第732話 雇う人達への給金相場を聞きました



「まずは執事ですかな。こちらは、薬草畑のために雇う人員より、高い給金となります。これは、薬草畑の運営だけでなく、全体を見ていますので……」

「はい」


 執事さんが高給なのはわかる。

 屋敷の人達を見ていても完全に住み込みだし、仕える相手が関わる事のほとんど全てを見て、管理しなければいけない。

 主人に四六時中付いて相談に乗ったり、客を出迎えたり、お金の計算をしたり……とやる事が多いから当然だな。

 いわば、社長の秘書とか補佐役に近いわけだ……会社だけじゃなく、プライベートでも家の事を管理したりとする、と。


「こちらは公爵家の方でご用意いたしますので、渡したリストから雇う事は考えなくても結構です。執事教育は、時間がかかりますからな。経験のある者をと旦那様も仰っていましたし、私も同意見です。全体を見るという事は、それだけで大変ですし……タクミ様のギフトの事や、外には出したくない情報の管理、いわゆる守秘義務もありますから」

「そうですね……そうしてもらえるとありがたいです」


 実際に執事さんを雇っている公爵家で、相応しい人を見つけてくれるから、今回は難しく考えないでいい分助かる。

 俺に執事教育なんてできるとは思えないし、信頼できる執事であるセバスチャンさん達が認めた人なら大丈夫だろう。


「相場となる給金に関しましては、また後日実際に執事を雇う段階でお話ししましょう。まだ誰を執事にするかは決まっておりませんし、各々のできる事や能力もありますので」

「わかりました。他には……えっと、畑をするうえで雇う人の方はどうでしょう?」

「そちらは、まず畑を管理する者、調合を管理する者を上位と考えましょう。そして、その下に付く者を下位とし、給金に差を付けるのが通常ですな」

「ふむ……」


 あまり雇う人に差を付けるのは……と思うけど、やる仕事や量などが違うのだから、給金にも違いが出て当然だな。

 上位や下位という区別の仕方はともかく、これはさっき考えていた事だ。


「まず下位の者ですが、ひと月にかかる食費などから計算して、大体金貨一枚と銀貨数枚が相場となっております」


 確か、一カ月の食費が平均で銀貨六枚前後と聞いたような気がする。

 他にも費用がかかったりもするし、そこから税金が引かれると考えたら、食費の倍くらいが妥当なのか……?

 ちなみに、ニックには少し多めに考えて金貨二枚と銀貨二枚と決めてあって、税金……というか所得税のようなものを引いて金貨二枚程度だ。

 初めて給金を渡した時に金貨1枚だったのは、とりあえずの生活費が必要だから、少しだけ前払いをカレスさんに立て替えてもらっていたからだったな。


 立て替えてもらっていた分は、既にカレスさんへ返してある……薬草で儲けさせてもらっているのだから、それくらいは負担しますと遠慮されたけど、ここでも屋敷へ来てすぐの頃と同じように、ちゃんとお金を渡しておいた。

 借金とは違うけど、こういうお金に関してなぁなぁで済ませるのは、あまり好きじゃない。

 カレスさんなら大丈夫だろうけど、後々トラブルになっても嫌だから、きっちりしておきたい……性分なんだろうな。


「上位の者には、ここからさらに銀貨が数枚上乗せされます。あくまで平均なので、仕事内容などによって給金の上下はあります」

「そうですか。他には報酬として加えられたりしないんですか?」

「そうですなぁ……他国では珍しいと聞いた事があるのですが、住居補助という名目や子供補助と称して、さらに銀貨数枚が加えられる事があります。住居補助は、その名の通りその場しのぎで雇われている者ではなく、仕事が行われる場所で暮らす者に対して支払われます。屋敷の使用人も同じくですな」

「住居補助……子供補助……」


 なんだろう、他国で珍しいという事はこの国独自の制度なんだろうけど、どう考えても日本の住宅手当や家賃補助と似たようなものな気がする……子供補助も児童手当だろうし、絶対に日本というか地球……異世界から来た人が作った制度だろうなぁ。

 ユートさん以外に、日本からこの国に来ている人は聞いていないけど、他にいるかもしれないし……それこそユートさんが建国主なのだから、その時に制定したのかもしれないな。


「子供補助は、子供がいる者の家庭に支払われ、成人に満たない子供一人につき銀貨数枚です。こちらも旅行く者が路銀を稼ぐためではもらえず、街や村に根差している者が対象です。ですので、タクミ様が雇われる人員のほとんどはその対象になるかと。……子供がいるかは、人によりますがな」

「子供補助は、本来親が子供を育てられなくなったりする事を防ぐためなのですが……それでも孤児院の子供はいなくなりません。魔物に襲われたり、事故に遭ったりという事情があって、という場合もありますからね。ラクトスは人の往来が激しいので、孤児院は常にいっぱいという状況なのです」

「まぁ……親が全て子供をちゃんと育てられるとは限りませんし、病気になってとかそういう事もありますからね……」


 セバスチャンさんの説明に、クレアが補足をしてくれる。

 口減らし……という理由が少なくなるだけでも、子供補助はいい事なんだと思う。

 俺は子供どころか結婚していなかったので、あまり実感はわかないが、子育てはお金の面だけでなく大変なのは想像ができる。

 住居補助……家賃補助はもらっていたけどな。


「それなら、住居補助も合わせて……低い人でも金貨二枚、管理側の人には金貨三枚としましょう。住居補助は銀貨三枚で、子供がいる人にも一人につき銀貨三枚あたりが妥当ですかね?」

「そうですな……銀貨二枚が平均と思われますので、少々多くはありますが、許容範囲でしょう。しかし、金貨二枚と三枚というのは、少々高すぎではありませんかな?」


 この国の物価を詳しく知らないから、まだなんとも言えないし細かく調整する必要はあるだろうけど、金貨一枚が日本円で十万と考えるなら、二十万から三十万……妥当というかちょっと少ないかも? と思うくらいだ。

 それに住居補助もあれば、いい条件になってくれるだろう……所得税が引かれるから、実際にもらえる手取りは減るが、それでも給金の平均相場より多くもらえるから悪い条件じゃないはずだ。

 お金で釣るわけじゃないが、できる事なら雇っている人には不安なく働いてもらいたいからな。

 さらに、働く年数によっても給金を上げるつもりではあるけど、怪訝そうにしているセバスチャンさんを見ると、今は考えるだけにしておいた方が良さそうだ。

 それに、給金を多くする理由は他にもある――。



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