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第936話 レオが子供達の遊具になっていました
第936話 レオが子供達の遊具になっていました
「……フィリップさん、頑張って……!」
部屋の割り振りが決まり、階段を上がって自分の部屋へ入る前、そっとフィリップさんの部屋を覗いてみる。
入り口に背を向けて床へ正座し、体をプルプルさせているフィリップさんを見て、聞こえないように小声で応援。
同じく部屋の中にいるニコラさんと目が合ったが、お互い苦笑だけしてそっとドアを閉じ、部屋に戻った……フィリップさん、頑張れ!
……けど、入り口から見えた膝の上に乗っていた剣が、三本になっていたのはなぜなんだろう? ニコラさんが持っていた剣のように思えるけど、あまり深く考えない方が良さそうだ――。
―――――――――――――――
「ワフ、ワフ!」
「わー! すごいすごい!」
「きゃっきゃっ」
「レオー、やり過ぎないようになー!」
「ワウー!」
翌日の昼過ぎ、クレアと一緒にブレイユ村の広場で子供達と遊ぶレオを見守っている。
無邪気な子供達は、昨日のうちにレオに懐いており、今は伏せをしたレオに数人がよじ登って、立ち上がったレオから滑り落ちるという、簡易的な滑り台と化していた。
子供達が降りる際、体を揺らしたりしているので、やり過ぎないように一応注意だけはしておく。
濡れた毛の水気を飛ばす時のように、体を思いっきり震わせたら、体重の軽い子供は軽々と弾き飛ばされるだろうからな。
「……タクミさん、いいのでしょうか? 子供達の相手は私がするべきなのに」
「レオも楽しんでいるから、いいんだよ。それに、いつも子供達の相手をしているんだから、たまには休まないと」
「子供達もあんなにはしゃいで、楽しそうですし、止められませんよね」
遊んでいるレオや子供達を見守れる場所、広場の端の方で椅子やテーブルが用意され、簡易的なオープンカフェみたいになっている場所で、俺とクレア、デリアさんが座っている。
デリアさんは、子供達の相手をレオがしてるのを見てオロオロしているけど、向こうは楽しそうなので問題ないだろう。
ちなみに、ライラさんとヨハンナさんは俺達の後ろに立って控えている……さすがに村の人達からも見られる外なので、一緒に座ってお茶をというわけにはいかないようだ。
セバスチャンさんとニコラさんは、森近くの野営している場所へ行って、フェリー達の様子を見に行っているんだけど、もう一人、フィリップさんは……。
「……すまないなぁ、フェル。まだ足が震えるんだ」
「ガフ」
俺達から少し離れた場所で、伏せておとなしくしているフェルに寄りかかっていた。
名目上は、一応誰かがフェンリルの近くにいた方が村の人達も安心できるだろう、という事なんだけど、実際は昨日の正座が原因で真っ直ぐ立てないフィリップさんの介護みたいな感じになっていたりする。
……仲良さそうで何よりだ。
「パパー、助けてー!」
「リーザちゃんをいじめちゃいけませんよー!」
「お?」
リーザの声が聞こえ、レオと遊んでいる子供達とは別の方を見てみると、走って逃げるリーザと、それを追いかける子供達に……ティルラちゃんも?
「おっと。どうしたんだ、リーザ?」
「うんとね、皆がね、私の尻尾を掴もうとするの……」
「ごめんなさい、タクミさん。注意したんですけど……」
「あー成る程、そういう事かぁ」
椅子から立ち上がった俺に抱き着くリーザ。
受け止めて頭を撫でながら、どうしたのか聞いてみると……どうやら、尻尾を狙う子供達に追われていたらしい。
ティルラちゃんは注意するような声を出していたし、俺の所まで来たので止まった子供達を追い抜いて、謝る。
いつもデリアさんが子供達と遊ぶ時、尻尾を使っていたからだろう、狙うのが癖になっているのかもしれないな。
「リーザちゃんの尻尾は、乱暴に触ったら嫌がりますから……意外と、屋敷の者達が好んで撫でていますけど、人によってリーザちゃんの表情が微妙に変わりますからね」
「そうですね」
リーザが嫌がる事はしたくないし、レオに指導されたので俺が乱暴に触る事はないし、屋敷の人達も優しく撫でているのはよく見ていた。
けど、撫でる人によってやり方が違うのか、撫でられている時に気持ち良さそうにする以外にも、くすぐったそうにしたり、我慢するような表情になったりもしていた。
クレアが言うように、はっきりと表情に出す事は少なくて、微妙な変化だったりするんだけど……それだけ、敏感な器官だからちょっとした事で違いが出るんだろう。
そんな尻尾を子供達が触れれば、もちろん何も知らないので乱暴に扱ってしまう事だってあるか。
「タクミさんすみません、いつも私が尻尾を使って子供達の相手をしているから……」
「まぁ、それでついリーザの尻尾もって考えたんだろうね。レオの方も、尻尾を掴もうとしている子供がいるし……あっちは簡単にあしらっているけど」
レオの方にも、大きな尻尾を捕まえようとしている子供達がいたりするけど、そちらはレオがその場で尻尾を動かすだけで翻弄しているので問題はなさそうだ。
とは言え、リーザにレオと同じようにしろとは言えないし、デリアさんのようになれていないから、ここまで逃げて来たんだろう。
「ふむ……デリアさん、ちょっとリーザをお願い。――ちょっといいかな?」
「な、なんだ……なんですか……?」
デリアさんにリーザを任せ、一番先頭でリーザを追いかけていた男の子に対し、目線を合わせるようにしゃがんで話しかける。
最初は、遊びの邪魔をされて不機嫌そうに答えた男の子だけど、俺の後ろから感じる圧力に負けて、言葉を改めた。
デリアさん、男の子が怯えるから程々に!
「えっとね、女の子が嫌がる事をして追いかけるってのは、遊びじゃなくていじめになるんだよ?」
嫌がっているのに、それを続けているのは片方にとっては遊びで楽しい事でも、嫌な事をされている方は、楽しさなんて一切感じない。
どうせ遊ぶのなら、お互い笑って楽しく過ごせるように遊ばなきゃな。
「で、でも、いつもはデリアお姉ちゃんが尻尾を掴まえてみろって、言って……いるんです」
「す、すみません、すみません!」
「あぁ、ははは。まぁデリアさんはそれが子供達と遊びやすいやり方なんだから、謝る必要はないよ」
男の子がデリアさんを例に出して、後ろから慌てた謝罪が聞こえるけど……まぁ、デリアさんが悪いわけじゃないから。
デリアさんくらいの身のこなしがあれば、尻尾を使った方が子供達の相手をしやすいんだろうし、それが悪い事にはならない――。
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