第680話 リーザが犬達に懐かれました



「ワフー!」

「レオ様の事を熟知しているタクミさんだから、できる事ですね。私達だけだったら、どう機嫌を取れば……なんて考えて戸惑うばかりだったかもしれません」

「ワンワン! キャン! キャン!」

「ははは、まぁ、レオだけでなく、動物相手には言葉だけじゃなく、こうして素直に構ってやるのが一番なんだと思うよ」


 レオを構って満足させてやりながら、クレアと話して、自分も! と主張しているマルチーズが吠えるのに苦笑しながら、そちらもちゃんと構ってやる。

 どちらか一方だけだといけないが、両方構ってやれば問題ないだろうからな。

 ちゃんと自分も構ってくれるんだとわかると、マルチーズを撫でてもレオは仕方ない……と息を吐く程度で済ませてくれた……その時にも、ちゃんとレオの体を撫でてやっていたり、クレアも撫でていたおかげもあるんだろうけど。



「ワンワンワン!」

「キャン! キャン!」

「わー! わぷぷぷぷ……」

「リーザちゃん! 大変な事になっていますよ、タクミさん!」

「はははは……皆に好かれてますねー。獣人だからかな? 昨日会ったばかりなのに、皆嬉しそうで……」

「ワフ!」

「……パパぷぷ! マぷ! 助……!」


 そろそろ朝食の時間になるだろうと、マルチーズをレオの頭に乗せ、クレアと一緒に移動して村の広場まで来ると、地面にひっくり返ったリーザに、色とりどりの犬達が群がっている様子に出くわした。

 ある犬はリーザの尻尾にお腹を見せて転がり、ある犬はリーザのお腹に立ち、ある犬二匹はリーザの両手それぞれに頭を擦り付けて撫でるように要求したり……さらに数匹がリーザの顔に群がって、楽しそうにぺろぺろ舐めている……あの勢いでやられると、喋るのに苦労するだけでなく、呼吸も邪魔されたりするんだよなぁ。

 どの犬も尻尾をブンブン振っているから、楽しんでいるのがよくわかるな、リーザが打ち解けられたようで嬉しい限りだ……。

 レオも俺に同意するように鳴いている。


「タクミさん、リーザちゃん苦しそうなのですけど……?」


 おっと、微笑ましく見ている場合じゃないな……苦しそうだから、そろそろ助けてやらないと。

 やり過ぎて、リーザが犬嫌いとかになっちゃいけないからな。

 ……大丈夫だとは思うけど。


「はーい、そこまで。リーザと遊べて嬉しいのはわかるけど、程々になー?」

「ワウー!」

「ワン!」

「キャン!」

「……パパ、ママ、助けるのが遅いよぉ」

「ははは、ごめんごめん。楽しそうだったからな……リーザは楽しくなかったか?」

「ううん、楽しかったけど……ちょっと勢いが強くて……」


 レオと一緒にリーザに近寄り、群がっている犬達を一匹ずつ引き剥がしてやる。

 言い聞かせるように言葉をかけたけど……理解していないようで、今度はレオへと群がり始めた犬達……やっぱりレオやシェリーのようにはいかないか。

 朝から元気な犬達はレオに任せ、口をとがらせて抗議するリーザに手を貸して、起き上がらせながら謝る。

 まぁ、獣人でオークを倒す事ができてもまだ体が小さいから、犬達に群がられたら勢いに負けて地面に倒されてしまったんだろう……そうなったら数の多い犬達が有利だからなぁ。



「リーザちゃん、楽しそうでした」

「うんうん。私も、あんな風に懐かれたいなぁ。嫌われているわけじゃないんだけどね」

「楽しかったけど、ちょっと大変だったよ……」


 リーザを救出して、朝食を頂いている時にティルラちゃんやロザリーちゃんに、羨ましがれるリーザ。

 二人共、朝起きて犬達を構っていたら、一斉にリーザへ向かって走って行ったのを見ていたからだな。

 耳付きの帽子を被りながら、楽しそうに話をする子供達を見て微笑ましく思いながら、用意された料理を俺も食べる。

 朝食は、昨夜の歓迎会に続いて外にテーブルや椅子を用意して、皆で頂いている。


 俺やクレアさん、エッケンハルトさんだけならハンネスさんの家に入るんだが、ティルラちゃんやリーザの子供達も含めると、ぎゅうぎゅう詰めになるからといった配慮からだ。

 そもそも、レオが家に入れないからな……ラーレもいるし、護衛さんや使用人さん達の事も考えて、全員で一緒にとなった。

 ユートさんやルグレッタさんも一緒なんだが、エッケンハルトさんと話しながらも、俺やクレアさんに近付いて来ないのは、昨夜の事があったからだろうなぁ。



「……広いなぁ」

「ワフワフ」

「レオ、走り回れるのは今のうちだぞ? 畑になったら、迂闊に走り回れなくなるからな?」

「ワウー!」

「キィ!」

「ラーレも行くのですよー」

「ママ負けるなー」

「おおう、レオ様張り切っています」

「ワン!」

「キャウー!」


 朝食の後は、皆で予定されている薬草畑や、住処を建設する予定地へ。

 場所は当初の考え通りに、村の北側で、ハンネスさんの家から村の柵を越えた辺りだ。

 遠くに森が見える以外は、現状でその場所には何もないため、考えていたよりも広い範囲になるのを見て確認し、少しだけ呆けてしまった。

 隣でリーザとロザリーちゃん、マルチーズを乗せたレオが遊びたそうにしていたので、屋敷の裏庭以上の広さを走れるいい機会だと送り出す。


 畑ができたら、耕した場所を走りまわれないだろうし、薬草を作っていたら踏んでしまってもいけないから、今のうちにだ。

 レオと一緒に、ラーレに乗ったティルラちゃんが低空飛行で飛び、それを追いかけるようにシェリーも走り始めた。

 皆、広い場所で伸び伸びとできるのが楽しそうだ……ラーレとかは、もっと広い空を飛んでいるはずなのにな……皆と、というのが重要なのかもしれない。


「へぇ~、この場所をタクミ君がかぁ……どう、自分の城を持つ気持ちは?」

「自分の城って言われても……まだ何もないから。実感も何もないかな、ただ広いなぁとだけ……」

「そういうものだろうね。僕なんて、本当に城を作っちゃったからねぇ。周囲に言われて大きく作ったけど、広すぎてどうしようかと思ったよ、ははは」


 まだ何もなく、レオ達が走り回っているだけなため、特に実感というものはないけど……城というのは大袈裟だろう。

 まぁ、自分の家を持つ事を城を持つっていう、比喩なんだろうけど。

 それはともかく、ユートさんは文字通り城を持っていた人だから冗談に聞こえないんだよなぁ……国の象徴でもあるから、大きく作ったり荘厳にしたりというのも重要だろうし。

 笑っているユートさんは、大きなお城で暮らしていた人には見えなかった――。


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