第721話 車の話から街道整備の話になりました



「なんというか、人の多い場所のほとんどが一定の素材でできた物を使用しています。まぁ、それ自体は石畳と砂利道の中間のような物ですけど……それに合わせて車は、ゴムのタイヤを使用して柔軟性を持たせて、揺れを軽減しているんだったかと……」

「ゴム……ですか?」

「ふむ、聞いた事はありますな。なんでも、伸び縮みのする素材だとか……確か、遥か南の国で作られていると。本当にそのような素材があるのか、本当に作られているのかまでは定かではありませんが……」


 そういえば、天然ゴムってゴムノキっていう木の樹液から作られていたんだっけか。

 樹液からどうやって作るのかとか知らないし、合成ゴムに至っては何がどう合成されているのかも知らないけど……存在はしているみたいだ。

 農業用とかで人の手が入っている植物ではないなら、もしかすると『雑草栽培』で作れるかも? と思ったけど、とりあえず利用方法やゴムの作り方がわからない状態だと、ただ生やすだけで終わる可能性が高いので、今は止めておこう。


「まぁ、俺がいた所の道はゴムを使ったタイヤと呼ばれる物を、車輪に着けて走らせるのに適していたんです。この馬車だと、木の車輪ですよね? 同じ道を作ったとしても、揺れをなくすのはさすがに難しいと思います」

「そうですか……こちらでは考えられない速さで移動するという、タクミ様の知識を使っても難しいですか……」


 残念そうなセバスチャンさんだが、これは移動が速くなる利点に対して以外にも、新しい物を作るのは難しいと知っての落胆もありそうだ。

 まぁ、簡単に解決策が見つかったりはしないよな……この世界ではまだ見つかっていない素材や技術とかが多いだろうから。

 あ、でもそういえば、レンガの道というのもあったっけ。

 あれだったら、石畳より平坦で揺れの少ない道になりそうだし、実際に馬車を走らせていた歴史がある……この世界の歴史じゃないけど。


「一つの案としてですけど、レンガがありますよね? あれを敷き詰めて真っ直ぐ平坦な道を作れば、少しは改善するんじゃないかと……」 

「ほぉ、レンガですか。クレアお嬢様?」

「えぇ、そういった道なら、王都にもあります。確か、街中の馬車が通る道はレンガの敷き詰められた道でした。お父様に連れられて行った時、壮観だったのを覚えています」


 王都にはレンガ道があったのか……なんとなく、ユートさん辺りが作らせたような気がするから、これは異世界からの知識とみていいのかもな。


「石畳もレンガも、もし雨が降った直後であってもぬかるみができないので、馬車を走らせるにはいいんじゃないかと。もちろん、馬も走りやすくなるので、それだけ移動も早くなると思いますよ?」

「ふむ……石は切り出した物を使っているはずですが、レンガは形を変えやすいので、隙間なく道を埋めるのも容易いですな。ただ、レンガの方は耐久性が気になりますね」

「はい。石よりも割れやすいので……長い間使っていると、劣化してしまったり割れてしまう事があると思います。石畳の方が耐久性も高いので、後々の事を考えるといいかもしれません」


 どちらにも、良い部分と悪い部分があるものだ。

 馬車道として一番適しているのは、形を整えて敷き詰めやすいレンガの方だろうけど、メンテナンスを考えたら石畳の方がいいかもしれない。


「レンガの方が、費用の面では安く済みそうですが……先の事を考えると大きな差はあまりなさそうですな」

「まぁ、結局は道を整備するのに費用をかけられるかどうか……ですね。馬車の話から大分逸れた気もしますが、移動時間を短縮するのであれば、そういう事を考えるのもいいんじゃないかと」

「ありがとうございます、タクミさん。面白い話が聞けました。――セバスチャン、お父様にお伺いを立てる必要はあるけど、民達の事を考えると、やって損はないわね?」

「そうですな。ラクトスは特に、人の行き交いが多いので、道を新たに整備するとなると喜ばれるでしょう。増々、色々な物が入って来る可能性もありますな」


 馬車の揺れをどうするか、という話はそのままだけど、馬車やフェンリルの事ではなく街道整備の話になってしまった。

 まぁ、大幅な移動時間短縮とまで言わないまでも、多少なりとも移動にかける日数や時間を減らせるのなら、話して良かったというところかな。


「街道整備となると時間がかかるので、ゆっくり考えて決めないとですね?」

「いえ……どちらにせよ、ランジ村とラクトスを繋げる道を作るので、その際の参考にさせて頂きます」

「え? ランジ村から道を作るんですか?」

「もちろんです。タクミ様の薬草を頻繁に運んだり、クレアお嬢様も行き来する事が多くなるでしょうから。元々、旦那様と相談して、道を作る予定でしたから」

「そ、そうなんですか……」


 薬草畑、道の整備にまで話が膨らんで大きな事業になって来ているようだ。

 予想以上であり、領内に広めると聞いていたから、ある程度予想通りでもあり……。

 なんにせよ、急に領内を石やレンガを敷き詰めて道の整備をするわけにもいかないから、ランジ村とラクトスを繋ぐ道を作って、試してみるのも悪くないか。

 今は街道が途中までしかないし、それも砂利道なうえ、ランジ村に向かう道は整えられていない状態だし、それもあってエッケンハルトさんやアンネさんが馬車で酔ってしまったのもあるんだろう。

 一応、人や馬、馬車が通る事もあるので、道っぽいものはあるけど、整備されているとは言えないからな……そう考えると、いい機会でもあるか。


「……道を作るから、馬を交換する駅馬とかは、必要ないか」

「駅馬……ですと?」

「タクミさん、それは……?」

「え、いや……エッケンハルトさんから、以前聞いたんですけど。急いで長距離を移動する際には、街や村で馬の交換をしたりするんですよね? それの中継地点というかなんというか……」

「ふむ、これはまた面白い事を考えていますな?」

「そうね、セバスチャン。――タクミさん、詳しく聞かせて頂けますか?」


 移動時間の短縮するための要素として、もう一つ浮かんでいた事を呟いたら、セバスチャンさんとクレアに食いつかれた。

 これは、生き物を扱う事だから、道の整備よりさらに費用がかかるし、維持もして継続的にしなきゃいけないから、道を優先して却下しようと思っていたんだけど……。

 でも、とりあえず今はちょっと長話をし過ぎたようだから、次の機会にさせてもらった方が良さそうだ――。



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