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第987話 想像以上に高い小遣いでした
第987話 想像以上に高い小遣いでした
子供の頃、大人はどうしてお金を持っているのか不思議だった事がある。
まぁ、今では必死で稼いでいたからってわかるんだけど、お金がどういうものか理解できない頃ってのはあるもんだ。
お金が全てだと感じて欲しくないけど、あるとないでは違いがあって、大事な事も知って欲しい。
そういった考えも、クレアやセバスチャンさんに伝えた。
「そうですな……教育、という意味でも小遣いをあげるのは良い事かもしれません。街の子供達も全員ではありませんが、多かれ少なかれ親達からもらっているようですからな」
「孤児院でも、少額ながらあげているようね。まぁ、どちらも余裕があるからこそなのでしょうけど」
「まぁ、教育やリーザのためと俺が勝手に考えているだけだから、本当にためになるかはわからないけど……一番はやっぱりリーザが遠慮しないように、が大きいかな」
まだまだ、遠慮している節が見え隠れするリーザ。
だったら、自分で使えるお金なら遠慮せずに使えるんじゃないかな? という考え。
とはいっても、誰かからお金をもらう事を遠慮したり、自由に使える物だと思わない事だってあるかもしれないけど。
「それで、とにかくリーザには小遣いをあげてみようかなと思うんだ。えっと、ティルラちゃんにはいくらくらいあげているのかなと……聞いていいのかわからないけど」
「特に隠す事ではないですよ。触れ回る事ではないですけど。――ティルラには、確か金貨三枚だったわよね、セバスチャン?」
「はい。使用人達への給金と同じように、毎月金貨三枚を渡すようにしております」
「え……金貨三枚……?」
えーと、金貨一枚が日本円で約十万円相当の価値のはずだから、金貨三枚は三十万で……。
公爵家だけでなく、働いている人の月々の給金であれば、特別高いとは言えない額だ。
だけど、十歳の子供が毎月受け取る金額としてはかなり高額……リーザへ渡す小遣い額の参考にしようと思ったけど、あんまり参考にならなかった。
「ティルラお嬢様は、近い年頃の子供達と遊ぶ事が多く、今はレオ様やラーレ達と一緒にいるのが楽しいようですので、あまり浪費されませんな。なので、多くが使わず取ってあるようです」
「最初は五枚にしようと考えていたんですけど……ティルラの成長を見て、増額するとして三枚にしました。おかしな使い方をしないので、すぐに増額してもいいんですけどね……タクミさん?」
「あ、えぇ……ちょっと驚いたので。そうか、金貨三枚かぁ……」
小遣いがサラリーマンの給料並みと知って、俺は、驚いたせいでぼんやりとししてしまっていたのを、クレアに呼び戻される。
それでも、セバスチャンさんやクレアが話すのを聞いていたけど……確かに成長というか、年齢が上がるごとに増額するのはわかる話だ。
日本でも、小学生と高校生では小遣い額も違うだろうし。
それでも額がなぁ……物価が違うとかもあるだろうけど、平均的な給金とかと近いお金を小遣いとしてあげられるのは、さすが公爵家といったところか。
「リーザにはどうするか……ティルラちゃんより小さいし、あんまり欲しい物がないようだから……と言っても、実際は我慢しているのかもしれないからなぁ。まぁ、生活する分にはなんとかするから、多くなくていいんだろうけど……」
金貨はさすがに多いから、やっぱり銀貨一枚くらいがいいかな? でも、大体一万円だから高すぎると思うのは、俺が庶民育ちだからだろう。
俺が小さい頃は千円とか二千円くらいだったしな。
「そうですね……金貨一枚でどうでしょう? それなら、欲しい物以外にも使い道を考えられそうです。少し、足りなくなるかもしれませんが」
「それくらいがちょうど良いのかもしれませんな。ティルラお嬢様はされていませんが、勉強の意味合いを持ち、独自で支援する商人などを見つける、というのもあります。それもあっての、金貨三枚です」
「支援する商人……?」
クレアからは相変わらず多過ぎる小遣いの提案が来るけど、セバスチャンさんから気になる事を言われた。
支援する商人って、子供がそんな事をするのか?
大通りを歩きながら詳しく聞いてみると……貴族や裕福な家の子供は多めに小遣いをもらい、自分が欲しい物を買うだけではなく、贔屓にする商店や商人を見つけるのだとか。
まぁ、行きつけの店とか、欲しい物などを注文して仕入れてくれる相手、と考えていいそうだ。
そして、商人や商店が利益を上げて商売の手を広げた時に、支援した人には様々な優遇があったりするのだとか。
特に貴族の子息子女だと、商人側は貴族の後ろ盾に近かったりもするので喜ばれるらしい。
とは言っても、さすがに毎月金貨数枚程度の支援で、大きな利益になるわけではないので、それを使ってどうするのか……というのを親達が見て、商人達を判断したり、子供の教育に繋げる事もあるのだとか。
そもそもそういった事はあまり多くないし、貴族も含めて子供達の自由意思でもあるので、大きな街で数年にひとつの例があるかどうかくらいらしいけど。
なんというか、ちょっとした投資みたいな感じかなと思う事にした。
自分のお金であれこれ考えて、どういった商人や商店を支援するのかなど、お金の事だけでなく物の情報を知ったり、様々な教育になると言われた。
うーん……子供の頃からそういった教育がされているから、貴族は一部の例外を除いて商売をしても失敗する事が少ないとも……まぁ、支援しての繋がりを小さい時から作っておけば、成長して家を継いだ時に役立つというのもわからなくはないか。
「クレアは、誰かを支援したりはしていた?」
「私は……孤児院にですね。微々たるものですけど。商人達を見るよりも、孤児達が育って行くのを見るのが楽しくて」
クレアに聞いてみると、商人ではなく孤児院の支援をしていたらしい。
自由なお金なので、できれば商人を……と多少大人達から誘導されるけど、結局どう使うかは本人次第という事なんだろう。
成長に繋がれば、特に文句は言われないって事かな……エッケンハルトさんとか、公爵家の方針っぽいけど。
「それで、クレアは人を見る目が養われたのかもしれないのかな?」
「元々、備わっていたのだと私達は考えていますな。数人の商人を見るより、孤児達の方が数が多く様々な事情や性格の者がおりますから」
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