第1027話 レオやフェンリル達とお散歩を開始しました



「フェリー、フェン、リルル。よろしくな? 今回は競争とかじゃないから、速すぎない程度に走ってくれ」

「グルゥ!」

「ガウ!」

「ガウゥ!」

「キャゥ?」

「ははは、シェリーはまだまだ人を乗せられる大きさじゃないからな」


 フェンリル達、それぞれに声をかけて体を軽く撫でつつ、お願いする。

 頼もしく頷くフェリー達のすぐ近くで、首を傾げて「自分は?」とでも言うように鳴くシェリーは、さすがに人を乗せられない。

 成長しているとはいっても、まだ抱き上げられるくらいだからな。


「ガウゥ、ガウガウゥ?」

「キャウゥ……キャゥ!」


 リルルから何かを言われ、気落ちした鳴き声を発するシェリーが顔を上げ、大きく頷く。

 フェンリルやレオに乗ろうとしないのを見るに、一緒に走るつもりなんだろう。

 まぁ、散歩程度だし、どこかへ急いで行くわけじゃないから、シェリーも走ってついて来られると思う。


 一時は怠け癖が付きかけていたけど、レオのダイエット案やリルル達両親が一緒にいる事で、最近ではよく動いているのを見かけるから、大丈夫だろう。

 多分、リルルやフェンが走るシェリーを気にかけてくれるだろうし、俺やレオも気を付けていれば良さそうだ。


「うぅ……」

「……ほ、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫ですから」


 辞退はしなかったけど、いざ乗る段階になると恐怖心が勝るのか、近付きはしても中々乗ろうとしない使用人候補の皆さん。

 全員を一度に乗せるのは無理なので、交代で乗ってもらう。

 フェリーにアルフレットさんとジェーンさん、フェンにヴォルターさんとアロシャイスさん、リルルにエミーリアさんとチタさんだ。

 残った人達は、一旦待機していてもらう。


「怖いなら、しっかり掴んでおいて下さい。私達が掴む程度であれば、フェリーが痛がったり怒ったりはしません」

「そうですよね、初めて乗る時は怖いですよね。でも、すぐ慣れますから」

「皆優しいフェンリル達ですから、大丈夫ですよ。師匠が大丈夫と言っているので、問題ないのです」


 伏せをして乗りやすくしてくれている、フェンリル達の近くで中々乗ろうとしない皆を見かねたのか、ライラさん、ゲルダさん、ミリナちゃんが妙にニコニコしながら声を掛けつつ、背中を押している。

 他にも、フェンリルに乗った事のある屋敷の使用人さん達が、背中を押していたり……クレアも参加しているな、楽しそうだから任せておこう。

 セバスチャンさんは、いつもならこういう時は楽しそうに参加する側だけど、ラーレに乗る予定なのもあってそんな余裕はなさそうだけども。


「ささ、お早く。あとがつかえていますよ」

「そ、そんなに押すんじゃない。乗る、乗るから」

「グ、グルゥ……」


 躊躇うアルフレットさんを、グイグイと背中を押して乗せるライラさん。

 ジェーンさんは覚悟を決めたのか観念したのか、既に乗っている……こういう時、女性の方が決断が早かったりするんだよなぁ、個人差もあると思うけど。

 フェリーは、早くしてと言うように鳴いていた。

 他にも、ゲルダさんやミリナちゃん、クレアや屋敷の使用人さん達に押されて、それぞれフェンやリルルに乗っているな、ここまでは大丈夫そうだ。


「わぁ……フカフカで気持ちいですね。馬とは全然違います」

「ガウゥ」

「ふふふ。チタだったかしら? 違うのは座り心地だけではないわよ?」


 リルルに乗ったチタさんは、手が届く範囲で撫でたり触ったりしながら、モコモコした毛の感触を楽しんでいるようだ。

 クレアも微笑んで、チタさんに話し掛けている。


「ほら、セバスチャンはこっちですよー!」

「はぁ……畏まりました、ティルラお嬢様」

「セバスチャンさん、頑張って下さい……」


 他方、ラーレが姿勢を低くしている所では、先にティルラちゃんが使用人さん達に手伝ってもらって乗って、セバスチャンさんを呼んでいる。

 溜め息を吐いて覚悟を決めたセバスチャンさんは、のろのろとした動きでラーレに近付いて行く……いつもは年齢を感じさせないくらい、きびきびした動きなのになぁ。

 ヨハンナさんは、そんなセバスチャンさんに後ろから声をかけていた……励ます目的もあるけど、次は自分の番だと色々諦めている雰囲気が漂っている。

 フィリップさんは、遠い目をして空を見上げていた……色々と大丈夫だろうか?


「パパー、早くー!」

「ワフー!」

「あぁ、わかったー。……しょっと」


 皆の様子を観察している俺を、レオに乗って呼ぶリーザ。

 レオも俺達を乗せて走るのが楽しみなのか、伏せをしたまま尻尾を振ってこちらに鳴いて急かしている。

 返事をして、レオに乗った。


「皆、大丈夫みたいだな。――それじゃ、行きましょう!」

「ワウー!!」

「グルゥ!」


 立ち上がったレオの背中から周囲を見回して確認後、出発の合図を送る。

 レオに続いてフェリーが軽く吠え、フェン達も続いて走り始めた……ラーレは翼をはためかせて上空へ。

 俺を乗せたレオを先頭に、屋敷の少し南に行った街道とは別方向、一旦塀を迂回して北側に向かう。

 周囲は草原になっており、所々に木があるくらいで見晴らしのいい場所だ。


 街道にさえ近付かなければ、人とすれ違ったりする事はなさそうだ……その代わり、魔物がいる可能性とかもあるけど。

 ただし、護衛兵士さん達がチームを組んで、日頃から見回りをしてくれていて追い払ったり、場合によっては倒してくれているので魔物と遭遇する可能性はかなり低い。

 それに、レオと俺が屋敷に来てから近付いて来る魔物は、ほとんどいなくなったとも聞いている。

 まぁ、シルバーフェンリルの気配を感じて、本能的に避けているのかもしれない……一部、オークのように強い気配を避ける考えがない魔物もいるらしいけど。


 ともあれ、レオだけでなくこれだけフェンリルがいるんだから、多少魔物と遭遇しても危険はほぼないだろう。

 空から、広い視野でラーレもいてくれる事だしな。


「……鞍や鐙、手綱がないのが少々不安ですが、こんなに安定しているものなのですね」

「ほんと、驚いたわ。いえ、驚くというなら、危険なくフェンリルに乗って走れるという事そのものが驚きなのだけれど」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る