第713話 フェンリル達に今日は泊まるよう説得しました



「でも、さすがに食べ物だけで満足したりは……するのかな?」

「ワウワウー、ワフ!」

「野生に近い程食べ物は大事、か……わからなくもないけど、最後に多分を付けられたら怪しくなるぞレオ?」


 首を傾げながら呟くと、レオから食べ物は大事との主張……最後に多分! となぜか自信満々に言われても、本当に信じていいのかわからなくなってしまうが、ここは信じておこう。

 お腹いっぱいになるまで食べて、満足そうにしながらお腹を見せて転がり、撫でられて気持ち良さそうにしている姿からは、野生をちっとも感じないが。

 モコモコの毛をしているフェンリル達は、俺からすると体が大きい事以外は、ランジ村にいた犬達と同じにしか見えないな……フェンリルの方がしっかりと意思表示もするし、会話も成立するけど。

 というか、ランジ村でもそうだけど、最近周囲に犬関係の事が多い気がする……まぁ、偶然なんだろうけど。


「グルゥ、グルル」

「ん、どうされたのですか?」


 しばらくお腹を撫でられていたフェリー達が起き上がり、クレアさんの後ろにお座りして鳴いた。

 何かを伝えたいようだ……こういう時は、リーザに頼むのが一番いいかな。


「リーザ、お願いできるか?」

「わかったー。えっとねぇ、そろそろ森へ戻るって言ってるー。……ふぐふぐ」


 フェリー達のお腹を撫でるのに満足し、俺の隣に座ってコクコクと牛乳を飲んでいたリーザに頼むと、すぐに通訳してくれた。

 それはいいんだけど、口の周りに白いひげができているから、ちゃんと拭こうな? 可愛いけど……あ、ゲルダさんありがとうございます。

 そっと差し出されたタオルを使って、通訳してくれたリーザの口周りを拭く……リーザの向こう側でレオが顔を近付けて、舐めようとしていたみたいだが、お前も牛乳を飲んだ後だから余計に被害を広げるだけだからな?


「そうですか……ですが、もう完全に日も暮れて暗いでしょう。大丈夫ですか?」

「グル、グルルルゥ、グルル」

「ありがとー、パパ。えっと、問題なく、暗くても鼻が利くので棲み処に帰るくらいは、簡単な事。だってー」

「ありがとう、リーザちゃん。そうですか……でも森にはフェンリル以外にも魔物がいますし、多少なりとも危険があるのではないのでしょうか?」

「グルル、グル!」


 リーザの通訳を交えながら、フェリーとクレアが話す。

 フェンリル側は真っ暗でも問題なく森に戻って、群れのいる住処へ戻れるらしいけど、クレアはそれでも心配な様子……というより、もう少しシェリーとフェンやリルルを一緒にいさせてやりたいと考えているようだ。

 今も、フェンの背中に乗って顔を寄せたリルルとじゃれ合っているようだし、いくらクレアと一緒にいる事を望んでいても、両親と過ごす時間も作ってあげたいんだろうな……チラチラ視線を向けているから。


「では、明日までこの屋敷に留まって、明るいうちに森へ向かうという事でどうでしょう? 先程のハンバーグも、またお出しできますよ?」

「グルゥ!? グル……グルルル」

「えっと、ハンバーグに喜んでいるみたいだよー。あと、それなら明日までよろしくお願いしたい、って言ってるよ」


 ハンバーグと言われて喜んでいるのは、俺にもわかった……尻尾がブンブン振られていたし、なんとなく嬉しそうな表情になったからな。

 フェリー、ハンバーグを食べている時の様子からして、気に入ったのはわかっていたけど、釣られてしまうようになってしまったかぁ。

 罪深い料理を作ってしまったようだ……なんて冗談は置いておいて、野生で暮らしていたら肉を捏ねて焼くなんてしないだろうし、上にかけるソースを作ったりしないからな。


「タクミさん、明日もハンバーグを作ってもよろしいですか?」

「あれはヘレーナさんに教えたから、俺のものというわけでもないし、いいと思うけど……でも、クレアはいいのかな?」

「私は……ヘレーナに言って、別の物を用意してもらいます。本当は食べたいのですけど……」

「ハンバーグを作るなら、リーザも手伝うー!」

「そうだな、リーザも一緒に作ればいいか。わかった、それじゃ明日もまたハンバーグを作ろう」

「はい、ありがとうございます」

「グル、グルゥ」


 ハンバーグは俺が作り方を教えたものだけど、アレンジも含めてもうヘレーナさんに任せてあるので俺に許可を取る必要はないんだけど……一応、俺が発案したものとして気を遣ってくれたんだろうな。

 リーザはすっかり料理の手伝いにハマったようで、右手を挙げて嬉しそうにしていたので、断る理由もないから明日もハンバーグという事になった。

 さすがに、ダイエットとかカロリーを気にしているクレアは明日もハンバーグを食べたりはしないようだけど……俺も、ヘレーナさんに言って別の料理を用意してもらおう、一人だけ違う献立というのも手間だろうからな。

 それに、ハンバーグも含めて手伝える料理を手伝えば、多少はヘレーナさんの負担も減るだろう。


 ちなみに、さっきから尻尾を振っているフェリーは、ハンバーグを作る許可を出すと、俺に対して頭を下げた……感謝する、と言っていたらしいのはリーザ談。

 フェンやリルルは気にせずシェリーを構っているのに、礼儀正しいのは群れのリーダーだからなのだろうか?


「それでは、フェンリル達が休める部屋を……セバスチャン?」

「はい、すぐに用意させます……」

「グルゥ? グルル、グルゥ!」

「部屋? そこまでしてもらわなくとも、我々は適当な場所で寝ます……って言ってるよ?」

「ですが、お客様でもありますし……」

「グルルルル、グルルゥ。グルゥグルルゥ!」

「この場は安心していられる場なので、ここで休ませて頂けるだけで十分です。格別の配慮? を賜り、ありがたく思います……ってなんだろう?」

「ちょっとリーザには難しかったな。でも、ありがとう」

「ワウ」

「えへー」


 フェリーは難しい言葉を知っているようだが、リーザには難解だったようで首を傾げていた。

 それでもちゃんと通訳してくれたのを褒めるため、耳と一緒に頭を撫でてやり、レオも頬を擦り寄せてリーザは照れ笑い……うんうん、頑張ったな――。


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