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第1044話 もやしの料理も考えられているようでした
第1044話 もやしの料理も考えられているようでした
「まぁ、まだ皆様にお出しできる料理になるかは、わかりません。発見した時と同じく、炒めてみようと……あと、茹でたり様々な調理法を試しています」
厨房を見回してみると、木のザルでもやしを洗ったり、ひげの部分を取っている料理人さんがいたりと、それぞれ忙しそうにもやしの下処理を行っていた。
洗うのはともかく、ひげを取る下処理をやっているのなら、もしかすると食卓に出る程じゃなくて、何度か試作をしていたのかもしれない。
「成る程……それじゃ、ハンバーグを全員分作るには、人手が足りないんですね?」
「はい、そうなります。あれから観察したところ、もやしは成長が早い代わりに、駄目になるのも早く……試作に使うもやしを今日使わなければ、無駄にしてしまいます」
俺がよく知るもやしも、保存期間は数日程度で長くない。
成長速度が速いかわりに、ソーイで作られたもやしはそれ以上に足が速いのかもしれないな。
「わかりました。それじゃ、手伝いたがりそうなリーザと、他にも手が空いてそうな人が手伝えないか、聞いてみます」
「すみません、お願いします」
「いえ、急遽頼んでいるのはこちらなので。まぁ、オークが運び込まれたら、そちらの処理もあるでしょうからね……俺も手伝いますけど……」
特に言われなかったけど、オークの処理もある。
凍っているオークであっても、一度解凍して適切な処理をしておかないといけないだろうから。
タイミング的にやる事が立て込んでしまうのだから、人手が足らなくなるのも無理はない……オークに関しては特に、予定になかった事だし。
「タクミ様、話の途中に申し訳ありませんが……ハンバーグ? とは一体どんな物なのでしょうか?」
ヘレーナさんと話していると、シャロルさんがハンバーグについて興味を持ったようだ。
そういえば、ハンバーグがどんな料理なのかとか、説明していなかったな。
「ハンバーグというのは、タクミ様が考えられた料理の事で……」
ヘレーナさんがシャロルさんに対し、ハンバーグの事を伝えていく。
お肉の種類での違いもありつつ、作り方はそこまで難しい物ではなく、焼き加減以外は大きさを考えれば誰にでも作れそうな物である事。
他にも、味付けも含めて色々なやり方でバリエーションを持たせられる事などだ……でも、本当は俺が考えた料理じゃなくて、思い出したとか知っていた、というのが正しいんだけど。
まぁ、今は余計な事なのでそのままにしておこう。
「レオ様の好物である、ソーセージを作る時にも使うミンチにした肉でできるので、材料に困る事もありません」
「レオ様にも好物が……ふむふむ。でしたら、フェンリル達はそのハンバーグという料理が好物なのですね?」
「そうですね、ヘレーナさんと協力して作った時、一緒にフェン達にも食べてもらいましたけど、それ以来お気に入りになっています。特に、フェリーが気に入ってよく食べたがります」
シャロルさん、ハンバーグに興味があるというより、どちらかと言えばフェンリル達の好物という事に関心があるようだった。
餌付けとか考えていたから、その関係かもな。
一緒にいるチタさんやアロシャイスさんは、単純に美味しい料理という事に期待しているようだけど。
「タクミ様、私もハンバーグを作れるようになりたいのですけど、よろしいでしょうか?」
「構いませんよ。というか、俺に許可を取る程のものでもないですし、簡単に作れる物ですからね」
シャロルさんに言われて、頷く俺。
そもそも、ソーセージは広く作られているのに、同じ挽き肉を使用したハンバーグが知られていないのが、不思議なくらいの料理だからな。
探せば、この世界のどこかでも作られていてもおかしくない。
作る手間だけならハンバーグの方が楽な気すらするが……保存性の事もあって、ソーセージの方が作られるようになったのかもしれない。
「あ、そうだ……ハンバーグにもやしを入れてみるってのはどうでしょうか?」
「ハンバーグにですか?」
話している途中、ふと思い当たったので提案してみる。
ハンバーグは肉以外の物を混ぜても美味しいという、許容度の広い料理だ。
もやしハンバーグというのも、どこかで聞いた覚えもあるし……こちらのもやしが俺の考えているもやしと大きく違わなければ、食感が面白い料理になってくれそうだ。
あと、コンニャクよりは食べやすそうだし、おからがない以上ハンバーグのカロリーを下げるには、もやしを入れた方が良さそうでもある。
「もやしを見たり、試作してみないといけませんけど、面白い物ができるんじゃないかと」
「ふむ、成る程……ハンバーグにもやしを……」
「ただ、フェンリル達が美味しいと感じるかはわからないので、とりあえずの試作で幾つか作ってみてはどうかなと。後で俺も手伝うので、その時に」
肉肉しいハンバーグが好きだったりもするから、もやしの食感を気に入るかどうかは食べさせてみないとわからない。
嫌う可能性を考えたら、ご褒美にはいつものハンバーグを用意しつつ、試作したもやしハンバーグを少し試してもらうのがいいだろう。
さすがに、それなりの量があると思われるもやしも、フェンリル達も含めた全員が食べられるくらいの量があるか微妙だし。
「畏まりました。試作するもやし以外に、タクミ様がお使いになれるように準備しておきます」
「はい、お願いします。それじゃシャロルさん達、一先ず裏庭に行きましょう」
「「「はい」」」
とりあえずの準備や料理をヘレーナさんに任せ、シャロルさん達を連れて厨房を出る。
裏庭に行って、散歩後のレオ達の様子を見るのと、俺自身の鍛錬もあるし……あと、リーザがやる気ならハンバーグ作りの手伝いもお願いしないとな。
「タクミ様は、料理にもお詳しいのですね。だからこそ、フェンリル達が懐いているのでしょう」
「いえ、俺は詳しいという程では。ヘレーナさんや屋敷の料理人さん達の方が、よっぽど詳しいですよ。ただ、ここでは知られていない事を、少し知っているだけですから」
餌付けに拘わるからだろう、料理に関心がありそうなシャロルさんは、厨房を出てからずっと俺に感心している様子。
だけど、俺の料理知識なんて、見た事がある、食べた事があるくらいで、自分で作ったり作り出したりした物じゃないからな。
物が豊富で、創意工夫された物が多い、日本生まれだからこそでもある。
スーパーの総菜や、仕事を始めてからはコンビニ弁当のお世話になってばかりだったけど――。
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