第759話 レオは子供達の相手が得意でした



 レオが急に飛んだから、不思議そうな声を出していたリーザも俺に気付いたようで、笑顔で迎えてくれる。

 目の前に来たレオを撫でながらただいまの挨拶……帰宅したわけじゃないが、離れてた場所から帰ってきたという意味でな。

 レオの後ろでは、ほとんどが子供の輪になっていた集団が驚きの声を上げていた……あ、俺を見て会釈をしている人達は、以前薬草の販売開始をした時に子供と一緒に来ていた親御さん達だな、俺も会釈を返しておく。


「それで、レオ、リーザ。楽しそうではあったけど、ちょっとだけ様子が違うような感じだけど、どうしたんだ?」

「ワウ? ワウー……」

「えっとね、パパ。なんかね、遊んでいるうちに男の子がママに勝つって言い始めたの!」

「レオに? うーん……」


 予想とは少し違う雰囲気なのを聞くと、レオは首を傾げてよくわかない様子だったが、リーザが代わりに教えてくれた。

 まぁ、レオに勝つのはまず無理だろうな……というのは言葉に出す必要はないか。

 ともあれ、何かの拍子にレオへ挑みたいと考えた男の子がいて、ユートさんの時みたいに遊んでいるみたいに軽くあしらわれたって事かな? さっきの悲鳴っぽいのもそれだろう。

 男の子だから、何かに挑みたい……なんていう衝動とか、少しは理解できるけどよりにもよってその相手がレオとはなぁ。


 あ、ちなみにデリアさんは俺の後ろの方で、さっき以上に体をプルプル震わせて「ここここ、これがシシシシルルルバババ………」なんて、まともに話せない状態になっている。

 ライラさんとセバスチャンさんが、落ち着かせようとしているけど、あの様子だとまだ正面から紹介するのは待った方が良さそうだな。


「知らない人がいるー。あれ、そっちのお姉ちゃん、耳と尻尾があるよ? あれも作り物なの?」

「ワウ?」

「いや、あれは帽子とかみたいに作り物じゃなくて、本物だよ。リーザと同じ獣人だ」

「そうなの!? 同じ人いたんだぁ……」


 レオの上から、デリアさんを見て首を傾げるリーザは、自分と同じ獣人だという発想が出ないのか、耳付き帽子のように作り物だと考えてしまったようだ。

 レインドルフさんに拾われてから、ずっと人間しか周囲にいない状況だったから、自分以外に獣人がいるとは思わなかったんだろうな。


「あ、そうだ。リーザ、クレアを呼んで来てもらえるかい? デリアさん……獣人の事を教えておきたいから。でも、忙しそうだったら無理に呼ばなくてもいいから」

「はーい」

「ワフ?」

「レオは店の中に入れないだろ? ここにいないって事は、クレアは店の中だろうからな」

「ワウゥ」


 今のうちに、クレアを呼んで来てもらうようリーザにお願いする……獣人のデリアさんがいた事を伝えなきゃいけないし、無事に面談が終わったのも伝えたいから。

 素直に返事をして、サッと伏せをしたレオから降りたリーザが、カレスさんの店の方へ駆けて行く。

 その後を、数人の女の子が一緒について行っていたようだから、遊んでいて仲良くなれたみたいだな……良かった。

 レオは、自分も行こうか? と首を傾げたが、レオの大きさではカレスさんの店には入れないため、諦めてもらう。

 そういえば……というように項垂れたレオだが、子供達と遊んで小さかった頃の事を思い出して、自分の体が大きい事が意識の外に行っていたのかもしれない。

 ……リーザを乗せて俺の前までジャンプしてたのになぁ。


「タクミさーん!」

「あぁ、ティルラちゃん。リーザと一緒にいてくれたんだね、ありがとう」

「いえ、私は一緒に遊んでいただけですから」


 リーザを見送ると、子供達の輪の中からティルラちゃんが手を振りながら駆けて来る。 

 多分、急に飛び出したレオの後のフォローを、子供達にしていてくれたんだろう。


「えっと、さっきリーザから聞いたんだけど、レオに挑んだ男の子がいるんだって?」

「そうなんです! 男の子は、リーザちゃんよりちょっと大きいんですけど、遊び始めた時から、ずっとリーザちゃんの傍にいたんです。けど、リーザちゃんがレオ様に抱き着いたり乗ったりしているのを見て、急に怒り始めたんですよ!」

「成る程成る程……でも、さっき聞こえた声は怒っているようには聞こえなかったけど?」


 リーザの傍から離れなかった男の子か……挑んだという事から、さっき俺達が歩いてきた際に聞こえた、楽しそうにも聞こえる悲鳴だったけど……怒っているようには感じなかったんだけどなぁ。

 というか、リーザがレオに抱き着いたりしていて怒り始めたって、リーザから相手にされないと感じてとかだろうか? まさかリーザに惚れたとか……。

 いやいや、ティルラちゃんがリーザよりちょっと大きいという事は、まだまだ子供だろうから、そんな事は……いやでも、子供とはいえ異性を意識する事だってあるわけだし……リーザは可愛いくて優しい子だから、意識してしまう男の子の気持ちもわかるぞ、うんうん。

 けど、その場合は少なくとも俺やレオを倒してから……なんて考えていると、ティルラちゃんが状況を説明してくれる。

 おっと、思考に没頭していたらいけないな。


「何度かレオ様に挑んでいるうちに、笑い始めたんです。多分、レオ様が何かしたんだと思うんですけど……」

「そうなのか?」

「ワフ。ワウーワフ……ワフワフ」


 レオに挑んでいる途中で、馬鹿らしくて笑い始めたというのならわからなくもないが……人間が簡単に勝てる存在じゃないからな。

 レオに聞いてみると、枝を振り回して走って来たから怪我をしないように転がしたり、そのついでに足を使ってくすぐったりしたかららしい。

 くすぐったくて笑っているうちに、なんで怒っているのか忘れて遊びというかじゃれ合う感じで、レオに挑むようになっていったってところかな? 楽しい事に夢中になって当初の目的を忘れるのは、実に子供らしいな。

 うむ、まだまだそんな事じゃリーザを渡せないな……と、いかんいかん、親バカモードはこれくらいにしておかないと。


「まぁ、怪我をさせないように遊んでいたって事だな。偉いぞーレオ」

「ワウ~」

「レオ様嬉しそうです」


 ユートさんもレオにとっては遊びだったみたいだが、子供相手という事もあって、さらに加減をして遊ぶよう誘導してくれたんだろう。

 褒めるように頬の辺りを撫でてやると、気持ち良さそうに声を漏らしていた――。



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