアお姉ちゃーん! にゃふー!」

「わふ…リーザちゃん、いきなり飛び込んできたら危ないですよー?」

「にゃふふー!」


 別の場所では、デリアさんとリーザが感動……ではないけど、再会を喜んでいる。

 デリアさんに向かって飛び込んだリーザを受け止め、苦笑いしながら注意する姿は、お姉さんみたいでもあるな。

 ただ、リーザが猫っぽい声を出しているせいで、どちらが猫でどちらが犬……じゃない、狐なのか微妙にわからないけど。

 デリアさんも、尻尾と耳や狩りの時は猫っぽいのに、犬っぽい声を出すからなぁ。


 そちらを微笑ましく見ていると、ふと一人の男の子が俺と同じようにリーザへと目を向けているのに気付いた。

 いや、獣人二人がじゃれ合っているという事で、レオ程じゃないけど皆の視線を集めてはいるんだけど。


「ふむ……どうしたんだい?」

「っ! な、なんでもないよ!」


 レオの事はエメラダさんや使用人さん達に任せて、男の子に近付いて声を掛けてみる。

 ビクッと体を震わせた男の子は、誤魔化すようにプイッと顔を背けた。

 んー? あ、そういえばこの子、以前レオに突っかかっていた子だ。

 年の頃は小学校低学年くらい、リーザとほぼ変わらないと思う。


 面談をした時だったか、レオとリーザが子供達と遊んでいるのに混じって、木の棒を振り回していた男の子だったはず……レオに軽くあしらわれていたけど。

 あれ、レオにとっては遊びとそう変わらなかったんだろうな。

 その男の子、顔を背けた後もリーザ達の方を気にしている素振りを見せている、と……成る程成る程。


「リーザの事が、気になるのかい?」

「あ? おっちゃん何言ってんの? リーザって誰?」


 男の子と前に会った時、俺がリーザの名前を呼んだりもしたと思ったけど、覚えていなかったのかもしれない。

 別の子ではないはずだから……レオにあしらわれるのが悔しくて、耳に入っていなかったとも考えられるか。

 あと、俺はおっちゃんなんて年齢じゃないから、お兄さん、もしくはお兄ちゃんと呼びなさい。


「ありゃ、リーザの名前は知らなかったのか。あそこでじゃれ合っている女の子だよ、大きな尻尾が二つある方」

「っ!?」


 デリアさんとじゃれ合うリーザを示し、あの子だよと教えてやると、男の子の顔が一瞬にして真っ赤になった。

 うん、これは誰でもわかる反応だな。

 ふむふむ……。


「つまりリーザが気になって、見ていたんだね?」

「っ、そ、そんなんじゃないやい!」


 わかりやすく素直じゃない反応をする男の子。

 うんうん、気持ちはわかるよ……男の子って、このくらいの年齢だと素直になれない事もあるよねー。

 照れて強がって、気になる女の子に対してどうしたらいいかわからず、イタズラなんかしちゃって逆に嫌われたりとか、よくあるよくある。

 俺が小さかった時も、周りの友達がそんな事になっていた……いや、俺はそんな素直じゃない事なんて、やってないぞ、ほんとだぞ。


「うんうん……おーい、レオー! ちょっとおいでー!」

「ワフ?」

「あぁ……」


 男の子に対して、訳知り顔でうんうん頷きながら、エメラダさんに撫で続けられているレオを呼ぶ。

 すぐに来てくれたレオだけど、エメラダさんは少し……いや、かなり残念そうだ。

 後でまた撫でてもいいですからねー。

 ちなみに、レオやシェリーを初めて見て固まっている人達には、使用人さん達がそれぞれに声を掛けたりしていた。


 クレアはシェリーを皆に、特に自分が雇う人達に見せたり撫でさせたりしているようで、あちらはレオみたいに大きくないのもあって、大丈夫そうだ。

 レオを見た事のある人達は、そんな様子を眺めている、と。

 顔見せの時とは違って、改まった場ではないためか全体的にかなり緩い雰囲気だ……レオを見て緊張している人達は除いてだけど。

 まぁ、俺やレオが率先して緩い雰囲気にしている原因かもしれないが、ただでさえレオを怖がる人がいるので、ガチガチに硬い雰囲気にしない方が良さそうだ。


「よしよし、この男の子なんだけどな?」

「ワフ、ワッフワフ!」

「やっぱり覚えがあるか。実はリーザの事をな……」

「ワフゥ、ワフゥ……」


 来てくれたレオを撫でながら、顔を真っ赤にしたままこちらの様子を窺っている男の子を示しながら、レオに事情を伝える。

 レオは以前の事を覚えていたみたいで、俺の話に頷きながらふむふむというように鳴いた。


「というわけで君、リーザと仲良くなりたかったらまず俺とレオを倒す事だ!」

「ワフ!」

「えぇぇぇ!? いきなり何言ってんのおっちゃん!」

「……おっちゃんではない、お兄さんだ」


 俺の事をおじさんやらおっちゃんと呼んだ罰と、それからリーザに近付きたければ俺とレオをどうにかしないとな男の子よ。

 ……というのは、半分くらい冗談として……可愛くて優しいリーザに相応しいのかどうか、親代わりとして試す必要があるんだ! という使命感。

 適当に落ちていた木の棒……なんで何もない空き地にこんな物が? と思ったけど、多分元々建物があってその時の廃材かなんかだろう。

 一応ささくれなどがないかを見て、怪我をしないか、腐っていたりすぐに折れないかも確認してから、男の子に手渡す。


 男の子には少し大きかったかもしれないが、細めだから剣とかよりは軽いし刃物じゃないから、相手がレオなのもあって怪我をさせる心配はないだろう。

 もしもの時は、コッソリ隅の方でロエを栽培して治すくらいの責任は取るつもりだしな――。



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