第831話 提案された案に乗る事にしました



「いえいえ、嘘ではございませんよ。あの時、デリアさんが盗人を捕まえなければ、向かって来ていたのはタクミ様やクレアお嬢様がいたこちら側でしたからね。もしかしたら、ぶつかって怪我をしたかもしれません。……フィリップさん達がいましたし、レオ様もいらっしゃったのでそのような事にはならないでしょうけど、もしかしたらそうなっていた……という想像はできますからな」

「……まぁ、確かに。俺達が拘わろうとせず、避ける事もできたでしょうけど、動かずにジッとしていたらぶつかってたかもしれません」


 あの時、俺達がいる所へ向かって男は走って来ていたから、ぼーっとしていたらぶつかっていた可能性はある。

 とはいえ、走っていた男は逃げているのだから、当然足止めされるわけにはいかないので避けるだろうし、俺達もぶつかるのは嫌なので避けるだろうが……そういったもしもは想像できる。

 ……これが、嘘も方便……いや、嘘ではないというセバスチャンさんの主張に従うなら、物は言いよう……という事だろうな。


「では、それでよろしいですかな?」

「はい。ありがとうございます、セバスチャンさんに相談したおかげで方法が見つかりました」

「私は、考えられる意見を提案しただけですよ。では、出発はいつ頃になさいますか? 今日や明日は……連絡をするので少々難しいでしょうけど……」


 俺の一般的な暮らし体験と、見学を実施する先がブレイユ村へと決まり、思いついたが吉日とばかりに出発日を決めようとするセバスチャンさん。

 こういう話で行動力を示すのはクレアかと思っていたんだが、セバスチャンさんもだったか……。

 とりあえず、連絡をする時間も必要だし、準備をする必要だってある。

 クレアにも話しておかないといけないし、レオやリーザにも話をしないといけないから、数日後にとだけ決めて話を終えた。

 ……相談して行き先を決められるかどうかくらいかな? と思っていたから、まだ何も話していないからなぁ。



「ワフ、ワフー」

「パパとママと一緒ー!」


 昼食後、クレアへの説明はセバスチャンさんに任せて、一旦部屋に戻ってからレオやリーザにブレイユ村に行く事を説明。

 レオはランジ村に行く時のように、俺を乗せて走るつもりらしく、すでに尻尾を振って今にも走り出したそうにしている。

 リーザは、一緒にどこかに行けると考えたのか、手を上げて喜んでいる……どんな事をするかはよくわかっていなくても、俺やレオと一緒にいられるのが嬉しいんだろう。

 だが、レオもリーザも喜んでいるところ悪いんだが……。


「いやレオ、今回は留守番をお願いしたいんだが……」

「ワウ!?」

「ママ、お留守番なの?」


 喜んでいるのに水を差すのは悪いが、レオは一緒にブレイユ村に行けない事を伝える。

 そんな!? と言うように鳴いて目を見開き、俺を見るレオ……口も開けて驚くのは中々面白いが、今は笑っている場合じゃないな、説明しないと。


「レオが行くと、シルバーフェンリルの事を説明しないといけないだろ? デリアさんを拾った時にフェンリルとの拘わりがあったりもしたみたいだし、説明しないわけにもいかない」


 随分前の事になるけど、フェンリルを見たもしくは、話しを伝え聞いている人がほとんどだろう。

 そんな村にレオを連れて行ったら、恐れられるとかはともかく、シルバーフェンリルの事を説明しないといけないからなぁ……そうなると、公爵家の拘わりを伏せていても、ランジ村と似たり寄ったりな事になってしまいかねない。

 場合によっては警戒したり、怪しんだりされて普段の暮らしが見られなくなってしまうからな。


「ママは、一緒じゃないの?」

「そうだなぁ……村の近くとかまでなら、大丈夫だろうけど……村の中はな。あと、リーザも同じくレオと一緒に留守番だぞ?」

「そうなの!?」


 レオが行けなくても、自分は行けると考えていたリーザも、口と目を開いて驚く……結構反応が似てきたなぁ。

 リーザを連れて行かないのは一目見て獣人だとわかるからで、一応耳や尻尾を隠す事もできるが、デリアさんを育てた村だから何かの拍子にバレかねない。

 獣人の女の子を連れているとわかれば、それはそれで要らぬ詮索を招いてしまったりもしそうだからなぁ……デリアさんがいるから、変な目で見たり差別したりはしないだろうけど。

 結局、あまりこちらの事を気にせず普段の生活を見るためには、俺一人で行くのが一番いいという結論だ。


「ワフ、ワフワフ!」

「え、それでもいいのか、レオ?」

「ワウー!」

「うーん……まぁ、それならなんとか……かな?」


 俺と離れるのが嫌だからなのか、村に行くまでは乗せて走ると主張するレオ。

 まぁ、村に入らずに近くまで行って引き返せば大丈夫だろうけど、レオはそうしたいと言っている。

 留守番させてレオの事を構えない代わりに、できるだけ一緒にいるためと考えれば、悪くないか……それなら、リーザもギリギリまで一緒にいられるだろうからしな。


「とりあえずセバスチャンさんとまた相談してみるけど、それじゃあレオとリーザは村の近くまでで、そこから引き返して、俺だけブレイユ村へ……でいいな?」 

「……ワフ」

「うん……パパと一緒に行けないのは残念だけど、できるだけ一緒にいる」

「ごめんな……俺の我が儘で。戻って来たら、いっぱい一緒に遊んでやるから」


 やっぱり、強引に我が儘を通そうとすると、レオやリーザに我慢をさせてしまうなぁ。

 もうセバスチャンさんに相談して、ブレイユ村へ行く方向で動いてくれているので、今さらやっぱりやめた、というのは我が儘が過ぎるのでできないが……もう少し、レオやリーザも何かしら楽しめるように考えるべきだったと反省。

 戻って来たら、満足するまで一緒に遊んでやろうと決めた。


「……でもレオ、俺を降ろした後リーザを乗せて、ちゃんと屋敷まで帰れるのか?」

「ワフ? ワフワフ!」


 ふと、ブライユ村までの道のりはちゃんと覚えて行くのは当然だが、レオが覚えてちゃんと帰る事ができるのかが心配になった。

 聞いてみると、レオは自信満々で頷いたが……まぁ、なんとかなるか。

 その辺りも、もう一度セバスチャンさんと打ち合わせしておいた方がいいかもしれないな……場合によっては、誰か一人護衛さんとかを借りて、道案内してもらうとかでも良さそうだ――。



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