第802話 姉妹は仲直りをしました



「……ワフ」

「……ほら、レオ?」

「ママー!」

「ワウー!」


 リーザは俺に駆け寄って抱き着き、シェリーはティルラちゃんに抱き着いた……というより、飛びかかったようにも見えるけど、なんとかキャッチしている。

 レオの方には誰も行かなかったからか、ちょっと残念そうな声が聞こえたので、リーザを抱えたままレオの前に降ろしてやるとすぐに鼻を近付けてじゃれ合い始めた。


「……ティルラ? その……」

「姉様……えっと……」


 リーザとレオはそのままじゃれ合わせておくとして、問題の二人……クレアとティルラちゃんは向き合ったまま気まずそうにしている様子。

 姉妹だからというのもあるんだろう、お互い謝るのは何やら気恥ずかしいというか、慣れないみたいだ。

 ちょっとしたきっかけが必要かな? と思っていたら、俺達が裏庭に来た時はラーレの所にいたセバスチャンさんが、ゆらりとクレアの後ろに姿を現した……いつの間に……。


「クレアお嬢様は、ティルラお嬢様に嫌われたかもと落ち込んでおりましてな。先程まで、シェリーとリーザ様を撫でて自分を慰めておられたのですよ」

「……あれにはそんな理由が」


 だから、なんとなく現実逃避している感じがしたのか。

 俺がティルラちゃんの所に向かうまでは、結構落ち着いていたのに……時間が経って、後ろ向きな考えになってしまったのかもしれない。


「せ、セバスチャン!?」

「ほっほっほ。謝ったら許してくれるか、一緒に遊べば嫌われないですむか……と仰っておられましたらな。結局は、レオ様やラーレと遊ぶ方が好きだろうからと、諦めておいででしたが……こういう事は、隠さず伝えた方が良い方向にいくものです」

「……そ、そんな事……言ってない……とは言えないけど……さすがに全部話すのは恥ずかしいわ!」


 セバスチャンさん、さらにクレアへ追い打ち。

 本当に俺やティルラちゃんがいない間のクレアがどうしていたか、伝えるのが正しいかどうかわからないが……セバスチャンさんが楽しんでいるのは間違いないな。

 とりあえず、これ以上からかわれないように、二人に話をしてもらった方が良さそうだ。


「んんっ! ほら、クレア。ティルラちゃんも」

「……はい」

「わかりました……」


 楽しそうなセバスチャンさんは放っておいて、クレアとティルラちゃんの間に立ち、二人を促すように声をかける。

 これで、ようやくきっかけにはれたかなと思う……セバスチャンさんは俺が動き出してすぐに、またラーレの方へスッと体を向けて歩いて行ったので、さすが執事なだけあって気遣いができる。

 なんて一瞬考えたが、場をかき乱しかけたのもセバスチャンさんなので、心の中で褒めるのはやめておこう……全てわかっていて、きっかけを作ろうとしたのかもしれないけど。


「ティルラ……ごめんなさい。ティルラの考えている事を、よく聞きもせずに否定をしてしまっていたわ」

「姉様、私もです。姉様の考えている事や言われた事をよく考えず、嫌だと我が儘を言っていました。姉様と相談するべきなのにそれもせず、自分一人で考えるばかりでした……ごめんなさい」

「そうね……私もそうだけど、ティルラも……お互い、向き合って話をするという事は、今までほとんどなかったものね。これからは、私の考えを押し付けるのではなく、ちゃんとティルラの考えも聞くようにするわ」

「はい! 私も、姉様がどう考えて言っているのかをちゃんと考えて、一人で考え込まずに、相談するようにします!」


 お互いが謝り、お互いに頭を下げる。

 二人共反省して、これからはちゃんと話し合うようにするみたいだし、これで大丈夫そうだな。

 なんとなく、結構な遠回りをしてしまったように思うけど、血の繋がった家族というのは、得てしてややこしくなってしまう事が多いのかもしれない。

 エッケンハルトさんがお見合い話を持って来ていた事もそうだけど、ちゃんとお互い向き合って話していれば簡単に解決できそうなのにと、傍から見ていて思ったりもするが……家族だから大丈夫という安心感から、遠回りする事になるのかもな。


「よし、これで二人共仲直りだ。ほら、握手握手!」


 何はともあれ、仲直りの印と二人の手を取って、握手をさせる。


「ちょ、タクミさん?」

「タクミさん、強引です。でも、ありがとうございます」

「ティルラ……そうね。ありがとうございます、タクミさん。ふふふ、こうやってティルラと手を繋いだのも、いつぶりかしら? 小さい頃は、よく手を繋いでいたのにね……」

「姉様、放っておくとどこかへ走り出しそうでしたから。私から手を繋いで離さないようにしていました!」


 いきなり握手をさせられて、戸惑う二人だけどそこは仲直りをした姉妹だ……俺にお礼を言った後は、すぐにお互い仲良く話し始めた。

 ティルラちゃんが言う、どこかへ走り出しそうというのは、二人の母親が亡くなって淑女になると決意したはいいが、何をどうすればいいかわからず、やっきになっていたとかなのかもしれない。

 新たなクレアの一面を知れて、ちょっと得した気分。


「まぁ、そんな事を考えていたの?……確かにあの頃はまだ、どうしたらお母様のようになれるのかとか、色々考えて無茶な行動をしていたように思うから、仕方ないのかもしれないわね。でもティルラ? 私はいつまででも貴女の姉なの。勝手にどこかへ行ったり、ティルラをずっと放っておくなんて事はしないわ」

「はい、タクミさんにも言われました。姉様もタクミさんも、レオ様やリーザちゃんも、ラーレも……私は、皆から放っておかれたりはしません!」

「ワフ!」

「キィー」

「「ピ、ピィ?」」


 仲直りをした後は、きずなを確かめ合うように微笑み合い、ティルラちゃんも安心したように言い切った。

 ただ、そこで俺に言われたとか言ったら、ちょっと恥ずかしい気もするが……皆笑っているからよしとしよう。

 レオやラーレもティルラちゃんの言葉が聞こえたんだろう、同意するように大きめに鳴いて、俺やライラさん、セバスチャンさんも朗らかに頷いた。

 コカトリスの子供達だけは、よく状況がわからずにいたみたいだけど……そりゃまぁ、連れて来られたと思ったら言い合いが始まり、すぐに大団円な雰囲気を見せられて、どういう事かわからないのも当然だろうな――。



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