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第837話 男同士の雑談を楽しみました
第837話 男同士の雑談を楽しみました
「何を仰りますか、タクミ様。タクミ様やクレアお嬢様とラクトスへ行く時は、護衛でしたから。女性を侍らすわけにはいかないでしょう?」
「まぁ、そうかもしれませんけど……」
護衛をしている最中に、女性へ現を抜かすようであれば護衛兵士長にはなれないか。
でも、本当にフィリップさんの言う通り、両手で足りないくらいの女性がいるのなら、ラクトスへ行った時にもう少し何かあってもおかしくないと思うんだけどなぁ。
それこそ、フィリップさんに惚れた女性からの視線とか、話しかけられたりとか……まぁ、クレアがいたりセバスチャンさんもいたりして、気安く近付く事はできないのかもしれないし、俺がフィリップさんに向けられた視線に気付けはしないだろうが。
あと、レオが目立つからフィリップさんに意識が行く事は少ないか。
「タクミ様、騙されてはいけません。フィリップ殿は昔から、自分は女性にもてはやされていると勘違いされているのです。孤児院にいる時からそうでした」
「そうなんですか、ニコラさん?」
「な、何を言っているんだニコラ。そりゃ、孤児院にいた頃はまだ幼かったからだろ。旦那様に見出されて護衛として訓練を始めてからは、そりゃ引く手数多なんだぞ?」
「……旦那様の所へ行ったのは、フィリップ殿の方が先なので孤児院を出てからは詳しくありませんが……どうにも怪しいと、某は考えております」
注意するように言うニコラさんに、少し焦りを見せながら否定するフィリップさん。
俺が見る限りだと、女性からの評判がいいだろう要素を持っていて、フィリップさんの言葉を信じたいけど……同じ孤児院で幼少期を共に過ごしたニコラさんの言葉に、嘘は感じられない。
成長してから、離れている時期が多かったみたいだけど、それでもなぁ……あと、ランジ村での事や、時折不憫な目に遭う様子を見ていたら、残念な二枚目……というより三枚目のような印象を受ける。
「これは、一緒に護衛として働いているヨハンナさんにでも、聞いた方がいいかもしれません……」
「ちょちょちょ、タクミ様! それだけはやめて下さい! ヨハンナは、護衛としての腕はいいのですが、クレアお嬢様至上主義なので男の事を良く言うわけがありません! それこそ、男は全てクレアお嬢様に近付く害虫のようにすら思っていますから」
「え、でも俺はそんな扱いを受けた事はありませんけど……?」
ヨハンナさんからは、特にぞんざいな扱いを受けた事もなく、基本的に丁寧に接してもらっている。
ランジ村へ行く時の馬車内で、クレアやヨハンナさんと同乗した際にも、むしろクレアの事を色々話してくれたくらいだから。
確かにクレアの事を大事に思っているのは伝わって来るけど、フィリップさんの言うような見方で男を見ているとは思えない。
「ヨハンナ殿に関しては、某もフィリップ殿に同意します。タクミ様に丁寧に接しているのは、お客様である事とレオ様がいる事が関係しているのかと」
「ニコラ、言っている事はもっともだがそれだけじゃないぞ? ――旦那様もそうですけど、クレアお嬢様も認めて仲睦まじく過ごしているからでしょうね。クレアお嬢様を助けた事もあるからかと」
「仲睦まじくって……良くしてもらっていますし、仲が悪いわけじゃありませんけど、それはちょっと言い方が間違っていると思います、フィリップさん」
「いえいえ、タクミ様とクレアお嬢様は、もはや屋敷内ではいずれ二人で……と評判ですよ? そう言えば、ランジ村にも一緒に住むのでしたか……どれくらいまで進展したんですか?」
「進展も何も……」
自分の話から逸れる好機と見たのか、フィリップさんが露骨にクレアの事を引き合いに出して、質問攻めをされる。
それからしばらく、フィリップさんにからかわれながら、興味なさそうに湯飲みでお茶を飲むニコラさんと話して過ごした。
女性同士で話に花を咲かせる事があるのは知っているけど、男同士でも結構話が弾むもんだな……大体は、本題と違う話に逸れてしまう事が大半だけども。
「ワフゥ……」
隣で聞いていたレオから、溜め息が聞こえた気がしたが、フィリップさん達との話に集中するフリをして、聞かなかった事にした。
レオにとっては、男同士のどうでもいい雑談なんて、興味ないよなぁ……。
そう言えば、結局フィリップさんが女性にモテるのかどうかを確かめられなかったが、どうせブレイユ村へ一緒に行くんだから、その時に余裕を見て聞いてみよう。
なんとなく、答えは予想できるような気がするけど――。
「さて、明日にはブレイユ村に向けて出発するわけだけど、リーザもレオも準備はできているよな……って、一緒に準備したから聞くまでもないか」
「うん! パパやママに、ライラお姉さん達と一緒だったから、大丈夫!」
「ワフ!」
フィリップさん達との雑談……もとい、打ち合わせも終えて夕食や夜の素振りも終わらせ、後は明日に備えて寝るだけと部屋に戻ってから、リーザやレオに確認。
荷物が多くないのもあるけど、一緒に準備したので大丈夫なのはわかっているけど、ちょっとした遠足気分みたいなものだ。
まぁ、レオの方は特に準備も何もないんだけどな……着替えとか必要じゃないし。
「レオ、まだブレイユ村の近くまで一緒だけど、俺がいない間はリーザの事を頼んだぞ? もちろん、屋敷の事というか、シェリーの事もな」
「ワウー!」
リーザと出会ってから、一日以上離れていた事は今までにないが、レオに任せていれば大丈夫だろう。
俺が声をかけて、任せろと頷くレオは頼もしい……むしろ、俺よりちゃんとリーザの面倒を見てくれそうな雰囲気すらある。
シェリーに関しては牙の生え変わり時期なのもあって、いつもより少しだけ注意して見てもらうようにお願いする。
昨日今日と続けて牙が抜け、新しい牙が覗いているみたいだし、噛む用の木材や布ボールも十分に用意されているみたいだから大丈夫だろうけど、一応な。
ちなみに、抜けた牙はクレアがシェリーの成長記念にと、大事に保管するそうだ。
日本だと子供の乳歯が抜けたら、屋根の上に投げるという風習があったりするけど、あれは人間の事だしここではその考えはないみたいだ。
むしろ、一族や血筋を大事にする所では、その子供の抜けた歯を保存しておくという逆のような習わしがあるのだとか。
歯に関する事はちょっと特殊だけど、こういった習わしとかも全然知らないので、ブレイユ村に行って少しくらいは知る事ができたらいいなと思う――。
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