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第858話 護衛としての勘というのがあるようでした
第858話 護衛としての勘というのがあるようでした
「俺はどれくらいの頻度で魔物に遭遇するか、とかはわかりませんけど……」
「ブレイユ村へは、私も初めて行くので確かな事は言えないんですが、一度くらいは遭遇してもおかしくないはず……というより、ほら……この辺りって、あまり道らしい道がないじゃないですか?」
「……そうですね、確かに道と言えるようなのはほぼないように見えます」
フィリップさんに言われて、移動しながらだけど地面を見てみると、多少踏み固められている様子は見られはするが、日常的に誰かが通っているような形跡は見られないように思う。
草が一面に生えているから、馬だけでなく人や荷車などが通れば踏まれて形跡が残ると思うんだけど……。
「ブレイユ村へ行くのが初めてなので、わかりやすい移動をしているんですよ。だから、本来この辺りはブレイユ村の人も通らない場所になるかと」
「あぁ、だからですか……」
ラクトスから出発し、街道を東へ進んで途中で直角に折れる形で南下しているんだけど、最短で行こうとするなら途中で斜めに……南東へ移動した方が早い。
というより、村とラクトスを行き来している人達は、そちらを通っているんだろう。
今俺達がいる場所を通るのは、ブレイユ村へ行くのに慣れていない人くらいしか通らない道となるわけだ。
「人が通らないので、魔物が棲み付きやすい場所とも言えますね。領内を巡回している兵士も、この辺りはほぼ通らないでしょうし……通常人が通る場所を重点的に見ますから」
「なのに、魔物がいないと……偶然という事は?」
「もちろん偶然というのもあり得ます。偶然、この辺りには魔物が棲み付かなかった。偶然、誰か他の人や兵士が通りがかって、ここらにいた魔物を倒した……とかですかね」
「じゃあ、もしかしたら偶然魔物がいないだけ、かもしれませんね」
当然ながら、人が通らない場所には絶対魔物がいるわけではないし、森よりも数は少ない。
だから偶然魔物と遭遇しない時だってあるし、逆に多くの魔物と遭遇する事だってある……という事なんだろうと思う。
「んー……やっぱり気のせいか?」
「何か、気になる事でもあるんですか?」
「なんて言えばいいのか……護衛の時に訓練で、魔物がいる形跡などを調べて学ぶんですよ。護衛をする際に警戒するのは人だけでなく魔物もですから。もし魔物がいるとして、早く見つけた方が対処しやすいんです」
「向こうが気付かず、こちらが先に気付けば逃げる事もできますからね」
護衛している公爵家の人が、魔物に襲われる事を警戒するのは当然の事だろう。
こちらから積極的に魔物を探し出して……と言う事はほとんどないかもしれないが、移動中に魔物に襲われる危険もあるからな。
先に魔物を見つけた方が、色々と有利になるのもわかる。
「その時に旦那様からみっちり教育されたおかげか、なんとなく気配というか、雰囲気のようなものを感じたりするんです。まぁ、経験から来る勘に近いのでしょうけど。はっきりしたものではなく、確実なものとも言えませんが」
「つまり、その勘ではこの辺りに魔物がいる、と?」
「なんとなく、そう感じる程度なんですけどね。いえ、実際にいないので、魔物がいたかもしれない気がする……としましょうか」
「それじゃ、何かの理由でいなくなったって事なんでしょうかね?」
「まぁ、ここまで遭遇していないですし、見渡す限りは他に動く生き物もいないので、そういう事なんだと思います」
嫌な予感……とはちょっと違うか。
これまでの経験や訓練で、なんとなく魔物がいる、もしくはいたというのが感覚的にわかるんだろう。
フィリップさんが言っているように、確実なものじゃないので、もしかしたら勘違いという事もあるんだろうけど。
ともあれ、魔物と会わずに平和に移動できるのはいい事なので、首を傾げながらも楽な護衛だ……なんて漏らしてもいた。
その後の馬を休ませる際に、ニコラさんもフィリップさんと同じように首を傾げていたので、護衛さん達にだけわかる感覚なんだろう。
まぁ、俺は魔物がいるかどうかとか、形跡を調べるような訓練をしていないから仕方ない――。
「ここらは、街道付近より土が柔らかいですね」
「おかげでやりやすかったです」
休憩を挟みながら、馬で移動する事しばらく……日が沈んできたので、完全に暗くなる前に野営の準備を始める。
暗くなってからだと、準備に手間取ったりもするからな。
街道付近と違って、この辺りは草花が多くあるおかげで土が少し和らかい……とは言っても、耕しているわけではないので手慣れない俺では杭を打つのも一苦労だったけど。
ともあれ、昨日と同じように馬の世話をしながら、枝葉を拾うフィリップさんとは別に、ニコラさんとテントの設営。
「枯れた草はあるのでなんとかなると思いますけど、木が少ないので少し枝が心許ないですね……ある程度薪を持って来ていて正解でした」
「まぁ、明日には村に到着できるので、帰る際には村で分けでもらいましょう」
「焚き火がないと、食事も寂しくなりますからね……」
昨日野営した場所は数本の木があったけど、今日の野営場所は木が一本立っているだけで、目印にはなりそうだけど、落ちた枝葉は少ないようだ。
まぁ、何かの拍子に枝が折れたりおられたりする事はあるだろうけど、木だって焚き火に使われるために枝を生やしているわけじゃないしな。
木の枝を折って焚き火にするのもできなくはないが、乾燥していないため煙が多く発生してしまうし火が付きにくいので使わない……どうしても困った時とか、のろしを上げる時とかなら別だろうけど。
「さて……それじゃ昨日のニコラの講義を実践してみましょうか、タクミ様?」
「え、俺ですか?」
「レオ様がいれば必要ないのでしょうけど、焚き火に火をつけるくらいは、できていて損はないですよ?」
「そうですね……わかりました」
持って来ていた残りの薪と、拾った枯葉や少ない枝を組んだところで、フィリップさんから火を付けるように言われる。
昨日ニコラさんから教えてもらって、試してみたいとは思っていたけど、こんなにすぐ使う機会が来るとは……まだ使えると決まったわけじゃないけど――。
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