第950話 フェンリル便はまだまだ考える事が多そうでした



 ――翌日、少し早めに起きて朝食を食べ、屋敷へと戻る準備を手早く済ませて、クレア達と家の外へ。

 すでに今日村を離れる事を伝えていたので、デリアさんやペータさん、カナートさんや親方さん等村の人達が集まって、一緒に村の入り口へ。

 村の出入り口では、レオやフェリー達と使用人さん達が待っており、屋敷へ出発する準備は整っていた。


「レオ、フェリー達もだけど……苦しくはないか?」

「ワフ!」

「グルルゥ!」


 自分で持つ荷物以外、レオやフェリー達フェンリルの首に風呂敷に包んで巻き付けてある。

 それぞれを撫でながら、首が窮屈だったり苦しかったりと、締まり過ぎていないかなどを聞いてみるが、大丈夫そうだ。


「レオ様は嫌がっていましたが、フェンリル達が許可をする場合に限り、鞍や馬のように荷物を下げる方法も考えた方がよろしいですかな?」

「そうですね……レオは首に括り付けるのは大丈夫そうですし、他のフェンリル達も嫌がっていませんけど、その方が荷物を運べますからね」

「荷車を曳く事ばかり考えおりましたが、直接取り付けた方が気軽に運べますからな。まぁ、多くの荷物になると、さすがに荷車が必要でしょうが」


 荷物を持つフェンリル達を見ながら、横に来たセバスチャンさんから聞かれる。

 フィリップさん達と村に来た時もそうだったけど、荷車や馬車などを曳かずに直接馬に乗る場合、鞍や馬に繋げて荷物を運ぶようになっている。

 セバスチャンさんは、その事を考えて言っているのだろう。

 重過ぎず多過ぎない物なら取り付けた方が、物と人を一緒に運べるだろうからな。


 フェンリルをレオや他の犬と同じに考えられるのかは微妙だけど、体に何かを付けるのを嫌がるのもいるだろうからなぁ。

 慣れれば大丈夫だと思うけど、無理をさせないつもりなら、嫌がらないフェンリル限定でと考えた方がいいと思う。


「人を乗せて運ぶ事や馬車や荷車を曳くのは大丈夫でも、体に何かを装着させるのを嫌がるかもしれませんからね……協力してくれるフェンリルとそれぞれ相談する必要があるんじゃないですか?」

「それはそうですな。考える事が色々とありそうです……屋敷に戻ったら、検討しフェリー達とも話してみましょう」

「そうですね。レオが言えばフェンリル達は従うでしょうけど、無理矢理抑えつけたやり方は後々に影響しそうです」

「ほっほっほ、レオ様がおられなくとも、公爵家では抑えつけたやり方は推奨しませんからな」


 まぁ、クレアから聞いているけど……公爵家は権力を振りかざして、無理に相手を従わせるのを良しとしないらしい。

 これまで近くで見ていて、強権を発動するエッケンハルトさんやクレアさんは見た事がないしな。

 クレア達を見た側が気を遣ったりとかはあるだろうけど。

 ともかく、フェンリル達が協力してくれて、レオがいたとしても人間側の利益ばかりを求めたり、搾取するつもりがないのは、笑っているセバスチャンさんを見ればわかるから


「タクミ様、私とニコラはこれにて。また屋敷で会いましょう」

「あれ、そうなんですか?」


 レオ達を撫でながらセバスチャンさんとの話を終えると、今度はフィリップさんから声をかけられる。

 フィリップさんはニコラさんと一緒にまだ村に残るのか、ここでお別れらしい。


「村に来る際に乗った馬がいますから。そちらを屋敷まで連れて帰れねばなりません」

「あー、そういえばそうですね。フェンリル達に乗れる人数も、限られていますし」


 村まで乗ってきた馬を、そのままにしておけないのでフィリップさん達が乗って帰るって事のようだ。

 馬は生き物だし、逃げてどこかに行ったとかなら仕方ないが、村で乗り捨てるわけにもいかない。

 俺とフィリップさんが加わると、フェンリル達に乗るのに少し窮屈になってしまう。

 そこで馬を連れて帰るために、フィリップさんとニコラさんを残して人数を合わせるんだろうな。


「えーと……フィリップさん。護衛お疲れ様でした。あと、ありがとうございます」

「いえ、村に来てからはデリアさんがいましたし、特に危険な事はありませんでしたから。必要かどうだったか怪しいくらいです。……個人的には、楽しく過ごせてこちらが感謝するくらいだ」

「あはは、まぁ俺ものんびりと過ごせたから。それじゃ、また屋敷で」

「えぇ」


 屋敷を出発してからずっと、フィリップさんとニコラさんにはお世話になったからな。

 護衛してくれた事には、ちゃんと感謝をしておかないと。

 確かに狩り以外で危険な事がなかったので、必要だったかは考えてしまうだろうけど……多分、俺が知らないところで警戒してくれたり、気を張っていてくれた部分もあったと思う。


 ちょっとだけ、村で過ごしていた時のように砕けた口調になり、お互い笑い合う。

 直立して胸に手を当てた後、村の方へ向かうフィリップさん……見えなくなって気付いたけど、あれも敬礼の一種だったと思う。


「タクミさん……」

「デリアさん。村にいる間、お世話になりました。……えっと、また会えるので泣かなくてもいいんですよ?」

「うぅ……ですけど……」

「デリアお姉ちゃん、寂しいの?」


 見送りに来た村の人達の方へ来ると、クレアと挨拶をしている村長さんとは別に、デリアさんが目をウルウルさせていた。

 それだけ懐かれたというか、寂しがってくれるのは嬉しい事だけど……いつになるかはともかく、またいずれ会う事が決まっているんだから、泣かなくてもなぁ。

 と思ったら、シェリーやティルラちゃんといたリーザがトコトコと近付き、デリアさんに話し掛けた。


「リーザちゃん。タクミさんが来て下さってから、とても楽しかったのですよ……だから、寂しくなったんです」

「そうなんだ……えっとね、リーザもね、パパと離れて寂しかったの。でも、こっちでまた会えてすごく嬉しかった。だから、デリアお姉ちゃんもまた会えたらもっと嬉しいから、寂しくないよ?」

「ありがどうございばず……リーザぢゃん……」

「あらら……」


 直球で聞かれて、ぶわっと目に溜めていた涙をこぼしながらリーザを抱き締めるデリアさん。

 そんなデリアさんを、優しいリーザは二本の尻尾で頭を撫でながら慰める。

 年齢的には、立場が逆だよなぁ……と思いながら、リーザなりにぎこちなくも慰める様子を、温かい気持ちで見守った――。



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