第1088話 フェリーとフェンの戦闘が開始されました



「っと、そろそろ始まるようですな」

「はい……」


 ティルラちゃんを除く全員分のお金……参加費を集めたセバスチャンさんが、フェリー達の方を見ながら元の位置に戻る。

 俺もそちらに目を向けると、フェリーとフェンが立ち上がり、姿勢を低くしていつでも動けられる体勢になっていた。


「……ワフ……ワウ!!」

「ガウ!」

「グルゥ!」


 フェリーとフェンにそれぞれ視線を送り、確認したレオが頷き、すぐに大きく吠える。

 次の瞬間、フェリーもフェンも何かに射出されたのではないか? と思う程の勢いで走り出す!


「ガウワウ!!」

「グルゥ、グルルゥ!」


 先に動いたのはフェン。

 お互いに向かって走る途中、上に飛び上がり、落下の勢いと共にフェリーへ襲い掛かった。

 しかし、フェリーの方はそれを横に飛んで避け、足を地面に付けた瞬間降りてきたフェンに向かって飛びかかった。


「ガウ!? ガウ!!」

「グルゥ……」


 ドガッではなく、ドゴォ!! という凄まじい音と共に地面に降りたフェンは、横から咬み付こうと迫るフェリーを、後ろに飛んで避ける。

 標的を失ったフェリーは、ゆっくりとフェンの避けた方を向き、鳴き声を上げていた。

 さながら、今のを避けるとは中々……とでも言っているようだ、想像だけど。


「……もう少し、離れた方が良さそうですね」

「うん、そうだね……お、リルル?」


 フェンがジャンプして強襲した地面は、浅い穴が空いており、その衝撃は土埃と共に俺達の所まで届いていた。

 衝撃波のようなものに、体を庇いながら俺達に下がる俺達……かなり離れているのに、その距離まで届くってどれだけの力なのか……レオは涼しい顔だけど。

 そんな俺達の前に、近くで観戦していたリルルが背中を向けて伏せをする。


「ガウゥ」

「キャゥー」

「リルルが、守るから後ろにいてってー」

「わかった、ありがとう」


 背中に乗っているシェリーと一緒に鳴くリルル、同じく背中に乗っているリーザが言うには、その体で俺達を衝撃波から守ってくれるみたいだ、ありがたい。

 気を遣ってくれたんだろうな……おとなしく、クレア達と一緒にリルルの体に隠れるようにしながら、フェリー達の戦闘を観戦する事にした。

 とは言っても、さすがに全員隠れられるわけではないので、数人はラーレの所に行った。

 結局、使用人さん達で囲むようにして守る陣形みたいになっていたのに、解散してしまったな……まぁ、周囲にここまでの影響があるとは考えていなかったからな。


「グルゥ。ガァウ!!」

「ガウ!? ガーウ!」


 俺達がリルルの後ろに隠れたりとしている間に、フェリー達の方に動きがあった。

 今度はこちらから、と言うように鳴いた後、大きく吠えてフェリーがフェンへと飛びかかる。

 その際、足を踏みしめた地面が、フェンの空けた穴よりさらに深く沈み、大きな体が動いた影響での突風が俺達に向かう。

 リルルの後ろに隠れてて良かった……今の、まともに受けてたらクレアとか風で飛ばされてたかもしれないぞ。


 リルルの体で弱まった風を、手で遮りながら目を凝らしてフェリー達の動きを追う。

 馬ほどの大きさがあるにも拘わらず、フェリーの動きはなんとか目で追えるかどうかという速度……さっきまで、準備運動とばかりにお互い加減していたんだろうな。

 そんな中、飛びかかられたフェンも大きく吠えて、クルっと後ろを向く。


「うん?」


 向かって来る相手にお尻を向けて、何をするんだろうと思ったら……。


「ガウ!」

「グルゥ!?」


 前足を踏みしめて、後ろ足を大きくフェリーに向かって蹴り上げた。

 予想していなかったのか、飛びかかった勢いのままに顎へとフェンの後ろ足を受けたフェリーは、驚きの鳴き声を上げながら大きく打ち上げられる。


「ガウー! ガウワウ!!」

「グルゥ!!」


 さらに、追撃とばかりにフェンがその場でジャンプ。

 直上ジャンプだったからどうするのかと思えば、空中を蹴ってフェリーへと射出されたように加速。

 えーっと……?


「グルゥ、グルルゥ!」

「ガウ、ガウガウ!!」


 しかしフェリーは、顎を蹴り上げられた反動のまま空に向かって、フェンと同じように宙を蹴り、真下へ落ちる。

 そのまま地面に激突するか……と思ったら、蹴った反動すらも利用したのか、空中でクルリと体勢を変えて着地。

 向かっていたフェンは、標的が目の前にいなくなりそのまま通り過ぎて、離れた場所に着地……と思ったんだけど、またさらに宙を蹴り、フェリーへ向かって体を反転させる。


「グルゥグルゥ……」

「ガウ……」


 飛び込んできたフェンをさらにフェリーが避け、地面に降りたフェンがフェリーを追う……と、なんとなく理解できた。

 けど、それ以後はもうほとんど目で追う事ができず、フェリーもフェンも風のような速さで動いて、何が何やらわからなかった。


「……フェンリルって、こんなに速く動くのですね」

「俺も驚いているけど……もう目で追えないな」

「私も諦めました……」


 クレアの呟きに、俺も同意する。

 視線を巡らせると、レオやリルル、ラーレはフェリー達が激突している場所に顔を向けているため、見えているんだろうけど……俺を含めたクレアやセバスチャンさん、他の人達も全員が目で追うのを諦めていた。

 レオ達の見ている方を見ても、何かが動いているような影が見える事があるだけで、あの巨体がはっきり見えない。


「うわっぷ……! リルル、ありがとうな」

「ガウゥ」


 一瞬だけ、フェリー達がぶつかっている姿が見えた瞬間、地面にひび割れが走り俺達に大きな衝撃波が襲い掛かる。

 急な突風で、ちょっと驚いた。

 リルルが体を盾にしてくれて、さらに魔法か何かで防いでくれているんだろう……それでも結構な風がきたけど。

 クレアやセバスチャンさんも、風に耐えるようにリルルへと身を寄せ、離れた場所ではラーレが翼を大きく広げて、後ろにいるティルラちゃん達を守っていた。


「フェリーも、フェンも凄いねー!」

「キャウー!」

「フェンリル同士の戦いが、ここまでのものとは……」

「これで魔法を使っていない……のですよね? タクミさんが禁止にしてくれて良かったです」

「さすがにここまでとは思っていなかったけど、自分でも先に禁止にしておいて良かったと思うよ」



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