第819話 雇用者について考えました



 セバスチャンさんが呟いた言葉に同意し、馬よりも長距離を走る事ができそうな事を確認……というか、もしかしなくてもフェリー達って、森までノンストップとかだったりするんだろうか?

 だとしたら、相当な体力があると見て間違いないが、今度来たら確認してみよう。

 それとクレアも言っているように、無理をさせるのは良くないが、フェリー達は喜んで走ってくれそうだ……ハンバーグの用意はしないといけないだろうけど。


 というか、犬とか狼って瞬発力は相当なもので、加速力もあるから短距離はかなり早いのはわかるんだけど……体力は馬の方があるんじゃなかったか?

 まぁ、フェンリルは魔物だし魔法も使える。

 さらに言えば、レオのようなシルバーフェンリルもランジ村までの長距離を、疲れる事なく走っていたんだから、今更な考えと言えば、今更だけどな――。



「さてさて、フェンリルの話も重要だけど……俺は俺でやる事をやらないとな……」

「ワフ?」

「パパ、いつもの?」


 フェリー達を見送った後、昼間の鍛錬を取り戻すために素振りに集中……とは言っても、さすがに無理をしない程度ではあるが。

 ティルラちゃんは、いつにも増して集中して必死にこなしていたのは、ラーレが見守っていてくれたおかげか、それともフェリーに乗って楽しんだからか。

 集中して取り組んだ素振りを終えて、汗を流して部屋へ戻った後は、俺自身がやるべき事をこなす。

 ここ数日、面談であった人のメモや、屋敷の使用人さん達も含めての雇用者リストと睨めっこをしていたりする。


「あぁ、すまないけど、リーザはレオと一緒にいてくれるか?」

「うん、わかったー。ママー」

「ワウー」


 椅子に座って机に向かう俺と、邪魔しないようにベッドの方へ行くリーザとレオ。

 今すぐ決めないといけない、という程期日が迫っているわけではないんだが、それでも色々と動き出しているのでちゃんと考えて決めておかないといけない。

 フェリー達が帰った後、セバスチャンさんからランジ村に向けて、建築のための資材が輸送されていて、ラクトスから派遣して家を作る土台造りも開始されていると報告されたからな。

 土台造りは基礎工事のようなものらしく、川から水道も引き終わって、本格的に家造りが始まったようだ。


 まぁ、その際に魔法具を使っての上下水道の仕組みだとか、使用後の水は魔法具で綺麗にして……なんて説明されかけたが、長くなりそうだったので素振りをしなきゃと逃げたのは、ここだけの話。

 セバスチャンさん、落ち込んでなければいいけど……まぁ、また何か説明してもらえば元気になるだろうと思う。


「うーん……やっぱりクレアと同じ考えは、中々難しいな……」


 クレアは人の上に立つ人物として生まれて来たから、そういった方面の教育はされている。

 だけど俺は、人を雇うと言った経験すら初めてだから、どういう基準で選ぶのか手探りだ……一応、ラクトスから戻る時に話したクレアの意見を参考にしてはいるけど、さすがに同じように考える事はできそうにない。


「とりあえず、働く意欲はあるようだし……結婚とかにも積極的なら、今後にも繋がるだろうから、この人は雇う事にしよう。えっと、九番は……コリントさんか」


 コリントさんは、質問で俺だけでなくセバスチャンさんすらも驚かせた、ある意味逸材。

 話している限りでは、しっかり働いてくれそうだったし、ランジ村でいい男を探して結婚したいとも言っていたから、村にも定着してくれそうだし、上手くいけばランジ村で家庭を築いてくれる可能性が高い。

 あと、クレアから見込みがあるような事も言われたからな。


「他には……この人とこの人は、肉体労働はあまり向かなそうだから、管理側に回ってもらおう。えっと、三番のフォイゲさん。それから、十七番のアノールさん、だな」


 フォイゲさんは見た目が細身だったのと、頭が切れる印象だ。

 質問内容は、勤務日数に関する事だったが、人を雇ったり部下を持った事がありそうだったので、雇った人達をある程度管理する仕事をしてもらおう。

 まぁ、バイトリーダーに近いかな……正規雇用だけど。

 もちろん、一人に任せるんじゃなくて、他の人と一緒にやってもらう予定だ。


 アノールさんは、ランジ村だけで薬草を行き渡らせる事ができるのか、という質問をした人だな。

 この人は、ある程度村や街、人口なんかも正確ではなくともなんとなく把握していそうだし、計算もできそうだから、事務的な事をしてもらおう。

 本邸から来るという、俺の執事さんの補佐的な役目でもあるかな……まぁ、執事さんが総務なら、この人は経理補佐と言ったところか……もちろんそれだけの専門にするかは、実際に動き出してからだけど。


 この二人は両方男性で、現状俺が見た際の印象とメモや、履歴書代わりのリストを参考にしているから、実際に雇った時に上手くいかないようであれば、配置転換も考えている……上手く適材適所を宛がう事ができればいいけど……。


「次に……この人は、土とか農作業に関してそれなりの知識がありそう……というよりあるのか。ふむふむ……よし、この四番、ウラという人も雇う事にしよう」


 ウラさんは一番最初に質問をしてきた、薬草が根付くかどうかを疑問に思っていた女性だな。

 リストの方を見てみると、元々農家生まれで手伝いに農作業をやっていたようだ。

 少し前に、兄夫婦がその農地を親から継いだ事と、自分は別の場所で新しい農作業をしてみたいと考えて、薬草畑に興味を持った……と書かれている。

 他にも農業に詳しい人も欲しいけど、この人なら作業に慣れている部分もあるだろうから、即戦力になってくれるだろう。


「他には……あぁ、ゲルダさんに言うのを忘れていたなぁ……いかんいかん」

「ゲルダお姉ちゃんがどうかしたの?」


 ライラさんには既に話をして雇う事が決まっていたけど、セバスチャンさんに注意された事もあって、機会を窺っていたら忘れていた……というと、ゲルダさんに失礼だけど。

 ともあれ、俺の呟いた言葉というより、ゲルダさんの名前にリーザが反応する。


「うん? いや、ゲルダさんも一緒にランジ村に来てもらおうと思っているんだけど、まだ言っていなかったなって思い出したんだ」

「ゲルダお姉ちゃんも一緒ー。ライラお姉さんも一緒だし、皆一緒ー」

「ワウワフー」

「そうだな、皆一緒だな……」



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