第1023話 『雑草栽培』の追加説明とゴム茎を作りました



「タクミ様。先程タクミ様が手に持った薬草が、一瞬で変化していましたが……何か魔法を? いえ、もしやそれもギフトの能力で?」

「ヴォルターさん。そういえば昨日そこまでは説明していませんでしたね。えっと、『雑草栽培』にはただ植物を作る能力ってだけじゃなくて……」


 意外? にも、『雑草栽培』を使うところを一番見たがっていたらしい、ヴォルターさん。

 昨日セバスチャンさんに厳しく言われていたのと、一日経って落ち着いたのかなんなのか、会ってすぐの態度は鳴りを潜めている。

 まぁ、それでも取ってつけたように、丁寧な言葉にしただけにも聞こえるけど。

 ともかく、『雑草栽培』の状態変化を説明し忘れていた事を思い出し、ヴォルターさんを始め見学に来ている皆に話す。


「……ギフトは単一の能力だけではない、との記述は見た事が……そうか、これがそうなのか。だが、ギフトの主能力に対して関係する効果だとも。だから、薬草を薬のように変化させると、そういう事か」


 予備効果というか、ギフト名そのままの能力以外にも、副次的な効果がある事を知って深く考え込むヴォルターさん。

 呟きが漏れているのはいいとして、書物で多少なりともギフトの事を知っている様子だ。

 セバスチャンさんより詳しそうだけど……これが本の虫の知識かぁ。


「さて次は……と。ライラさん?」

「はい、こちらに」

「ありがとうございます」


 ラクトスに卸す薬草が揃えば、次は別の植物を作る。

 ライラさんを窺うと、スッと出してくれる大きな寸胴鍋……既に用意してくれていたようだ。

 鍋を受け取って近くの地面に置いて、作業開始。

 今からやるのは、ゴム茎を作って樹液をため込む作業だ……食べ物を入れるわけじゃないので、俺でも鍋を直に地面に置くのをためらわない。


 多くは作れないから、日々少しずつ溜めるためなんだけど……最初は壺に溜めようとしていた。

 ただ、ゴム茎の樹液は空気に触れると乾燥し始める。

 火にかけて熱すると溶けて変質するが、壺だと固まったゴムを取り出したり、火にかけるのも苦労するからとヘレーナさんから寸胴鍋を譲ってもらった。

 最初から鍋に入れておけば、火にかけるのもそのままで大丈夫だしな。


 まぁ、樹液を使って今後色々実験するかもしれないから、ある程度溜まったらまた別の鍋を用意しないといけないけど……。

 ラクトスに買いに行かないとなぁ……さすがに全部ヘレーナさんから譲ってもらうわけにもいかないし、本来は料理のための物だから。

 ハインさんの雑貨屋に売ってるかな?


「それは、なんの薬草なのでしょうか? 見た事もない植物ですが……」

「ははは、これは薬草じゃありませんよ。ゴム茎……正確な名前はわかりませんが、俺はゴム茎って呼んでいます」


 俺が『雑草栽培』で作ったゴム茎を、アルフレットさんが見ながら首を傾げている。

 摘み取る……というか収穫は任せて欲しいと主張していた、ミリナちゃんにお任せなので、その間に話す。


「ゴム茎……聞いた事がありませんね……薬草以外にも作れるのですか?」

「もちろんです。『雑草栽培』であって、薬草栽培ではありませんからね。なんでもというわけには行きませんけど、花とかも作れますよ」

 

 ゴム茎は見た目から勝手に呼んでいるだけだし、聞いた事がないのも当然だ。

 というか、俺が思い浮かべた効果がある植物を『雑草栽培』任せに作ったので、正式名称があるのかどうかすら謎だけど。

 ともかく、『雑草栽培』は今のところ薬草を作る事で活躍しているから忘れがちだけど、人の手が入っているような植物でなければ、薬草でなくても栽培できる。

 この人の手が入っていない……というのが厄介で、食べられる植物はほとんど駄目って事だ。


 大体の食料になる植物は、農業として作られて人の手が入っている事が多いからな。

 この国にはなくても、別の国にあったりとか……この世界限定で判定されているのかもわからないし、どうやって判定しているのかも知らないけど。

 少なくとも、今のところ食べられる植物を幾つか試したけど、作れた物はほとんどない。

 タンポポ……ダンデリーオンは、お茶のためで食べるためじゃないけど。


「ゴム……ゴム……もしかして、南の国で作られているという、様々な用途にできる樹液……?」

「知っていますか、ヴォルターさん?」


 書物を読み漁っているのなら、セバスチャンさんも知っていたようだから、ヴォルターさんが知っていてもおかしくない。

 さすがに見た事はないようだけど。


「あ、は、はい。書物で読んだ事があります。確か……弾力のある不思議な素材で、何かと混ぜる事で色んな用途ができるとか。希少なので他国に出る事はほぼなく、作っている国でも高価なので一部の者しか手にできないと」

「ゴム、高価なんですね……」


 ヴォルターさんが言う、何かと混ぜるというのも俺が知っているゴムと同じだから、地球とそう変わらない物だろう。 

 まぁ、用途次第では金属よりも有用だし、量が少ないなら高くなるのも当然か。

 それなりに扱い方を知っていれば、部分的には革命が起きそうだ……多分。


「ただ、これは多分ヴォルターさんが書物で見たゴムとは、少し違うんです。えっと……」


 ゴム茎は、『雑草栽培』の能力のおかげで作れた事。

 本当のゴムとは違っていて、火にかければ変質する事なども含めて説明する。

 ついでに、確実じゃないけどある程度は『雑草栽培』の能力で、俺が頭に思い浮かべた植物も作れる事も……本当にあるのかわからない植物だというのも伝えておく。


 さすがに、使う事もほとんどないだろうし、ミリナちゃんの収穫が終わりそうだったので、瀕死のシェリーに使った薬草の事などは割愛させてもらった。

 ただ、制限の一つに使い過ぎると倒れてしまうので、どれだけ有用な薬草であっても一度に大量に作るのは難しい事は伝えておいた。


「それで、ランジ村で薬草畑をと?」

「はい。俺一人で作れる数には限界がありますが、ここに生えている薬草のように、『雑草栽培』で作った後に増やすんです」

「ここの薬草は、そういう事でしたか……いくらでも作れるのなら、わざわざ他の者を雇う必要は無いと考えていましたが、納得しました」


 俺の説明が終わった後、若い執事のキースさんから聞かれ、答える。

 確かに、過剰使用で倒れるなんて制限がなければ、いくらでも俺が作る事ができるし、わざわざ人を雇って畑のお世話をしてもらう必要はほとんどない。

 大量に作ったら摘み取るのも大変なので、そういった人員は必要かもしれないけど――。



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