第681話 住居のための準備は進んでいるようでした



「タクミ様、先程村長より伺ったのですが、近くの川と繋げて水道の整備を開始しています。本来は私共が手配するべき事なのですが、村の者達が少しでも協力したい、と言っているようです。その工程が終了し次第、お住まいになる建物の建設を始めたいと考えています」

「そうなんですか、わかりました。段取りについて俺はわからない事が多いので、すみませんが……」


 広々とした場所を見渡し、なんとなくではあるが家を建てて畑を耕して……と想像していると、朝食後からハンネスさんと話していたセバスチャンさんが、いつの間にか来ていて教えてくれた。

 ランジ村の人達が協力してくれるのはありがたいけど、無理をしなければいいなと思いつつ、わからない事が多いので、基本的にセバスチャンさんに任せてしまう事を謝りつつも、お願いをしておく。

 この世界に限らず、俺に建設に関する詳しい知識なんて持っていないのだから、わかる人に任せた方がいいと思う。

 もちろん一人で全てをというわけじゃないだろうが、セバスチャンさんに任せておけば、失敗する事はないだろうし信頼もできるからな。

 当然だが、俺が決めなければならない場合は相談してくれるだろうし、わからない事があったら聞けば教えてくれるだろうから、頼れる人だ……その時その時で説明してもらった方が、セバスチャンさんも喜ぶだろうし。


「というか、水道の考えがあるんですか? もしかして……上下水道も? 屋敷にはなかったと思いますが」

「屋敷は、古い建物なので……そういった設備を備えようとした場合、一から建て直す事になります。ちなみにですが、屋敷には下水が繋がっており排水する設備はあるのですよ。本邸は設備が整っていますが、あちらは新しいですからな。費用がかかるので、一部のお金持ちくらいしか備える事はできませんが……」

「……そういえば、風呂のお湯を抜くような、排水溝があったような気はしますね」


 セバスチャンさんの言う、水道というのが気になって聞いてみると、こちらの世界でも水道……上下水道があるらしい。

 さすがに工費がかかってしまうので、大きな家やお金を持っている人しか設備を備えられないようだけど、本邸にはあるのか……さすが公爵家。

 言われてみれば、確かに風呂場には排水溝があったように思う。

 屋敷が古いために上水はないらしいが、知識がないからわからないけど、上水を備えようとしたら水道管を建物内に通す必要があるだろうから、便利に過ごそうと思うと建て直す方が早いのか。

 下水は、最低限排水できればいいから、なんとか外と繋げたんだろう……どうやったのか知らないけど、風呂場は屋敷の中にあっても、壁一枚隔てて外という配置だから、やりやすかったのかもしれない。


「あとはそうですな……国の政策で、一定以上の大きさを持つ街であれば、下水は整備されております。歴史書によれば、そのおかげで暮らす人々の清潔さが保たれる事に、とありましたな」

「あー、確かに下水がなければ、色々と困りますよね」


 この世界で下水ができるまでどうだったのかは知らないけど、ヨーロッパとかでは酷かったらしいからなぁ……。

 黒死病だっけ? 酷い疫病が蔓延したりとかもあったらしいし……確実な原因がそれだとまではわかっていないようだけど、下水ができて改善されたって話は聞いた事がある。

 真実かどうか、俺は歴史じゃないからわからないけども。

 しかし、上水の方はどうやっているんだろう? 下水の流す先とかも気になるし……そういった技術って、難しそうな気がする。


「……タクミ君、昨日話したでしょ? こちらにはタクミ君のような人がいるんだよ。だから、そういった知識だってもちろん……ね?」

「あー、そういった知識がある人がいても、おかしくないって事かぁ」

「そういう事」


 俺がセバスチャンさんの説明を聞いた後も、首を傾げていたのを見て、何を疑問に思っているのか察したユートさんに教えられた。

 そうか……俺には専門的な知識がないけど、他に日本のある世界から来た人がいるのなら、そういった知識がある人がいてもおかしくないか。


「まぁ、その知識を使って、革命を……なんて事はできないんだけどね。ちょっとした問題があって。ともかく、俺がこちらに来てから出会った人の中に、知識のある人がいたんだよ。あの時は助かったなぁ……それまで大変だったし」

「そ、そうなんだ……」


 過去を思い出してか、遠い目をするユートさん。

 まぁ、下水道とか排水溝はないのに人が多い場所……とか考えると、どういう状況かある程度想像できるな、あまり考えたくないが、そこらに肥溜めがあるようなもんだと思う。

 ラクトスに行った時に嫌な思いはしなかったし、上下水道の知識を持っていた人というのに感謝だな、うん。

 ちなみにセバスチャンさんは、王家に属するユートさんを邪魔してはいけないからと、話し始めてすぐ後ろに下がった……執事として、対外的には出過ぎないように気を付けているようだ。


「あぁそうそう、この刀も同じように、そういった知識がある人に作ってもらったんだよ。一応、技術の継承も含めてね。ハルトに聞いたけど、タクミ君も使っているんでしょ? 今は持っていないけど。まぁ、あまり他に出さない技術としているけどね。ほら、叩き斬るのが主体な剣と比べると、異端でしょ?」 

「まぁ、考え方が違う武器だからね。あまり知識はないけど、多少使うだけで違う物だというのはわかるかな。そうかぁ、ユートさんが作らせたんだ……」

「作り方も特殊だからね。剣と違って工程が多いし……昔真似して作ったんだけど、完成するどころか折れて無駄にするだけだったよ」


 上下水道だけでなく、刀も異世界から来た人の知識が元だったらしい。

 まぁ、この世界にある剣の考えよりも異質な物というのはわかるから、最初から知っている人が作ろうと思わなければ、できなかったのかもしれない。

 てっきり、どこかの変わり者が作ったのが最初かなと思ったけど、刀を知らない人ばかりの中だったら、刀鍛冶の技術が確立されたりはしないか。

 片刃というだけならまだしも、刀身を薄くして斬る事だけを考えられた武器……とも言える物だし、魔物のいる世界では必ずしも役に立つとは限らない。

 あくまで、日本の刀は人間が相手だからこその武器だとも思う……一部には、馬ごと斬るような物もあったらしいけど、それはそれで特殊な物だしな――。



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