第882話 子供達はそれなりに興味を持ち始めるお年頃のようでした



「勉強が終わった後の子供達は、鬱憤を晴らすように全力ですから。成長したのもあって、最近は特に動きも良くなってきていますからね。私も、油断したら尻尾を掴まれそうになるくらいです」

「はぁ、ふぅ……それ、もしかしなくてもデリアさんの尻尾を追いかける事で、体が鍛えられているんじゃ……?」


 眺めていた際にニコラさんも言っていたけど、子供達は連携したり考えて動いてデリアさんの尻尾を掴まえようとしていたからな。

 素早い動きを見極めて、延々と追いかけていたら体も鍛えられるってものだ。

 ……ニコラさんにさすがに鍛錬として考えるのはどうかと思う、と言ってしまったけど、本当に鍛錬として有効なのかもしれない。

 子供達は遊んでいるつもりだから、遊びながら鍛えられるのならいい事……なのかな? 巻き込まれた俺は大変だったけど。


「タクミさん、どうぞ?」

「ありがとう、頂くよ……んぐ……」

「ねぇねぇ、おじちゃん?」

「んぐ……さっきも言ったけど、せめてお兄ちゃんと呼んでくれないかな?」


 ようやく息を整えて、いつの間にかデリアさんが持って来てくれた水を受け取って飲んでいると、子供のうち一人の女の子から声をかけられた。

 さっき遊びながら注意したんだけど、すぐ元に戻っておじちゃん呼ばわりされるとは……俺より年上のデリアさんにはお姉ちゃんなのになぁ。


「うん、お兄ちゃん。ごめんなさい」

「よしよし、わかってくれたらいいんだ」


 声をかけてくれた女の子は、素直に俺の言う事を聞いてくれてお兄ちゃんと呼び直して謝ってくれた。

 うんうん、素直ないい子だ。

 一部、子供達の中にいたずら好きな男の子がいるっぽいから、その子はずっとおじちゃん呼びを止めそうにないけど……。


「それで、どうしたんだい?」

「うーん、お兄ちゃんとデリアお姉ちゃんって、ふうふなの?」

「んなっ!?」

「な、な、な、何を言っているのよ! そんな、私がタクミさんとなんて畏れ多い……」


 女の子は見た感じリーザよりも年下で、まだ少し舌ったらずな喋りをする子で、夫婦というのもなんとなく知っているだけで発音も怪しいくらいだ。

 けど、興味のある年頃……なのかなぁ? さすがにいきなり言われて驚いたけど、女の子の成長は早いって言うし、男女で一緒にいたらそう見えてしまうのかも知れない。

 とはいえ、面と向かって聞かれたのでさすがに驚いたが、俺以上にデリアさんが驚いている様子。

 畏れ多いって……もしかしなくても、レオと一緒にいたからとか、公爵家と関係があるからとかだろうなぁ……。


「私のパパとママもね、お兄ちゃんやデリアお姉ちゃんみたいに仲がいいの! よくママが、疲れたパパにお疲れ様って言っているの。だから、デリアお姉ちゃんたちもそうなのかなって……違うの?」


 自分の両親と似たようなやり取りをしていたから、夫婦だと思ったらしい。

 両親の仲がいいのは微笑ましいが、似ているからと全ての男女が同じとは限らない……どう説明したらいいのか、と考えてふと周囲から視線を感じた。

 見れば、周囲にいる子供達の中で女の子達は、興味があるのが丸わかりな様子でこちらを見ていて、男の子達の一部はなんだかつまらなさそうだ。

 子供達の向こうで、ニコラさんが村の老人達と一緒に、面白そうな表情でこちらを見ていたりもしたので、後で文句を言おうと思う。


「えーと……そうだなぁ……デリアさんとは仲良しだけど、夫婦じゃないんだ」

「そうなの?」


 かわいらしく首を傾げる女の子は、単純に興味や疑問を感じて聞いて来ただけで、悪意は感じられない。

 それこそ、子供達の向こうにいる老人達やニコラさんとは違って。

 ニヤニヤして見られているから、石でも投げてやりたい……ニコラさんに叩き落されるだろうけど。


「そうなのよ。タクミさんには、私なんかよりも相応しい女の子がいるの。その人といる方が、仲良さそうで楽しそうだったのよ?」

「……え?」

「え?」

「どうしたの?」


 デリアさんも、女の子に言い聞かせるように話しかけるんだけど……その内容を聞いて、声を上げて首を傾げてしまった。

 俺の声にこちらを向いて、さらに疑問の声を上げるデリアさんと思わず顔を見合わせる……。

 うーん、デリアさんの言っている女性って、誰の事だろう……クレアの事を言っているのかなと思ったけど、それだと女の子じゃなくて女性って言いそうだし。

 顔を見合わせてしまった俺とデリアさんを見て、質問をした女の子もまた首を傾げる。

 おっと、とりあえずこちらの誤解を解いておかないとな。


「とにかく、俺とデリアさんは夫婦とかではなくて……」

「そうなのよ。タクミさんと夫婦とかではなくて……むしろ飼いぬ……いえいえなんでもありません! とにかく違うのよ?」

「そうなんだー」


 デリアさんが言っていた事は、後でニコラさんや老人達に反撃をする時にでも聞くとして、とりあえず子供達の誤解を解く事にした。

 でもデリアさん、何か変な事を言おうとしませんでしたか?……気のせいだと思っておく事にした。

 納得してくれた女の子は、別の女の子達が集まる方へ戻って行き、そちらでキャイキャイと話し始めた、そちらは興味のあるお年頃な子達が集まっているんだろう。

 あと、男の子グループの方では、あからさまにホッとしている様子の子供が何人か……まぁ、男の子が大人のお姉さんに憧れるっていうのは、どこでもある事だよなぁ。


「さて……なんとか誤解が解けたところで……」

「そうですね……」


 遊ぶ合間の休憩時間だったけど、それももう必要なさそうだと、子供達の様子を見て確認。

 子供達の誤解が解けたので、ホッと一息つく前にまずやらなければいけない事がある……デリアさんと顔を見合せ、頷き合い、意思が通じ合っている事を確かめ合う。

 すぐに子供達を集めて、次なる標的を……いや、罰するべき悪を定めた。


「ほら、あのこちらを見ているだけのおじちゃん達に突撃だ!」

「お爺ちゃんやお婆ちゃん達も、面白そうに見ていたから同罪です!」

「え、ちょ、タクミ殿!?」

「ちょ、ちょ、ちょ、待ってくれ! さすがにワシ達は……!」

「デリアちゃんに、ついにいい人がと思って、微笑ましく見ていただけなのよ!?」

「構わない、行くのだ子供達!」

「全力で遊んでくれるらしいわ!」

「「「「わー!」」」」



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