第1022話 ライラさんの意見も聞きました



「全員が全員、それで恐怖心がなくなるかはわかりませんが、慣れるには良い事かと存じます。ゲルダも、それでレオ様を怖がる事がなくなりましたから」

「あ、あの時は申し訳ありませんでした、レオ様」

「ワフワフ」


 ライラさんは目の前でゲルダさんという例を見ているから、フェリー達も含めた荒療治に賛成。

 リーザをお風呂に入れてくれたゲルダさんは、ライラさんが来る前からこの部屋にいたんだけど、初めてレオを見た頃の事を思い出して、恐縮している様子。

 それに対してレオは、気にするなと言うように鳴いた。


「今では、すっかりレオに慣れましたからね」

「ワウー」

「はい。あ、レオ様……ふふふ」

「あー、ゲルダお姉ちゃん、私もー」


 レオが顔を近付け、ゲルダさんが笑いながらレオの頬辺りを撫でる。

 微笑ましい光景に羨ましくなったのか、リーザも参加。


「まぁ、レオとリーザはゲルダさんに任せて……ライラさん、明日皆を集めてフェンリル達に頼んで乗ってもらいましょう。ただ、どうしても怖くて嫌がる人には、無理強いはさせられませんけど」

「フェンリルに乗せてもらえる、貴重な機会ですから。嫌がるような人はいないと思いますが……畏まりました。セバスチャンさんやクレアお嬢様には、明日の朝伝えておきます」

「はい、よろしくお願いします」


 以前までなら、ライラさんに頼まず自分でクレア達に伝えようとしていたんだろうけど、自分で全てやらずに任せる事にした。

 微々たる事だけど、人を雇う自覚が出てきたかな?


「あ、そうだライラさん」

「なんでしょうか?」

「今日来た人達の中でメイドさん……女性の人達とは仲良くできそうですか?」

「仲良くですか?……タクミ様にお仕えする以上、どのような方であれ共に働く者として考えますが」


 ライラさんとゲルダさんは、既に俺が雇う事に決まっているから、一緒に働く人としての視点で使用人候補の人達を見てどう思うか聞いておきたかった。

 特に、メイドさんを雇うとしたらライラさん達の同僚になるわけだからな。

 けどライラさんは、仲良くするかどうかという視点ではなく、同僚として仕事を一緒にするだけと考えているらしい。

 ……意外とドライな考え方をしているんだな。


「まぁ、考えとしてはそれでいいかもしれませんけど……仲良くなれない相手と一緒に働くよりも、仲良くなれる相手と一緒の方が、やりやすいでしょ? ほら、休憩時間に話したりとか……」


 仕事をしていくうえで、気の合う同僚っていうのは結構重要だと思っている。

 俺も何人かの同僚とは、それなりの付き合いをしてきた経験からだ……まぁ、一年経たずに辞めていく人ばかりで、同僚であって同期はすぐにいなくなったんだけど。

 あと、大体同僚との話で話題になるのが上司への愚痴だったりするけど、それは共感を得やすかったからだろう。


「そうですね……確かにタクミ様の仰る通り、嫌いな相手よりも好きな相手と過ごした方が、仕事もやりやすいかと。この屋敷にいる他の者とは、それなりに話をしますし、嫌いな相手というのはいませんが……」


 俺の言葉に頷き、納得した様子のライラさん。

 この屋敷だと、同じラクトスの孤児院出身の人が多いみたいだし、仲良くなれない相手というのはいなくて、あまり考えた事がなかったのかもしれない。

 小さい頃から一緒に育った、気心の知れる相手だから。


「今日会ったばかりで、まだ多くの言葉を交わしていませんが、強いて言うならシャロルさんでしょうか?」

「シャロルさんか……」


 メイドさんの中で、一番厳しそうな雰囲気だった人……あくまで雰囲気だけで、まだ個別に話していないから本当に厳しいのかわからないけど。

 ちょっと、ライラさんと雰囲気が似ているかな? ライラさんは厳しいというより、真面目って感じだけども。


「真剣な目で、タクミ様を窺っているように見えました。ヴォルターさんのような感じではなく、いかにこの方に仕えるか、お世話をするのかと考えている、そんな雰囲気です」

「そ、そうなんですね……俺にはそう見えなかったけど」


 なんだろう、お世話好きとしての勘というか、仲間意識みたいなものでも感じたのだろうか?

 その真剣な目とやらが、俺には厳しそうな雰囲気に見えたのかもしれない。


「とは言っても、レオ様を見てからはそれどころではなかったようですが……あと、ギフトを教えた際にも、驚くばかりでしたね」

「それはシャロルさんだけじゃなく、他の皆もそうでした。色々詰め込んだ感じがあるので、仕方ないですか」


 まとめ役のアルフレットさんと、奥さんのジェーンさん、それからヴォルターさんの印象が強くて、あまりよく見ていなかったけど……シャロルさんか。

 ほぼ第一印象くらいなので、まだまだ意見が変わるかもしれないけど、参考程度に覚えておこう。

 そうして、少しライラさんと話しながら、じゃれ合うリーザやレオ、ゲルダさんを微笑ましく見ながら適度なところで就寝した。

 また明日も、やる事がいっぱいっぽいから寝不足にならないようにしないとな……。



 翌日、いつもとほとんど変わらない時間に起きて、朝食後にラクトスへ卸す薬草の栽培。

 使用人候補の皆さんは、移動疲れや屋敷に来てからの整理……荷物や頭の中とか色々とあるだろうと、昼食後から出て来る予定だ。

 だけど、『雑草栽培』を使うのでもし見たければ、とライラさんから伝えてもらったら、ほとんどの人が見学に来ていた。

 執事のアロシャイスさん、ウィンフィールドさん、メイドのジェーンさんはお寝坊さんらしいけど……緊張やらレオとの対面やらで、疲れたんだろうし今日くらいは別に構わない。


「タクミ様、こちら終わりました」

「師匠、こっちは薬に調合しますね」

「ありがとうございます、ライラさん、ミリナちゃん」


 手伝ってくれていたライラさんとミリナちゃん。

 ゲルダさんは、離れた場所で遊んでいるリーザ達を見守っている。

 二人にお礼を言って、腰を伸ばして軽くストレッチ……『雑草栽培』を使っていると、地面に手を付く必要があるので、しゃがんだり前かがみになったり、腰を酷使するからな。

 腰を痛めたりしないよう、気を付けないと……農家の人と比べたら、全然楽なんだろうけど――。



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