第767話 改めてデリアさんを紹介しました



「それじゃあ、リーザちゃん……とお呼びしてもよろしいんでしょうか?」

「うん、それでお願い。レオの方も……」

「い、いえ! それはさすがに畏れ多いです!!」

「うーん、これはまぁ仕方ないか……」


 リーザの呼び方が決まり、レオの方も様を付けずに……とお願いしようと思ったら、慌てて否定された。

 獣人にとっても特別みたいだから、こっちは仕方ないか。

 レオ自身は、別に様を付けて呼ばれるかどうかなんて、気にしてなさそうなんだけどな。


「レオ様を目の前にして、呼び捨てにできるのはタクミさんだけです……」

「そうですな。恐怖、とはまた違いますが、やはり圧倒されますから」

「っ! っ!」


 クレアが呟き、それにセバスチャンさんが同意して、デリアさんもコクコク頷いている。

 見れば、カレスさんやライラさんも頷いていた……確かに体が大きいし、見事な銀毛で恰好良さだけでなく勇ましさを感じたりもするから、そういうものか。

 ともあれ、デリアさんの事情やリーザの事などを話し終え、もうしばらくリーザと仲良くなるための話相手になってくれる事が決まった。

 宿代云々の部分は流れてしまった風ではあるけど、後でこっそり渡しておこう……とりあえず、店の外に出る前にセバスチャンさんにコッソリ、宿代を調べてもらうようお願いしておいた――。



 デリアさんとの話を終え、カレスさんの店を出る途中でもう一度ニックを見かける。

 エッケンハルトさんのように迫力があるわけではないけど、十分に人相が悪いのにも拘わらず、お客さんが物怖じしている様子はなさそうだな、良かった。

 スキンヘッドだとか、人相が悪い以前にカレスさんの店に対する信頼、とかもあるのかもしれないけど。


「……い、行きます!」

「落ち着いて、デリアさん。レオが襲ってきたりはしないから、あまり身構えなくてもいいから」

「は、はい!」


 店を出る直前、これからまたレオに会うと考えて躊躇するデリアさん。

 あまり効果はないかもしれないが、一応落ち着くように言っておく……さっきよりは、大丈夫そうかな?

 俺の言葉に頷いたデリアさんは、勢いをつけるようにカレスさんによってあけられている扉を抜けて、外へ出た。


「ワフ? ワウー!」

「あ、パパだー!」

「レオ、リーザ。ちょっと落ち着いて。――さ、デリアさん?」

「は、初めまして……というのもちょっと変かもしれませんね、さっき会っているので。えーと……とにかく、デリアです! 獣人ですが、よろしくお願いします!」

「ワフ!」

「デリアお姉ちゃんだね、リーザはリーザ、よろしくー!」


 デリアさんと外へ出ると、俺達に気付いたレオとリーザが囲まれている子供達の間から出て来る。

 さっき飛び越えて来たのとは違ってゆっくりなのは、デリアさんを驚かせないというレオなりの気遣いだろうか?

 リーザはレオには乗っておらず、俺の所へと駆けて来たので受け止めておく……レオもそうだが、勢いよく尻尾が振られていて、デリアさんと対照的だ。

 レオの尻尾は子供達と遊ぶために振られているわけではないけど、何人かの子供が捕まえようと左右に動いていたりするが、そもそも尻尾に手が届いていないので掴まえる事はできないだろう。


 子供達はそのままでいいとして、レオとリーザに落ち着くように言った後デリアさんを促して自己紹介。

 さっき既に顔を合わせているから、初めましてというのも微妙かもしれないが、ともあれなんとか自己紹介ができたデリアさん。

 レオがよろしくと言うように鳴いた後、リーザもアピール。

 しかしリーザ……リーザはリーザって、よくわからなくなりそうな紹介の仕方だぞ? 自分の事を名前で言うのが癖だから、そうなってしまうんだろうけど。


「は、はい。よろしくお願いします!」

「デリアさんは、この街とは別の村で育ったみたいなんだ。まぁ、詳しくは後で話すけどな」

「ワウー。ワフワフ」

「リーザと同じー!」

「わうぅ……歓迎、されているんですよね?」

「デリアさんは、レオの言っている事がわかるんだよね? だったら、歓迎されているのはわかると思うよ」


 リーザに応えてお辞儀するデリアさんを、簡単に俺からもレオ達に紹介……デリアさんが拾われたとかそういう話は、屋敷に戻ってから落ち着いて話せばいいだろうからな。

 レオはもう一度頷いた後、先程と同じようにデリアさんの顔をぺろりとひと舐め、リーザは単純に自分と同じ獣人を見て喜んでいる様子だ。

 舐められてまた犬っぽい声を漏らした後、首を傾げるデリアさんだが、俺に確認するまでもなくレオの言葉が分かれば歓迎されているとわかるはずだ。

 もちろん、レオにとって相手の顔を舐めるのは親愛表現のようなものだから、何を言っているのかわからなくても歓迎しているのは伝わってくる。


「あっと……ここでこのまま話し込んでいると、お店の邪魔になるか。ちょっと移動しよう」

「そうですな。レオ様との挨拶は済んだようですので、とりあえずあちらへ……」

「は、はい!」


 お店の出入り口付近で体の大きなレオと戯れていたら、お店を出入りするお客さんの邪魔になってしまう事に気付き、セバスチャンさんに促されて移動する。

 邪魔になっていると気付いたのは、レオと遊んでいたクレアセバスチャンさん達、親御さん達が微笑ましくデリアさんやレオ、リーザを見ていたからだ。

 人の多い場所で、注目されていたみたいだ……ちょっと恥ずかしい。


「ティルラ・リーベルトです。よろしくお願いします!」

「は、はい。デリアと申します。こちらこそ、よろしくお願いします……」


 店から少し離れた後、今度はティルラちゃんとお互いの紹介。

 クレアさんに続いて公爵家のご令嬢と対面し、尻尾をピンと伸ばして緊張しているデリアさんだが、店の中で話して多少は状況に慣れたのか、それともティルラちゃんが子供だからなのか、先程のように緊張し過ぎてはいなかった。

 これくらい話せたら、十分かな。

 精神的な疲れが凄い事になりそうなので、先程デリアさんに滞在を一日伸ばしてもらうようにお願いして良かったかもしれない。

 面談でも当然緊張していただろうし、今日のデリアさんは一生分の緊張を経験したんじゃないだろうか? というのは言い過ぎか――。



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