第881話 元気な子供達がいっぱいいました



「最近は、私の尻尾を狙う子供がいて、ちょっと大変なんですけどね……」


 そう言って苦笑するデリアさんからは、嫌がる雰囲気がなく見えるので、子供達の相手を楽しんでやっているんだろう。

 子供達って、無邪気な代わりに遠慮がないし、尻尾とか気になる何かに対して全力だ。

 レオが小さかった頃、子供達と遊ぶ際に尻尾を触る時は優しくで、ギュッと掴んだりしちゃいけないと、何度も注意したっけなぁ。


「それじゃあ、フィリップさんは無理そうだけど、俺も動けるようになったら様子を見に行くよ。子供達も見ておきたいし……さっきまでいた、村の広場でいいんだよね?」

「はい、お待ちしてます。子供達もきっと喜びますよ!」

「ははは、知らない人が行って、子供達が警戒するかもしれないけど、その時は間に入ってくれると助かるかな?」

「タクミさんなら、すぐに子供達が懐きそうですけど……わかりました、お任せください!」


 さすがにまだ動くのは辛いが、話しているうちにさっきよりは少しだけ楽になって来たし、動けるようになったら子供達にも顔を見せに行こう。

 好奇心旺盛な子供もいる反面、警戒心の強い子だっているだろうから、不審者に思われないようデリアさんに紹介してもらうようお願いする。

 いつもはレオがいるから、そちらに子供達の関心が行って、俺は特に何も警戒されたりしないんだが、今回はいないので仕方ない。


 そうして、子供達の所へ向かうデリアさんを見送った。

 昨夜に引き続きお酒を飲んだ事でさすがに辛いのか、うーうー唸って込み上がる物を我慢しているフィリップさんや、水を汲んできて飲ませたりしているニコラさんの様子を眺める。

 ニコラさんも大変だなぁ……動けない俺が考える事じゃないけど。

 とりあえず、夕食の支度とかはニコラさんが休めるように頑張ろう、当番だし。



「おー、元気がいいなぁ」


 しばらく休んでお腹が落ち着いたので、デリアさんが子供達といる広場へとやってきた。

 フィリップさんは大分落ち着いて一人でも大丈夫そうだったので、ニコラさんと一緒だ。

 広場ではデリアさんが言っていたように、数人の男の子が尻尾を狙っており、それを身軽に避けるデリアさんの追いかけっこが行われていた。

 一人がデリアさんにダッシュで飛び込んで、避けられたのを見計らって別の男の子が、違う方向から駆け込んできたり、そちらを囮にゆっくりと近付く男の子がいたりと、中々連携できているようだ。


 どれもこれも、全てデリアさんが軽々と躱しているんだけども……さすがだ。

 多分、俺なら頑張っても三人目くらいで捕まるだろうなぁ、子供相手だから投げ飛ばすわけにもいかないし、デリアさんのように身軽に動く事もできない。

 ちなみに、他の子供達はそんな様子を見て、外側からデリアさん相手に狙う場所を指示していたり、頑張れーと気軽に声援を送ったりして平和な光景だな。


「ふむ……あれは中々良さそうな鍛錬に見えますな。デリア殿をよく観察し、どう避けるかを推測。そして連携を高めていかに目標を捉えるか……」

「ニコラ、なんでもかんでも鍛錬や訓練と考えるのは、どうかと思うよ?」

「しかし、あれはタクミ殿達が日頃の鍛錬で時折、剣を当てようとしているのに似ています」

「あー、まぁ……言われてみれば似ていなくもない、かな?」


 鍛錬好きと言っていいのか、ニコラさんはデリアさんと子供達の様子を見て、そちらの分析を始めてしまった。

 さすがに子供達が無邪気に遊んでいるだけで、鍛錬とか連携を高めるためだとかではないと思う。

 でも確かに、言われてみればティルラちゃんと一緒に、レオに対して剣を当てられるようにという鍛錬と似ていなくもない、かな。

 協力して相手を追い、とにかく一撃だけでも当てようとする鍛錬と、尻尾を追いかけるのを同じ方向性で考えるのはどうかと思うけど。


「あ!」

「ん? こっちに気付いたみたいだ」

「そのようですが……何故子供達を掴まえているのでしょうか?」


 子供達との追いかけっこを眺めているのに気付いた様子のデリアさん。

 声を上げていたから、すぐにこちらへ向かって来ると思っていたんだけど、なぜか尻尾に向かって来る子供達や、周囲の子供達を掴まえたりして集め始めた。

 何をするつもりだろうか? なんとなく、嫌な予感というがする気がするけど……。


「ほら皆、あのお兄さんに突撃ー!」

「わー、おじちゃん!」

「おじちゃんに突撃だー!」

「「「わー!」」」」

「え、ちょ……」

「タクミ殿、ここは任せました……私は離れて周囲の警戒を。護衛の仕事が優先なので」

「ちょっとニコラさ……あー!」


 集めた子供達と視線を合わせた後、俺の方に向かって手をかざし指示を出したデリアさん。

 十人程いる子供達は、それぞれが声を上げながらこちらへ全力で走り始めた……デリアさんが言っていたはずなのに、おじちゃんになっているのが少し気になる所ではあるけど、今は訂正している場合じゃない。

 さすがに全員の突撃を受けたらひとたまりもないと、助けを求めるためにニコラさんの方へ視線を向けたが、スッと後ろに下がって子供達から距離を取った。

 護衛や周囲の警戒って……ブレイユ村で気を付ける必要はほぼないだろうし、逃げるための方便ですよね……?


 ニコラさんに追いすがろうとするも、すぐに子供達が俺に群がって飛びついたり、足に抱き着いて捕まえたりと、身動きが取れなくなった。

 そのまま、俺はデリアさんに巻き込まれる形で、子供達との遊びに強制的に参加させられてしまった。

 ……フィリップさんがいればなぁ……ニコラさん、この恨みは忘れませんからね。



「はぁ……はぁ……ふぅ」

「お疲れ様です、タクミさん」

「はぁ……子供達は本当に体力が尽きないんじゃないかってくらい、元気だ。ふぅ……」


 乱れた呼吸を整えながら、デリアさんに労われるのに応える。

 ティルラちゃんやリーザの他に、この世界に来る前にも子供達とレオを遊ばせたりもしていたから、知っていた事ではあるけど……やっぱりあの勢いと体力は凄い。

 子供達とは、デリアさんとは違うけど追いかけっこをしたり、なぜか順番待ちになった高く持ち上げるとか、終始全力で動かされた。

 無限の体力ってわけじゃないだろうけど、ずっと元気だった子供達に振り回されっぱなしだったな……これ、鍛錬していなかったらもっと酷い事になっていたと思う――。



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