第914話 花咲か兄さんになる事にしました



「それじゃ、ちょっと余計なお世話かもしれないけど……」

「タクミさん?」

「……よし」

「え、これは……?」


 習慣はなくとも、殺風景なままよりはいいだろうと考え、お墓の前の地面に手を付き、『雑草栽培』を発動。

 横で首を傾げているデリアさんを余所に、手の下から植物を生やす。


「俺の貧困な花知識でも、なんとかできた。良かった」

「えーと、タクミさん? これってもしかして、前に言っていた?」

「そう、『雑草栽培』だね」


 『雑草栽培』は、本来人の手が入っていない……つまり農作物になっていない植物を栽培させる能力。

 薬草ばかり作っているけど、それしかできないわけじゃない。

 必要なかったから、今まで使わなかっただけだ……。

 とは言え、俺自身花に造詣が深いわけでもないので、様々な種類の花をというわけにはいかなかった。


「……見た事のない花がいっぱいです」

「あはは、まぁ、俺の花知識はちょっと変わっているから」


 芽が生えてきて、茎を伸ばし葉を付け、つぼみから花を開かせる過程を見守る事数秒で、いくつかの花がカルヤカトさんの墓石の前に咲いた。

 花の知識はなんと言っても、日本に暮らしていた頃の知識だから、ここらで見た事のない花になるのは仕方ないし、許して欲しい。

 ちなみに作った花はお墓参りの定番、菊の花に、日本ではポピュラーな色んな色のチューリップ。

 朝顔も考えたんだが、蔓が伸びて名前が書かれている木の板とかに巻き付いたらと考えて止めておいた。


 それから最後に、ちょっとしたお試しも込めて蓮の花も……水生植物だから、できるか不安だったけどそこはさすがの『雑草栽培』、なにも抵抗なく作れた。

 菊や蓮はともかく、チューリップは花に対する知識が少ないために、パッと思いつくのがこれしかなかったからなんだけど、黄色のみの菊や、淡い桃色の蓮の花だけでなく、紫や白などで彩ってくれている。

 わりと適当にやったつもりなんだけど、想像以上に綺麗な見栄えになって良かったな。

 ちなみに作り慣れたタンポポ……ダンデリーオンも候補だったんだけど、背が低い花だし、菊と同色なのでそちらも朝顔同様止めておいた。


「あ、ありがとうございます、タクミさん! こんな綺麗なお花を!」

「まぁ、お爺さんが喜ぶかはわからないけど、少しは景色も良くなったかな?」

「はい!」


 凄く嬉しそうに感謝するデリアさんは、感激してくれているようで、なけなしの花知識を絞り出した甲斐があったというもの。

 元々、村や畑、森を見渡せて景色は悪くなかったけど、花も添えられればもっといい景色になるんじゃないかなと考えていた。

 ただ、『雑草栽培』で作った植物を、屋敷で研究するうちにわかった事があるので、その対処もしないといけない。


「……作っておいてから言うのはどうかと思うけど……デリアさん、ただ花が綺麗というだけじゃなくて、やらないといけない事があるんだ」

「え? でも綺麗に咲いているので……あ、虫が付いたりしないようにとかでしょうか?」

「それもあるかな。でも、それだけじゃなくて……」


 デリアさんに、『雑草栽培』で作った植物の特徴を伝える。

 今わかっている事だと、『雑草栽培』で作られた植物はまず花や実を付けたり、一瞬で育ちきる。

 薬草ならその段階で採取して終わりだけど、そのままにしておくと種をまいたりしているわけでもないのに、周辺で倍の数が育ち始める。

 そこで古い植物は枯れ、新しい方は通常よりも育つ速度が速いという事。


 そこからさらに次へと数を増やすんだが、ずっと放っておくと土の栄養を吸い取り過ぎてしまうのか、小さく限定的ではあるけど、砂漠化させてしまう。

 なので、そうなる前に対処をしなければ一部だけとはいえ、墓地に不毛な地面を作る事になってしまうので、なんとかしないといけないという事。


「だから、様子を見て数を増やすと同時に、最初の花が枯れ始めたくらいに摘み取る事。それと、増えた方の花もしばらくしたら、摘み取らないといけない事……」


 枯れる前に摘み取る事で、土への影響を最小限に留めれば、砂漠化は免れる……まぁ、栄養を吸われた状態ではあるけど、しばらくすれば他の土と変わらない状態に戻るはずだ。

 さらに、増えた方も次ができる辺りで摘み取れば、同じように砂漠化はさせずに数を増やす事ができる。

 これが、今のところ屋敷で『雑草栽培』をして、観察してもらって得た対処法だ。


 ……最近では、砂漠化した砂をコッカー達が好むので、多少そのままにしていたりもするけど。

 ともかく、そうして三段階目に増えた花や薬草は、通常の植物と変わらない速度で成長するので、土の栄養を一気に吸い上げる事がないわけだ。

 しかも、『雑草栽培』の影響が全てなくなったわけではなく、ちゃんと世話をしていれば、土地や気候に関係なく育つし、何代か先までその性質を備えているだろう、という報告がされていたりもする。


「ちょっと手間になるからデリアさんだけでなく、村の人にも協力してもらわないといけないんだけどね……」

「タクミさんが作ってくれたお花です、私は喜んでやりますよ! 村の人達も、タクミさんからなら多少の事はやってくれると思います」

「それならいいんだけど……えっと、とりあえず花は他から持ってきて植え替えた、としておこうか。どこかで売れないかと持っていたけど売れなくて、捨てるくらいならとここに植えたって事で」


 さすがに、摘み取ったりその後の世話を考えたら、デリアさんだけでなく村の人達の協力も必要だからな。

 摘み取るだけなら簡単だけど、三段階目は水やりもしないといけない。

 目をくりくりとさせながら、尻尾や耳も忙しなく動かして聞いていたデリアさんは、説明を聞いてすぐに賛成、村の人達も問題なくやってくれるだろうと保証してくれた。

 あとは、何もなかったのに花が咲いているのは不自然なので、『雑草栽培』の事がバレない程度に、納得してくれる言い訳を考える。


 ちょっと数が多いけど、急激に植物が育ったとは考えられないだろうから、押し通せるだろう。

 ちなみに、フィリップさんからフェンリルがどこからか持ってきた、と言えば? なんて提案をされたけど、ここにフェンリルが来ているのは村の人達に知られない方がいいので、却下となった。

 デリアさんは仲良くなってくれたけど、フェンリルが村の近くや墓地周辺に来ることがわかったら、村の人達が怖がるかもしれないから。

 そうして、デリアさんを育てたお爺さん……カルヤカトさんのお墓参りは終了した――。



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