第1060話 ハインさんの雑貨屋で注文相談を開始しました



「イザベルは、決して商品を安売りするような人物ではなかったのですが……タクミさんが気に入ったのでしょうね」

「……本人は、リーザの事が可愛いからって言っていたけど?」

「それも本心だと思いますけど、タクミさんの事も気に入ったから、だと私は思います」


 イザベルさん、リーザのためにとしか言わなかったけど……クレアの言う事が本当なら、俺も気に入られていたのか……。

 昔から、お爺さんやお婆さんにはよく気に入られていたし、今回もそうなのかな?


「いらっしゃいませ、クレア様。タクミ様。お待ちしておりました」

「ハインさん、お世話になります」

「お世話になりますー!」

「あ、私も。お世話になりまーす!」

「はっはっは、元気がよろしいですなぁ」


 レオとチタさん達を外に残して、雑貨屋の中に入ると待ち構えていたハインさん。

 外で目立っていたから、俺達が来るのがわかっていたんだろう。

 俺が会釈しながらハインさんに挨拶を返すと、隣でリーザとティルラちゃんが真似をする。

 それを見て、ハインさんは目を細めて楽しそうだ……元気な子供の様子を見ると、微笑ましいから気持ちはよくわかる。


「それでは、本日も奥で……ティルラ様や、リーザ様はどうなされますかな?」

「うーん……どうします、リーザちゃん?」

「えっと……パパ?」

「リーザがしたいようにすればいいんじゃないかな? お店の商品を見てもいいし、買いたいものがあれば、お小遣いで買ってもいいんだ。俺達と一緒に来てもいいけど、ちょっとリーザには難しいかもしれないから、つまらないかもなぁ」


 前回の事があったからだろう、奥に俺達を案内する前にリーザやティルラちゃんがどうするのかを聞くハインさん。

 悩むティルラちゃんと、俺に窺うリーザ……二人共、チラチラと商品が並んでいる方の、店の奥を見ているので興味がそちらに向いているのはバレバレだ。

 特に俺達と一緒にいないといけないわけではないので、自由に決めてもらおう。

 俺達の方は、リーザ達にとってあんまりおもしろくないだろう事は、一応付け加えておく。


「それじゃ、リーザはお店の中を見るよ、パパ!」

「私もそうします」

「うん、わかった。――ハインさん、すみませんが……」

「はい、畏まりました。それでは、店の者を案内に付けさせましょう。子供達が楽しく商品を見られるよう、取り計らいます」


 俺の言葉を聞いて、リーザとティルラちゃんが決断、お店を見て回る事にしたようだ。

 ハインさんに頭を下げて、リーザ達を案内してくれる人をお願いする。

 リーザ達はイタズラをするような性格じゃないが、子供達だけでというのも少し心配だからな……商品に夢中になっていたら、大きな二本の尻尾が他の商品とぶつからないかとか。

 他の仕事もあるのに申し訳ないと思いつつ、リーザとティルラちゃんを店員さんに任せ、俺とクレア、それからキースさんとアロシャイスさんが、ハインさんに促されて奥に通された。



「大体、予想した通りの値段になるのね」

「はい」


 イザベルさんの店での時と同じように、商品のリストと値段などが記載された書類を渡され、クレアと二人……じゃなかった、キースさんも交えて確認する。

 アロシャイスさんは、こういった大きな店の奥に入った事がないのか、キョロキョロとしていた……ちょっとだけ、気持ちはわかります。

 書類にある値段は、セバスチャンさんと一緒に話していた予想と大きく変わらず、キースさんも特に何も言わないので、相場通りなんだろう。


 俺としては、書かれている金額が低いので、イザベルさんの店より落ち着いていられる。

 金貨数十枚といくつもの商品に書かれているよりも、銀貨とか銅貨って書かれている方が、安心するなぁ。


「ベッドなど、大物はもう少し時間がかかりますな。他の物はある程度揃いましたが……とは言っても、見本程度ですが」

「そう。なら、見せてもらえるかしら? 見た方が、タクミさんも私も実物がわかりやすいでしょうから」

「そうだね」

「畏まりました、今お持ちいたします」


 ハインさんが椅子から立ち上がり、他の店員さんと一緒に見本を持ってくるために退室。

 通販とかとも違って、実物の写真すら見れないから、どんな物が用意されるかがよくわからないからな。

 一応、大きさとか見た目、材質などは教えられていたけど、それだけじゃちょっとイメージがしづらい。

 やっぱり、何かを買うときは実際に見て判断するのが一番だな。


「キース、貴方はどう思いましたか?」

「そうですね……魔法具の時程ではありませんが、こちらも少々値が下げられているかと。ただ、何かの疑いを持つ程のものではありません。おそらくですが、クレアお嬢様やタクミ様との拘わりを、これからも繋げるためかと思われます」

「そうでしょうね。以前からそれなりにこのお店を利用していたのだけど、それでも今回のように大口の取引が来るとわかれば、縁は繋いでおきたいのでしょう」


 ハインさん達がいなくなった後、クレアがキースさんに意見を求める。

 俺は気付かなかった……というか相場があんまりわかっていないから当然なんだけど、イザベルさんの店に続いてこちらでも値引きがされていたようだ。

 話を聞くに、これからも俺やクレアが贔屓の店とするため、ハインさんの判断で色を付けたって事なんだろう。


「タクミさん。タクミさん自身は否定されるでしょうけど、私達やタクミさんが多くの取引をする際、こういった事がこれから増えて来ると思います」

「これからも……?」


 知り合いのお店だから、値引きを少しくらいされる事はまぁあってもおかしくない。

 とはいえ、さすがに知らない店で値引きをされるって事は、そうそうないんじゃないかな?


「はい。私は公爵家として、タクミさんは公爵家と親しい人物として……レオ様もいらっしゃいますから、それ以上ですが。ともかく、値引きや特別な取引で、気を引こうとするのです」

「今回のように大口の取引となると、店側も相当な利益ですから。それがこれからも期待できる人が相手となれば、多少の値引きなどは損失にはなりません。ハインさんのように、値段で示すのみというのは少し珍しい方で、おそらく見知っている関係だからだと思いますが……」


 クレアとキースさんが俺に対して、これがただ親しいからの値引きではないと教えてくれた――。


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