第883話 逆襲に成功しました
俺とデリアさんに扇動された子供達は、指揮官ぽいノリで叫ぶ俺達に従って、遠巻きに見て楽しんでいたニコラさんや老人達に向かって駆ける。
何やら、言い訳のような事を言っている気もするが、構わず後ろから鼓舞するように叫んで、子供達に勢いをつける。
デリアさんも、俺達がワタワタしていた時に面白そうにしていたのに気付いていたみたいで、俺達の意思は一つになった……「子供達を任せるだけで、自分達は安全なところから楽しむだけは許されない!」という意思の元、計画は実行された――。
「……やはり、悪は滅びる運命なんだな」
「はぁ……はぁ……! た、タクミ殿、子供達をけしかけておいて、一人で浸るのは酷いのではないですか?」
「いやいや、最初に俺一人に任せたのはニコラさんだからね。ニコラさん以外はお年寄りばかりなんだから、ここで休憩していないで戻らないと。ほーら、子供達相手もきっと鍛錬になるよ?」
なんとか子供達の輪から抜け出して、息を切らせながら抗議するニコラさん。
だが、最初に俺任せにしたのはニコラさんなのだから、こちらは加減する必要はない。
鍛錬という理由を付けて、もう一度子供達の輪へと送り込んでおいた。
「ところで、デリアさん?」
「そこでお爺ちゃんによじ登るのよ! そう、髪の毛を掴めば落ちないわ! って、あ、はい。どうしました、タクミさん」
「いや、お爺さんの髪の毛を掴むのはさすがにやり過ぎだと思う……髪は掴んじゃ駄目だぞー、痛いからな―!」
「うん!」
「髪は大変じゃが、それ以外も止めてくれー!」
さっきの事を今のうちに聞いておこうと思って声をかけると、まだ指揮というか子供達に指示を飛ばしていたデリアさんが、こちらをキョトンとして振り返った。
どうしてタクミさんは、子供達にもっと指示を出さないのか? と言いたそうな表情だけど、そろそろ老人達もニコラさんも懲りたろうから、後は子供達の体力任せだ。
ちなみに、デリアさんが指示を出していた先のお爺さんは、そろそろ髪の毛が残り少ないようなので、子供達に止めを刺させるのはさすがにかわいそうなので止めた。
素直に頷く男の子と、抗議をするお爺さんは向こうに任せておこう。
「デリアさん、さっき俺には相応しい女の子がいるって言っていたけど……」
「あの事ですかぁ。……良かった、思わず言いそうだった方じゃなかった」
「ん?」
「いえいえ、なんでもありません。えっと、タクミさんに相応しいと思ったのは……」
何やら、他に聞かれたくない事がデリアさんにあるらしいが、それはともかく……俺に相応しいとあの時言ったのはリーザの事を考えてだったらしい。
レオと一緒にいる事も含めて、リーザが俺によく懐いている事や、初潮もあって成長もしているので、そう考えたらしかった。
やっぱりクレアの事じゃなかった……どころか、リーザだったかぁ……デリアさんと同じ獣人だから、そちらの方に多くの関心が寄っていたためかもしれない。
ともあれ、血は繋がっていないがリーザは娘のようなものだし、家族だからと言って納得してもらった。
リーザの事は確かに可愛いと思うが、それは父親的な見方で、家族だ。
それに、クレアがいるからなぁ……あちらはいずれはっきりさせないといけないし、考える事が多いな。
ただ、リーザがいずれもっと成長した時、他の男性と……と考えたら、レオを全力でけしかけたくなってしまったりもした……これはエッケンハルトさんとか、フェンあたりならわかってくれるだろうか?
さすがにそんな親バカ的な事は、デリアさんに話したりはしなかったが――。
「……タクミ殿、酷い事をしますね?」
「いやいや、最初に俺を見捨てたのはニコラさんの方でしょ? 俺だけ子供達と遊んで楽しむのは、不公平だと思っただけですよ。それに、デリアさんの様子を見ていた時は、鍛錬がとか言っていたのに……」
「鍛錬と考えたのは、間違いなかったと身をもって体験しました。ただ、子供達の相手は楽しいと言うよりも大変という感想の方が先に出ますね……」
しばらく後、子供達がようやくおとなしくなって老人達と一緒に話をしたり、休憩したりしている頃合いを見計らって、俺をジト目で見ながら抗議して来るニコラさん。
先に距離を取ったのはニコラさんだし、俺はちょっと仕返しのつもりではあったけど、子供達と遊んで楽しむというのは嘘じゃない。
けど、ニコラさんにとっては大変だったみたいだ……リーザやティルラちゃんを始め、以前から子供達の相手をよくしていたから、俺は慣れている方なのかもしれないな。
大体、一緒に遊んだり駆け回っていたのは、レオだったけど。
「でもニコラさん、デリアさんのように子供達を避けられなかった?」
ニコラさんは刀の使い手だし、エッケンハルトさんとの模擬戦を考えれば子供達の突撃くらい、デリアさんみたいに軽々と避けられるんだろうなと思っていた。
刀って、相手と打ち合うよりも素早く動いて避けたりする事が多いから。
「デリアさんは某から見ると、異常と思えるくらい反応が早いのです。それに、子供達の思考が読めません。慣れているデリアさんならともかく、某では受け止めるのが精一杯でしょう」
「そんなものなんだ……」
獣人故か、デリアさんの反応速度……反射神経はかなり鋭いんだな、俺も見ていて確かに凄いと思ったけど。
あとは、子供達と遊び慣れているから、初めてのニコラさんと違ってやりそうな事が読めると言うのもあるのかもしれない。
まぁなんにせよ、ニコラさんには分が悪かったって事か。
「某もまだまだ精進が足りませんなぁ……」
「やっぱり、子供達を相手にして鍛錬する?」
「それは……止めておきます。鍛錬の集中が乱されて、実が入りそうにありませんから」
子供達はセオリーとかは無視で、自由に来るからペースが乱されるんだろうな。
「タクミさーん!」
「どうしたんだい、デリアさん?」
ニコラさんと話していると、子供達と一緒にいたデリアさんが大きな声で俺を呼びながら、近寄ってきた。
俺からもデリアさんの方に向かいながら、何か用があるのかと尋ねる。
「村長からです。用意ができたので、後でタクミさんが滞在している家に向かわせる、らしいです」
「用意が……? なんの用意だろう?」
村長が用意をするような事って、何かあったっけ?
特に俺からは何かをしてくれと、お願いしたりはしていないはずだけど……。
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