第1104話 使用人候補の選択はほぼ決定しました



「それでタクミ様、使用人として雇う者は決まりましたかな? ウィンフィールドさんの事はありましたが、他の者達もいますよ?」

「あ、はい。もうほとんど決まっています」


 ウィンフィールドさんと話す前に、アルフレットさんやジェーンさんなど、確認しておかないといけない人に対しては、全て終えている。

 ジェーンさんは、年下のライラさんがメイド長になる事を承諾してくれたし、アルフレットさんも執事長で頷いてくれた。

 一応、もし選んだ場合にはという前置きはしているけど、ほぼ決定したようなものだな。


「それは良い事。では、明日にでも皆を集めて通達する、でよろしいですか?」

「そうですね……よろしくお願いします」

「これで、タクミさんも自分の使用人を持たれるのですね。まぁ、既にライラやゲルダ、ミリナちゃんもタクミさん専属の使用人のようになっていますけど」


 ライラさん達は既に雇う事が決まっているけど、まだ公爵家の使用人待遇になっている。

 ランジ村での生活や薬草畑がまだだからな……ともあれ、元々が俺のお世話役なわけで、ほとんど専属になっていたし、今とそう変わらないんだろうな。

 ……ライラさんは、若干気負っている様子や張り切っている様子が見られるけど。


「では明日、タクミ様の発表を楽しみにしましょう……と言いたいところなのですが……」

「どうかしましたか、セバスチャンさん?」


 これで話は終わり……と思ったんだけど、何やらセバスチャンさんが眉根を寄せて渋い表情になった。


「ヴォルターは、本当によろしいのでしょうか? いえ、本人に使用人を続ける意思がないのであれば、それは変えるつもりはありませんが」

「本人に確認しましたけど、むしろ楽しそうに頷かれました。能力的だったり、向いているかどうかはこれからでしょうけど……やる気はあるようですから」


 アルフレットさん達だけでなく、ヴォルターさんにも考えている内容の相談はしていた。

 執事としてではなく、物語を作って話して聞かせたりしてはどうか? という事だけど……細かい事、特に給金などの収入面はこれから決める必要はあるけど、俺が話した時のヴォルターさんはむしろ喜んでいるようですらあった。

 多分だけど、セバスチャンさんが言っていたように臆病な性格だから、使用人のように誰かの顔色を窺ってお世話をするよりも、別の何かをと考えていたのかもしれない。

 創作した話を孤児院で話して聞かせていた時は、楽しそうだったからなぁ……書物を読むのが趣味なら、尚更向いている気もするし。


「そうですか……」


 自分と同じ使用人、という立場から離れようとするヴォルターさんの事を考え、複雑な胸中を表すように俯くセバスチャンさん。

 親子だから、意思を尊重するにしても思うところがあるんだろうな。


「セバスチャンは、ヴォルターに自分のように仕えて欲しかったのよね」

「まぁ、そうなのですが……はぁ。ヴォルターがそうしたいのであれば、そうするべきなのでしょうなぁ……」

「セバスチャンさん……」


 溜め息を吐いたセバスチャンさんは、窓の外へ顔を向けて遠い目をする。

 後を継ぐ、というのとはちょっと違うのかもしれないけど、使用人として公爵家に尽くして欲しい、と考えていたんだろう。

 なんて言ったらいいかわからず、名前を呼ぶだけの俺……方向性を決めるきっかけを作ったのは俺なんだから、何か気の利いた事を言えればと思ったんだけど……。


「ふぅっ! 致し方ありませんな。それに、まだ他にも息子はいるわけですし、今後の期待はそちらにするようにしましょう」

「へ……?」


 勢いよく息を吐き、思いなのかなんなのかを吐き出したセバスチャンさんは、いつもより二割り増しくらいの笑顔になって、そう言った。

 え、セバスチャンさんの息子さんって、ヴォルターさん以外にもいたの?


「他にも、本邸で働いてくれているのよね。――タクミさん、ヴォルターはセバスチャンの息子ですけど、三兄弟なんです。一番執事としての能力がある……と見込んでいたのがヴォルターだったのですけど」

「そ、そうなんだね……ヴォルターさん、兄弟いたんだ」


 そういえば、以前セバスチャンさんと話した時にも、息子さんの人数などは聞いていなかったっけ。

 勝手にヴォルターさんが一人っ子だと思い込んで、父親であるセバスチャンさんが期待を寄せている……と思っていた。

 クレアが言うには使用人としての才能が一番あるのが、ヴォルターさんだったらしく、だからこそ厳しく接していたんだろうけど……使用人としての才能がなんなのか俺にはわからないが。

 ……なんとなく、心配して損した気分だ。



 ウィンフィールドさんとの話や、セバスチャンさんやクレアとの話を終えた後、俺はライラさんを伴って厨房へ。

 ヘレーナさんに呼ばれたからだ。

 リーザとレオはゲルダさんと一緒に、フェンリル達のいる裏庭へ向かった……話している間に、散歩から帰ってきたみたいだから、遊びにだな。


「ヘレーナさん、どうですか?」

「タクミ様! これなんですけど……どうでしょうか?」


 厨房に入るとすぐ、待っていましたと言わんばかりのヘレーナさんに迎えられる。

 ヘレーナさんは何かが載ったお皿を持ち、俺の前に駆け寄って見せられた。

 急がなくても、時間に余裕はあるから大丈夫なんだけど……それだけ早く試して欲しかったんだろう。


「見た目は……うん、うどんですね」

「はい。タクミ様に教えて頂いた通りの見た目に仕上げました。あとは味などですが……」


 ヘレーナさんが持ってきたお皿に乗っているのは、よく見た事のある白くて太い麺。

 茹でられた後のうどん麺だ。

 数日前、ラクトスに行った時にクレアがうどんもどきを屋敷でも、と言っていたのと俺も食べたかったので、ヘレーナさんと相談していた。

 材料や作り方など、大まかにしか知らなかったのでほとんどヘレーナさんに任せてしまったけど……それでも、毎日試作してくれた。


「ん……コシもあるし、俺の知っているうどんに限りなく近いですね」


 渡されたフォークで、お皿からうどん麺を一本持ち上げて口に入れる。

 噛み応えがあり、俺がよく知っているうどんに近い食感に仕上がっていて、見た目なども含めれば完成と言っていいと思う。

 コシがあってモチモチしているうどんに、懐かしさを感じるなぁ――。



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